メリハリのある魅惑の書棚とレイアウト

入り口の前には雑誌がたくさん置いてある。向かって右側が木箱で左が…… あれ? これ、スーパーのカートじゃないか。こんな所に入れてある。おもしろい。

書店入口としてめずらしいたたずまい。通行人もふと目を奪われる。

店の中に入ると今度は絵本が何冊も表紙を見せてお出迎え。これまたおもしろい。さしあたり、ウェルカムドリンクならぬ「ウェルカムブック」という感じだろうか。

「新刊書店と違って、古書店というとどうしてもまだ入りにくいという方もいらっしゃいます。それを少しでも緩和させたくて、手に取りやすい雑誌を外に置いたり、女性もスッと入れるように店内の最前列に絵本を置いたりしています」

店主の二見彰さんはこう語る。

絵本が置いてあることが一目でわかるように、表紙を見せている。

およそ18坪の店内に約2万冊がビッシリ。それぞれの棚の見せ方に工夫があり、なにやら天井のほうもにぎやかで楽しい。そしてジャンル、というよりキーワードといったほうがいいだろうか、「ここは猫の本」「パリやフランスの本」「お酒の本」といった感じできめ細かく棚が編集されていることがよくわかる。

お酒の本はこうして小箱に。
ヨーロッパの本の棚だが、例えば「アイルランド」だけでもこれだけ並ぶ。
写真集や画集、図録など大判の本も多い。

「できるだけ見て楽しんでいただけるようにしているつもりです。全体の中で確かにビジュアルの大判の本が多かったり、絵本や児童書が多かったり、ということはありますが。でもそれは“こういう店にしたい”という私の意向ではなく、売ってくださるお客さんから本を集めて行った結果、自然にこうなっていったものですね」

「オレの店」だったら20年も続かなかった

オープンは2000年だから22年続いている。「こんなに長くやるなんてまったく思ってもみなかったです」。20代はバンド生活に明け暮れたという二見さん。

「古本屋さんで働いて勉強させてもらって、『面白い仕事だ、自分もやってみようか』と、深い考えもなしに始めました。生まれが祐天寺なので、土地勘のある東横線沿線で探して、駅から近い良い物件に出会えたのも幸いしたと思います」

オープン当時の二見さんには、いわば気負いと勢いがあった。店全体に木材を生かして温かみを出し、木材どころか樹木そのものも天井に渡して、そこに写真やポスターを掛けてみたりしている。

壁にあえて板を打ち付け、こうして絵を飾ったり。こちらは長新太さんの作品群。
ここにも樹木。そしてなぜアコーディオン? なぜ番傘?

「始めた当初は、自分の店が持てるということで内装も普通の本屋がやらないようなことを考えたりました。無機質なコンクリより木の風合いのほうが合うと思ったし、ポスターやら写真やら、本棚以外にもいろいろ主張していましたね」

このあたりの話をする時、二見さんはとても恥ずかしそうだ。

「オレの店、なんて意識があったのは最初の1年くらいです。あとは来てくださるお客さん、この地域の方々の好みや趣向で、だんだん棚の本も決まってきました。本って、何年やっても自分が全然知らない本にいくらでも出会えるのが楽しいんですね。狭い自意識なんてすぐに吹き飛んでしまいました」

とてもシャイな店主の二見彰さん。
店の奥行き。「店主と顔を合わせずにゆっくり見てもらえるよう、レジカウンターはいちばん奥にしてます」

東京の古書店は火曜定休の店が多いが(古書組合の市場が火曜にあるため)、『流浪堂』は木曜日。これも来てくれるお客さんと関係がある。

「よく美容師の方が、ヘアスタイルの参考などで、雑誌を見に来てくれるんです。美容業界って、関東はだいたい火曜定休なんですね。それで火曜は開けておきたいと思い、なんとなくいちばん人の少ない木曜日をとりあえずお休みにしています」

「ずっと続けなきゃ」。3.11をめぐる思い

店を20年続ければ、もちろんいくつかの大きな変化はある。例えばその一つがギャラリーの開設。本屋さんの中にギャラリーがあるなんて、これもめずらしいし、おもしろい。

レジ横の「謎の小部屋?」というたたずまいでギャラリーがある。

「当初はここ、男の小部屋というか、アダルト商品を置いたりして遊びの空間にしていました。でもそうした需要もだんだん無くなってきます。どうしようかと思っていたんですが、ここに来てくださるお客さん、作家活動されてる方も結構多いんですね。若い作家さんなんてあまりお金もないし、通常のギャラリーを借りるのはまず無理。『じゃあ、ウチでやればいい』と。今では先々まで予約でいっぱいです」

レンタル料、作品が売れた場合の手数料とも格安。だからこのギャラリーは稼ぐためのあらたなツールというより、店を有効活用してもらうためのアイデアだ。

そして「ここは自分だけの店ではない」という二見さんの思いが決定的になったのは、2011年3月11日、あの東日本大震災の時だった。「店の棚は崩れに崩れました。でも、なんとかすぐに修復させて、営業を再開したいと思いました。というのもぼく自身、いつもの『日常』を強く自分が欲していることがよくわかったからなんです」

この楽しい本の置き方も、地震という「非日常」がやってくると……。

今からちょうど10年前。憶えている。やむなくクローズする店が増え、危険回避の意味でも電気が消え、街は暗くなった。灯りがほしい。開いてる店がほしい。

『流浪堂』は閉めなかった。

「3.11のあと、店で話していかれる方がすごく多かったんです。『親類が東北に住んでいて連絡が取れない』とか、いろいろな方がいました。こちらはただお聞きしているだけで何もできません。でも、ふと思ったんです。身内でも恋人でも友人でもない。でもまるで無関係でもない。お客さんと店員という微妙な距離感が、こういう時にはけっこう良いんじゃないか。こういう場所だから話せる、そういう意味で、どこか気持ちの拠り所にしてくれている人がけっこういると思ったら、よし、これからも店は続けていく、ここは自分の都合だけで閉めちゃいけないんだ」と思いました。

話してもいい。話さなくてもいい。常連になってもいいし、時々行くだけでもいい。流浪堂はいつもここにある。いつまでも見飽きない棚が、本がある。一人でも、小さな子連れでも満足できるうれしいお店。

学芸大学には駅から徒歩30秒(!)のすばらしい新刊書店『恭文堂書店』があり、流浪堂の目の前にはこれまた洋菓子、ケーキが最高の『マッターホルン』がある。お出かけの際はぜひ、ハシゴを。

住所:東京都目黒区鷹番3-6-9 サニーハイツ103/営業時間:12:00~22:00/定休日:木/アクセス:東急電鉄東横線学芸大学駅から徒歩3分

取材・文・撮影=北條一浩