Infront of the back《後ろの正面》

いやぁ、これはじつに見事です。立てたばかりの新品であることは足元のコンクリートの生肌を見ればわかります。

お察しの通りこの写真は車道から見た裏側で、文字情報の載せられた表側は歩道側に向けられています。市区町村が設置する「住居表示街区案内図」というやつです。

このような立て看板は本来は形状的に壁面沿いに──つまりは背面を見えないように塀や垣根に向けて設置するのが理にかなっているはずなのに、地権者との相談でその道理が通らないケースが多々あるのでしょう。結果的にマンション再開発の際にきれいに整備されたはずの並木や街路照明の配置が台無しに……。歩道側からこの看板を見る人には車止めの置き石がじゃまと思われているに違いありません。

なんとも心がもやもやしたまま散策を続けます。

The window which fell to earth《地上に落ちてきた窓》

たしかに、車道側からの景観を考えたら背面の塗装色は白でなく灰茶色や深緑色などのアースカラー系が無難でしょう。

街区案内図の背面の塗装色は行政区によって定められているのか、都心のこちらのエリアでは思い切った勢いで黒く塗られていました。だいぶ目立たなくなりましたがフレームは白のままなので完全には景観に溶け込んでいません。道の反対側の歩道から見たら偶然にもビルの窓が同じ形で並んでいて、むしろ笑いがこみ上げてきました。

〈地上に落ちてきた窓〉はデヴィッド・ボウイの「地球に落ちてきた男」にならっての命名です。「ジギー・スターダスト」の鼻歌が思わず出てきました。

Monitoring nothing《無を監視するカメラ》

無言板を斜め45度上から見下ろす監視カメラの存在に気がついてハッと息を飲みました。

無を監視するとはなんて禅的な存在だろうと思ったらこれもただの裏面で、カメラは街路案内図の書かれた向こう側に向いているんですね。マンションの共有地で、訪問者を24時間すべてモニタリングして記録しているに違いありません。

それにしても街路案内図看板の背面が露出してしまう問題、どうにかならないものかと考え込んでしまいました。

Tap here to get info《タップしてゲットして》

なるほど、これはひとつの解決方法です。

空港で見つけた案内板ですが、案内所や情報コーナーを表す丸に小文字の「i」のサインを裏面に大きく掲示することで、遠目にもここに案内板があることがわかります。

ちなみに、撮った写真をスマートフォンに表示してみたら思わずタップしたくなりました。「i」のマークがちょうどアプリや何かのアイコンと同じサイズに見えたのです。今これをスマホで見ている方、どうですか? もちろんタップしても何も出てきません(代わりに写真が拡大されます)のであしからず。

Shadow painting《影の絵画》

大きな案内板の白い裏面に木々の影が映ってまるで屛風絵のような構図を作り出していました。

写真を撮るためにその場でしばらく眺めていると、日差しの加減によって影の濃淡が揺らめいたり、時間の経過で微妙に構図が変化したりしていくのです。何も書かれていない背面が、流れる時間やうつろう光景を映すスクリーンの役目を果たしていることに感心しました。

悩ましき案内板の背面露出問題は、なまじ人の手に負えるものではなくこうして自然の力でまったく別のものとして解決されうるものなのかもしれません。

文・写真=楠見清