On your mark《位置について》

公園の真っ直ぐな道の真ん中に真っ白な立て看板が置かれていました。何かが書かれていたはずなのに文字は消えてまったく読めません。それでもこの位置に置かれているのにはどんな意味があるのでしょうか。

よく見るとこの看板はちょうど敷石の線の上に置かれています。そして、この線まで歩いていき看板の隣に並んだときふと思ったのです──目の前に直線コースが広がるこの感じ、運動会のスタートラインに立った感じに似ていると。

そう思うと4本足の背の低い看板がまるで両手を地面について屈んだ短距離ランナーのように見えてきました。

位置について、用意!……ピストルの音を心の中で待ちます。

Watch dog《番犬》

別の公園の入り口付近でやはり4本足の無言板に出合いました。

茶色でがっしりとした体格。じっとたたずんでいる気配が大型犬を思わせます。

文字が消えて無言となった今ではまるで通行人を睨んで威嚇する番犬のようです。

Staticism of Dog on a leash《鎖に繋がれた犬》

シャッターの閉まった店先に金属の看板がぽつんと置かれていました。よく見ると首のところから鎖が延びて柱に繋がれています。首を少し傾けてじっとしている様子はオーディオ・メーカーの白い犬のように穏やかです。

イタリア未来派のジャコモ・バッラの代表作《鎖に繋がれた犬のダイナミズム》は、歩行中のダックスフントの足がギャグマンガの走る足のようにシャカシャカと写っている写真作品ですが、こちらの《鎖に繋がれた犬》はじっと静かにお店の開くのを待っています。まさかお店が開いたらシャカシャカとはしゃぎ出すんじゃないでしょうね。

Leashed weeping thing《号泣顔》

紐で繋がれた背の高い看板。遠くから見た瞬間に視線が合いました。

目のように見えた2つの丸は「駐車禁止」のマークで、並べて貼られたステッカーが流れ落ちる涙のように長く垂れ下がっています。繋がれているのがよほど悲しいのか、この号泣の表情がしばらく心に焼き付いてしまいました。

Eight ten《8時10分》

看板の剥がれた痕跡による〈糊跡無言板〉ですが、対角線上に貼られた黒の両面テープが何やら時計の針のように見えます。

時刻は8時10分。中学生が遅刻遅刻〜とパンを口にくわえて飛び出していく時間ですね。5分後、誰かにぶつかって新しい恋が始まることを朝ドラを見ている親は知りません。

Hovering giant sugar cube《浮遊する巨大角砂糖》

一瞬トリックアートか何かと思いましたが、よく見ると本当に三次元でした。ビルの角の部分に直角に貼られた2枚の看板がきれいに無言化した結果、宙空に白い立方体が浮かんでいるのです。

ビルの谷間に現れた大きな角砂糖が、次の瞬間このエスプレッソ色の街並にぽちゃんと落ちて静かに波紋を広げる光景が頭に浮かびました。

文・写真=楠見清