東京駅の改札口に、ひときわ目を引くものが……

2021年1月。

東京駅の日本橋口、東海道・山陽新幹線のりばの改札口に、ひときわ目を引くホワイトボードがある。「こちらは、東海道・山陽新幹線の改札です」という案内板ではあるのだが、余白に描き込まれた車両のイラストが妙に熱がこもっている。東京駅には、JR東日本、JR東海、東京メトロの各社が乗り入れていて、この改札口はJR東海の管轄。だが描かれている車両はJR東海のものに限らないばかりか、東京駅に乗り入れてさえいないものもある。だが、そんな大人の事情を吹き飛ばす勢いでイラストは細密で的確に特長をとらえているのだ。ここには技を極めた職人がいるにちがいない。そう確信して取材申請をしてみた。

2021年2月。

現れたのは、松岡大雅さん。JR東海に入社して8年目の25歳。2014年春に入社、6月に東京駅配属、現在は改札口や精算所がおもな業務だ。

「日本橋口は東京駅のいちばん端っこなので、在来線の乗り場がわからなくて迷っていらっしゃる方が多いんです。それで案内ボードを設置するようになって、せっかくならスルーしないでちゃんと見てもらえるように、絵を入れて書いてみようと思ってはじめました」。

JR東海社員ではあるが、ずっと東武沿線に住んでいることもあって、好きな車両は特急「リバティ」。「こっそり東武の車両がいます」。

自分の記憶だけで描いている⁉

2021年3月。

松岡さんは鉄道が好きで、幼いころから電車のイラストを描いていた。とはいえ、どこかで習ったわけではなく、現在に至るまで独学だ。好きだからこその観察眼なのかもしれない。ホワイトボードのイラストは、日本橋口改札に泊まりで入ったシフトのとき、休憩時間に描いているという。描き上げる時間は「だいたい2~3時間くらいです。けっこう描き直したりもします」。

ときどき一部の車両を変更したりすると、ダイヤ改正の表記のように、日付と「修」をボードの上部に書き加えていたりもする。取りあげる車両は、改造されて塗装が変わった、新車の試運転が始まった、もうすぐ引退など、そのときどきの鉄道トピックでもある。そうなると自社の車両以外のものも登場することになるのだが、「そろそろ怒られるかなって思いながらやってはいます(笑)……。が、上司にも応援してもらってます」。

2021年6月。
東京~大垣を結んだ快速「ムーンライトながら」が引退したときのもの。車両の変遷を描いた。

松岡さんは車両だけなく、季節の花や行事も背景に描いている。鉄道が日常の風景として伝わってくるのも行き交う人が足を止める一因だろう。一枚のホワイトボードが伝えているのは、情報だけではないのだ。

取材・文=屋敷直子 撮影=佐々木直樹
『散歩の達人』2021年9月号より