【芳賀・宇都宮LRT ライトライン】
交通網の潤滑油となる幸せの黄色い車両
停留場は全19カ所。宇都宮駅東口~宇都宮大学陽東キャンバスは一般車道との併用区間、そこから清陵高校前までは専用区間、清陵高校前から終点までは一部の高架区間などを除き再び併用区間となる。架線電圧は国内初の直流750Vを採用し(一般の路面電車は600V)、最大67パーミルの急勾配も上れる電気エネルギーの安定供給を実現した。運賃は150~400円を予定。☎028-632-2305(LRT企画課)
鬼怒川で分断されている東西を繋ぎたい
雷がやって来る。しかも飛び切り強烈な奴が……。そんな噂を聞き、やってきたのは宇都宮駅。
東口に出ると、新路面電車の芳賀・宇都宮ライトレール(以下LRT)のポスターが貼られ、駅前にその架線用と思われる電柱が立っている。高まる期待を胸に、平石停留場近くの車両基地へ車で向かう。と、遠くに黄色い流線形の姿が見えた。LRTの新車両、ライトラインだ。
雷の多い宇都宮が 「雷都(らいと)」と呼ばれることなどから、その名が付いたライトライン。路線は宇都宮駅東口と芳賀町の約14.6㎞を結んでおり、路面電車の完全新規路線としては1948年開業の万葉線 (当時は富山地方鉄道伏木線) 以来。なぜ宇都宮に路面電車、なのか。
「昭和後期に芳賀町や宇都宮市東部に日本最大級の工業団地ができ、通勤時間帯に深刻な渋滞が発生していました。そこで1993年に新交通システム研究会が立ち上げられ、2013年には低床車両でバリアフリーの路面電車・ライトレールを採用することが決まりました」と宇都宮市建設部LRT整備課の郷間(ごうま)さん。
企業が通勤バスを運行するも東部地域は公共交通が脆弱で約3万人近くが車で通勤。鬼怒川を越える柳田大橋などで大渋滞となり、時には宇都宮駅から工業団地まで1時間以上かかることも。
「東京〜宇都宮の新幹線移動より時間がかかると言われたこともあります(笑)」
ソリッドな意匠や快速で疾走する姿は雷のごとく
新たな基幹公共交通はモノレールも検討されたが、平面でアクセスできて高齢者が利用しやすく、環境負荷も敷設予算も比較的少なく抑えられるLRTが選ばれた。車両に注目すると、幅2650㎜は一般的な路面電車と比べて広く、定員は低床車としては国内最大となる約160人。実際に乗ってみると、JR在来線のボックスシートのような“ゆったり感”だ。窓のロールカーテンやシートの模様には宇都宮伝統の染め物・宮染めをモチーフにした模様があしらわれ、座席下には凸凹感がリアルな大谷石調のパネルも。座席に座ってみると、お尻に沿うようなバケットシートで座り心地がいい。「天井の間接照明など、長時間乗っても心地よい空間を目指しました」
郷間さんによると、始発の宇都宮駅東口から終点の芳賀・高根沢工業団地まで約44分。しかし快速運行だと約37分で行けるという。路面電車なのに快速!
「だから、停留場の平石とグリーンスタジアム前は追い越し用も含め、3線になってるんです」。
ここまでは再来年の開業に向けての話だが、さらに先の未来には、宇都宮駅西口側にも延伸予定。郷間さん曰く「LRTの敷設が決まった際、西口への延伸やバスの再編も視野に入れていました。宇都宮における南北の基幹公共交通がJRならば、東西の基幹公共交通は今後LRTが担っていくのです」。
延伸予定図を見ると、JRが遮る東口から西口へは、1階の在来線と3階の新幹線の間を通す予定だ。西口からは、東武宇都宮駅よりさらに西の桜通り十文字付近までの延伸が計画されている。「軌間はJR在来線や東武線などと同じ1067㎜。これは、将来的に既存路線への乗り入れの可能性も想定してのことです」。
西口方面の新たな交通手段に留(とど)まらず、宇都宮のあらゆる交通網を結び付けようとするLRT。地元民ファーストの路面電車ではあるけれど、ヨーロッパの車両のようなイケメンな外観や最新設備を備えた車内は、足を延ばして乗りに行く価値あり。田園風景や鬼怒川の車窓風景を楽しんだら、宇都宮駅に戻り餃子で一杯。そんな鉄分・食欲を満たす旅が、1年半後に待っている。
取材・文=鈴木健太 撮影=米屋こうじ