王子の静かな住宅街にできた豚骨ラーメンの店
『空ノ色』は王子駅の南口から歩いて3分。駅近だが繁華街とは反対方向にある。改札を出てから店までは1軒のコンビニとタワーマンション、専門学校があるくらい。あとはごくふつうの住宅が広がるところで『空ノ色』は暖簾を掲げている。オープンは2021年。コロナ禍の真っただ中での出店だ。
『空ノ色』は麺、スープ、トッピングすべてにふんだんに野菜を使った「ベジソバ」で業界に一石を投じた『ソラノイロ』グループが手掛ける豚骨ラーメンの店だという。一体どんな豚骨ラーメンが待っているのか。期待に胸を躍らせながら静かな住宅街を歩いていく。
臭みなし。さっぱりなのにしっかりウマい! 淡口(うすくち)豚骨ラーメン
暖簾をくぐれば厨房を囲うようにL字のカウンター席が設置されている。淡口豚骨ラーメン780円の食券を渡して待つ。淡口と書いて「うすくち」と読むらしい。しばらくしてカウンターに到着したのはオーソドックスな見た目の豚骨ラーメンだ。
スープを口にすると、豚骨白湯(ぱいたん)スープの旨味がガツンとくる。でも脂っこさを感じず、さっぱりと飲めてしまう。ぐびぐびといきたい気持ちを抑えつつ、麺をすする。少し固めの細麺でぷつぷつと歯触りがいい。食べてみて“淡口”という意味がようやくわかる。豚骨特有のゴテゴテとした重たい感じがないのだ。あの独特の臭みも感じない。でも豚骨ラーメンの味わいはちゃんと堪能できる。この感覚は珍しいかも。
地元のお客さんにもラーメンファンにも支持される店に
「これからは地域に根づいた店をやっていこうということで、王子の住宅街で店を出すことにしたんです。だからこそ“臭くない”豚骨ラーメンを提供しようと決めました。ダクトから“あの匂い”がしたら、近所の皆さんにご迷惑をおかけしますからね」
豚骨特有の臭みをあえて排除するように作っているのが『空ノ色』の淡口豚骨ラーメンの特徴だ。臭みのないスープは “取りきり”という調理法で作っている。寸胴鍋に材料を入れて一定時間煮込み、できあがったスープを使いきってしまうのが“取りきり”。
反対に、できあがったスープと同じ寸胴鍋にまた新しいスープをどんどん継ぎ足していく“呼び戻し”という調理法だと、特有の臭みを持つスープになる。店のまわりは住宅街。豚骨ラーメン店の前を通ったときに鼻に入る匂いを極力おさえようと “臭くない”スープを作り上げた。
新型コロナウイルスにより、飲食店にとってはかつてない試練に直面する状況が続くものの、大庵さんはまっすぐな姿勢でお客さんと向き合うことを忘れない。ときにはSNSの書き込みをエゴサーチして見ることも。
「お客さんの正直な感想を知りたいんです。だからと言って、お客さんに愛されることばかりを考えるわけでもなくて、僕たちはお客さんを愛したい、好きになりたいと思いながら店をやっています」
そんな思いが通じてか、ランチタイムや土日はすっかり行列のできる店となった。うれしい誤算だったのは当初の狙いだったご近所のお客さんだけではなく、評判を聞きつけた遠方のお客さんも足を運んでいるということ。『空ノ色』の淡口豚骨ラーメンは今や王子の新名物となっている。
構成=フリート 取材・文・撮影=宇野美香子