NHKの朝ドラ第104作『おかえりモネ』は、震災という重たい問題をテーマにしながらも、実に爽やかで心地のよいドラマだった。久々にヒロインのモデルがいない完全オリジナル作品だけあって、モネの妹の未知、父の耕治、母の亜哉子らモネの家族はもちろん登場人物のキャラクターたちもしっかりしており、モネの目線を通し視聴者はいろんなキャラに自分を投影したはずだ。今回はその『おかえりモネ』の舞台となった東京都中央区と気仙沼を妄想散歩。モネと一緒に歩いてみると、ときめきと切なさ、さまざまな想いで胸がいっぱいになるはず。

“ザ・銭湯”を今に残す貴重な建築や調度品がたくさん

宮造りの外観。

民家や学校が建ち並ぶ閑静なエリアに、ひと際存在感を放つ建物が現れる。ここ『明神湯』は、寺社仏閣を思わせる宮造りの威風堂々とした佇まいが特徴だ。

昔ながらの番台式。

今では貴重な番台式の銭湯で、入り口から男湯と女湯に分かれた造りになっている。扉の先には、広々とした脱衣所兼休憩スペース。顔を上げれば、2階分に相当するほどの天井の高さに驚く。よく見ると、折上格天井(おりあげごうてんじょう)と呼ばれる、日本で古くから伝わる建築様式を取り入れているのがわかる。

聞けば、この天井一帯は開業から現在までほとんど手を加えず維持し続けているのだとか。重厚感漂う木の質感と、今はもう製造されていないというすりガラスをはめ込んだ窓の光景に、この銭湯が刻んできた長い歴史を垣間見ることができるようだ。

レトロなお釜ドライヤーも現役。

脱衣所兼休憩スペースには、ロッカーのほかソファやマッサージチェア、お釜ドライヤー、風呂上がりにグイッと飲みたいドリンクが入った冷蔵庫などがゆったりと配置されている。

映画『鍵泥棒のメソッド』やバスロマンのCMなど、1990年代末から数々の映像作品の舞台にもなっているため、見覚えがある人も多いのではないだろうか。中でも、現在放送中の朝ドラ『おかえりモネ』では、屋内シーンこそスタジオで撮影されているものの、セットとして用意された番台や出入り口付近のデザインなどは、『明神湯』の内装を参考に再現しているという。

先代から守り続ける地域のお風呂屋さんとしての役割

富士山のペンキ絵が眼前に広がる男湯の浴室。

浴室には、富士山を描いたペンキ絵が広がる。その道の第一人者であるペンキ絵師・丸山清人氏が描いた作品だ。その下には、昔は一般的だったという広告看板が並ぶ。

タイルモザイクにも富士山。

タイルの隅々まで手入れが行き届いた美しい浴室は、2代目・大島昇さんの長年の努力の賜物。若い頃から銭湯を維持するための心構えを伯父から教わっていたそうだ。そのおかげで、自身でできる範囲で修繕も行えるようになった。

そんな昇さんの毎朝一番の仕事は、換気のための窓開け。「これで湿気に弱いペンキ絵も通常より長持ちしているのよ」と、妻のみつ子さんは微笑む。

天井が高く開放感あふれる。

お風呂の種類は、気泡風呂、超音波風呂、薬湯の3つ。薬湯は基本的にその日の陽気に合わせた日替わりとなっていて、日曜日のみラベンダーなどのハーブを入れた湯が楽しめるという。脱衣所と同様、高い天井が開放感を与える空間の中でゆったりと湯に浸かれば、その日の疲れも吹き飛びそうだ。

貴重な薪窯。

さらに、ここの湯は薪を使って沸かしているのが大きな特徴である。薪で沸かした湯は柔らかく、湯冷めしにくいと言われている。実際にお客さんから、「翌日の朝まで体がぽかぽかと温かかった」と喜ばれることもあるという。多くの銭湯がガスに切り替わっている中、昔ながらの薪で湯を沸かす手法を守り続けている銭湯は貴重な存在だ。

取材当日は、偶然にもみつ子さんの69歳の誕生日だった。「体も思うように動かなくなって、今は先代への想いやお客様からの励ましの言葉だけで頑張って続けている」とみつ子さん。特に昇さんの仕事は体力勝負な面が多く、怪我が絶えない時期もあったそうだ。それでも、両親が残した銭湯を守りたい、愛してくれるお客さんのために今日も営業を続けたいという想いで、『明神湯』の営業をこれまで続けてきた。

どんな話題も、気さくに明るく語ってくれたお二人。その人柄が何十年と愛され続ける秘訣なのだろうと感じた。忘れかけていた人とのつながりの温かさを、『明神湯』を通して改めて思い出す機会となった。

住所:東京都大田区南雪谷5-14-7/営業時間:16:00~22:00/定休日:5・15・25日(日曜・祭日の場合は翌日)/アクセス:東急池上線御嶽山駅・雪が谷大塚駅から徒歩12分、石川台駅から徒歩13分

取材・文・撮影=柿崎真英