移転から3年。客足は衰えるどころか右肩上がりに
「本田裕樹」という名を聞いて、ピンとくるラーメンファンは多いだろう。当時21歳で東十条に『麺処 ほん田』をオープンして、瞬く間にラーメン界のトップに上り詰めたラーメン職人だが、姉妹店も多くプロデュースしている。そのひとつがこの『RAMEN火影 produced by 麺処ほん田』である。
もともと川崎ラゾーナで出店していたお店が2018年に大井町へ移転。すぐ近くに品川区役所があるという土地柄もあり、ランチタイムにはサラリーマンが大挙してやってくるという。
「『麺処 ほん田』がプロデュースしているお店ということで、移転したときから注目してもらっていたと思いますが、今では常連さんも付き始め、この街になじんできたかなという感じがします」と、店長を務める安田貴則さんはこう語ってくれた。
どんなスープよりも手間暇かけて作る透明度抜群の一杯
『麺処 ほん田』と言えば、透き通るようなスープがウリの淡麗系ラーメンの先駆けともいうべき存在。それだけにこのお店でも看板メニューは透き通るようなスープをウリにした清湯(ちんたん)ラーメンで塩味を推しているという。
「塩・醤油ともにどちらも人気ですが、この店ならではの色を付けたいという理由で塩をメインに推しているというのもあります。あと、季節限定メニューも塩味ベースのものや『火影』という店名にちなんだ辛めのメニューを作ることが多い気がしますね」
塩味を推しているため、スープ作りそのものは『麺処 ほん田』本店同様に手間隙が掛かっている。伝統の鶏をメインにしたスープには若干の豚ガラ、そして味をまろやかにする香味野菜を使用。さらにあの透き通ったスープを生む肝心のカギを握る火加減にも細心の注意を払う。「手間も時間もかかっているので、正直大変なスープですよ」と安田さんが語るのもよくわかる。
透き通ったスープの味を壊さないよう、麺は主張が強すぎない細めのストレートタイプを使用。麺の畳み方ひとつで見た目の印象はもちろん、ひいては味の印象まで変わってきてしまうというので丁寧に麺を畳み込んでいく。
そうしてお客さんの前に出されるのが、特製鶏だし塩RAMEN1000円。胸をすくような鶏ベースの塩ラーメンだ。スープはいい匂いがして、ひと口すすればその純粋な味わいに胸を打たれる。これにトッピングの海苔、味付け玉子、メンマ、そしてこだわりの鶏チャーシューと豚のレアチャーシューが入っている。この2つを食べ比べてみるのもまた楽しい。
お客さんがついつい無言で食べちゃうラーメンを作るのが理想
透き通ったスープをひと口飲んでは麺をすすり、そしてトッピングの具材を楽しみながら食べ……としているうちに、気が付けば取材もそこそこにスープまで飲み干してしまうほど。完食した後のどんぶりを前に安田さんはこう語ってくれた。
「気が付いたら淡々と食べてしまっていましたよね(笑)? でも、僕らとしてはそういうラーメンを作るのが理想なんです。お金を頂く上で「美味しいもの」を提供することは当たり前の事だと思うんです。でも、お客さんが夢中で食べてくれて、しかもスープまでキッチリ飲み干してくれたらやっぱりうれしいですね。それで『ごちそうさまでした』なんて満足げな顔して言われたら、もう何よりありがたいです」
調理法から食材まで厳選して作り上げた究極の淡麗系ラーメンだからこそ、お客さんはただただ無言で食べてしまうのかもしれない。取材後に筆者のテーブルの前に残ったからっぽのどんぶりこそ、『RAMEN火影 produced by 麺処ほん田』の塩ラーメンが絶品だったことの証と言えるだろう。
構成=フリート 取材・文・撮影=福嶌弘