大きなグレーの看板と小さなオレンジブラウンの看板が道の向こうに立っていました。裏面タイプのすっきりとしたきれいな無言板ですが、この色の組み合わせ、どこかで見たことがありませんか? そう、アメリカのアニメーション『トムとジェリー』にそっくりなんですね。
そのことに気がつくと、四角い2枚の看板がねこのトムとねずみのジェリーに……しかもちゃんと追いかけっこをしているように見えてきませんか?
この看板の並びはまったくの偶然でしょうが、さらに不思議なことに背景のビルの色までグレーとブラウンで見事な対比の構図を作り出しています。
いつまでも仲良くけんかしながら立っていてほしいです。
経年劣化でぼろぼろになったまま駐車場の隅に置かれた看板を目の前にして、映画『俺たちに明日はない』のラストシーンが思い出されました。
主人公のボニーとクライドは強盗殺人犯の男女ですが、最後に警察の一斉掃射を浴びて壮絶な死を遂げるあの有名なシーンです。
見ての通りこの看板もあまりの壮絶な姿で、こちらも思わず言葉を失い無言にさせられてしまいました。
気を取り直してここからは明るい見立てでいきましょう。漫才コンビの登場です。
右の大柄な無言板がボケで、左の現役看板が赤い矢印で「アホか!」とツッコミを入れています。見たまんまやないか!
左右の並びが逆ですが懐かしのオール阪神・巨人や南海キャンディーズといった凸凹コンビが思い浮かびます。
続いての漫才コンビはこちらです。
よく晴れた日の駐車場でなんともインパクトのある二人組に出会いました。
ごっつい枠がふたっつ、仲良く肩を並べて一枚岩になった様子は、サンドウィッチマンみたいじゃないですか。ガタイがいいのに並ぶと何やめっちゃ愛らしいこの感じ? 自分でもちょっと何言ってるかわからないですけど(笑)。
漫才のあとはロマンチックな歌で。
道端に並べて置かれたおそろいの看板。なぜこういう状態で置かれたままなのか、そもそも何が書かれていたのかもわかりません。近所の住民も通行人も気に留める人はいないようです。
互いに寄り添うように傾いた姿を見ていたら、「帰れない二人」というタイトルが頭に浮かびました。井上陽水が忌野清志郎と共作した1973年の名曲です。
消えた文字はもう元の姿には戻れません。肩を寄せ合う二人が帰れないのは過去であり、帰りたいのはあの日の自分たちなのではないかという気がしてきました。
あの切なく美しい歌が路傍の古看板に重なったことが妙に微笑ましくもあり、私は鼻歌を歌いながらその場を後にします。
文・写真=楠見清