中野の有名店密集地帯にも負けない、押し出し
中野駅北口、にぎやかな中野ふれあいロードには飲食店が連なり、ラーメン店も有名店が肩を並べる。『玉 バラそば屋 中野店』は中野の超有名店『中華そば 青葉』や、鶏白湯で名を馳せる『麺匠ようすけ』 と同じ一角にある。
そんな中に、そっと口を開けるようにある2階建ての店舗(現在は1階のみの営業)だが、その店名の頭に「玉(GYOKU)」、そしてバラの花のように敷き詰めたバラ肉チャーシューの「バラそば」の、そのまんまの写真が店頭に踊る。生卵が乗った丼物はなぜこれほど急激に食欲を喚起するのか。そして更に肉みっちり。そのヴィジュアルは他の色々な店から流れてくる調理の匂いも越してくる押し出しがある。
店内はシンプルで、照明は落ち着いた色味。現在は1階のカウンター席のみの営業だが、以前は2階席も開放しており、そちらではテーブルでお酒を片手にゆっくりとチャーシューや締めラーメンをつまむお客さんもいたようだ。
2020年の緊急事態宣言から1階のみの営業となって一年が過ぎる。とはいえ昼過ぎの訪問にも関わらずカウンターはほぼ満席。我々取材チームは2階席を撮影に使わせていただくことにして階段を上がる。
店長の小松さんが、調理場に指示を出し二階席にある小さな料理を運ぶエレベータが鳴る。扉が上下に開いて熱々テカテカの特製中華そば(塩)が届く。
この調和、バラそばの小宇宙(コスモ)が丼の中に
バラ肉の隙間からレンゲを入れて、まずスープをいただく。塩豚骨? やや塩っけが強めな感じだが、すっきりしている。次はこの視界を覆うバラ肉からいくべきだろうと箸で掴む。すると、柔らかい。そして薄切りだ。なるほどこれなら見た目のごつさより肉は主張をしすぎないだろう。そう思いつつ中太の麺と共に口に運ぶと「甘い」。
薄切りのバラ肉の脂がちょうどよい甘みで、塩っけの強いスープと調和する。なるほど、むしろ品を感じる豚清湯スープのあっさり塩と、バラ肉の柔らかくたっぷり甘い脂が良い裏切りで調和するのだ。
この脂とスープで食べ急いでしまいそうだが、そこに鎮座する卵黄を崩すのである。とろりと溶け落ちて麺に肉に絡む卵黄はまるで手をかけたソースのように、どんぶりの中を一つにまとめ上げる……ネギと、海苔も混沌としたバラめん小宇宙(コスモ)が生まれ輝くがごとく。「調和!」と、つい声に出してしまうような安定感のある「特製中華そば(塩)」の丼は、既に私の中へと全て消え去り、空のどんぶりだけがそこに残されていた。
味噌バラそばという別惑星が唐突に来襲
空虚となった丼が姿を消すと、今の店舗のイチオシであるという味噌バラそばの登場である。ネギともやしが味噌のスープとバラ肉の上に高みを目指す。
ベースは同じく塩豚骨、そこに味噌なのでけっこう塩味が強めかなとスープだけを口にした時に感じたが、やはりこちらも敷き詰められたバラ肉とともに口の中で完成する。こちらはさらに野菜の甘みと瑞々しさも共にあり、同じ太陽系にありながら違う特色を持つ地球と火星のような関係だ。
つまり、バラそばと共に「玉(GYOKU)」の太陽の周りを回る惑星の一つなのだ。小宇宙の中に分化した同じ惑星系。さらには小惑星のような肉めしも存在するがそれはまた別の機会に譲ろう。
「これは別惑星ですね!」というと、これまでスープの水位やバラ肉の量、細やかにスタッフへのお水など気遣いをしてくださっていた小松さんが「そうなんですよ、これはまた(特製中華そば)塩とは存在が違うんで」と、キリッとした目で見返して答えてくれた。
「毎日でもいい。ちょうどいい。あっさり豚骨。」が、実は店のキャッチフレーズである。確かに、インパクトある見た目の特異さに隠れた計算されたこの調和という、派手で奔放なクラスメートが実は手作り弁当を自作している家庭的なギャップ萌えにでもなぞらえるべきか。
いろいろ大袈裟な書き方をしたが、つまりは飽きずに食べ続けられる調和のとれた安心の味なのだ。この見た目のインパクトを良い意味で裏切り、大騒ぎする取材陣をにこやかに見守ってくれて本当にありがとうございました、また食べにきます。
取材・文=畠山美咲 撮影=荒川千波