コンパクトな店内にあふれる鶏の香り

中野ふれあいロードの飲食店の数多くにぎわい、あちこちから旨そうな匂いの流れるなかで、ひと際コックリとした鶏スープの香りが差し込んでくる。

ここか、と見上げるとどっしりとした『麺匠ようすけ』の看板と、鶏そば・つけめんの文字が目に入る。ちょうど客の出るところで店内を覗くと、看板の押し出しや印象強い香りと裏腹に、コンパクトなカウンターだけの客席と厨房の中で存在感を持って出迎える店長の浅野さんの姿が見える。

鶏スープの香りはなお濃厚である。

ふれあいロードの細くなる道の角すぐに、どしんと押し出しの強い看板。
ふれあいロードの細くなる道の角すぐに、どしんと押し出しの強い看板。

戸口の外に券売機があるが、スタンダードな鶏そばとつけ麺を二本柱にそれぞれ濃厚(塩)、濃厚(醤油)、辛、そして別ラインの鶏まぜそばまであるではないか。ええ、っと迷うが浅野店長の言う一番人気、濃厚鶏そば(塩)をオーダーする。

オーダーしてから聞いたのだが浅野店長本人の好みは醤油だそうだ。後出しじゃないか。

いや、しかしここは一番人気の味を知るべしと、すでに鶏に頭まで浸食されかかりながら待つ。

券売機の盤面もコンパクトな中に迷う要素たっぷりのあふれる鶏バリエーション。
券売機の盤面もコンパクトな中に迷う要素たっぷりのあふれる鶏バリエーション。

こだわりのスープはとろり、鶏チャーシューも二種の味わい

すっきり見えるカウンターだが、隙間には素材へのこだわりについて文章が貼ってあり、つい読みふける。
すっきり見えるカウンターだが、隙間には素材へのこだわりについて文章が貼ってあり、つい読みふける。

こちらの鶏そばの基本は鶏白湯スープである。鶏ガラを煮込んで白濁したスープ全般をいうが、『麺匠ようすけ』のスープは鶏ガラ、または丸鶏にもみじと呼ばれる鶏の足を煮込んでいる。今回オーダーした濃厚鶏そば(塩)については、丸鶏ともみじを10時間以上も強火で煮込んだのだという。という解説をカウンターにある書き付けの文章で読んでしまう。

「ここではなく、本社で煮ているんですよ」と浅野さん。それは確かにこの空間で大量の鶏を煮込むの無理ですねえ。

というかそれでもこれだけ香るスープよ、と逆に驚いてしまう。

レモンはサービス、スープの後半の味変にベストマッチ。
レモンはサービス、スープの後半の味変にベストマッチ。

さて着丼、低温調理の真っ白な胸肉の鶏チャーシューがまず目に飛び込む。そこに添えられてコクのあるモモ肉の二種類がデフォルトだ。レンゲを差し込むとトロミがわかるほどに濃厚なスープが、少しちぢれた麺をコーティングするように絡んでくる。

その上に、真っ白な胸肉チャーシューはしっとりとヘルシーな面持ちで鎮座しているのだが、そこにトロッとスープをかけて食べる。白米に梅干し的なマッチング。そして刻んだ玉ねぎがシャリシャリと、ポタージュ濃度のスープに溶け込んでいき甘さと爽やかさを出している。

「このスープだと、一緒にごはんを頼む方が多いですか?」と聞くと、なんとトッピングにもある鶏そぼろを使った梅しそそぼろ丼が。これは頼むでしょう。

梅しそでさっぱりと。この他に鶏佃煮丼があったのが気にかかっている。
梅しそでさっぱりと。この他に鶏佃煮丼があったのが気にかかっている。

健康へのこだわりと、病みつきになる味のコントラスト

聞けば、この店のオーナーにあたる原庸介さんが「本当に健康的で美味しいラーメンを」とたどり着いたのがこの鶏白湯。2011年の創業なのでもう10年、中野で愛されている。

お客さんは女性も多いというのが、やはり鶏というヘルシーな素材の印象からかと最初は思っていたけれど、これだけ濃厚で病みつきになる味なのに上品さのある食後感なのだ。それは実際に健康的であることへのこだわり、オーナーの哲学が反映された一杯であることの証左でもあるのだろう。

言葉少なに、濃厚な鶏そばを仕上げる浅野さん。
言葉少なに、濃厚な鶏そばを仕上げる浅野さん。
住所:東京都中野区中野5-57-2/営業時間:11:30〜20:00/定休日:なし/アクセス:JR中央線中野駅より徒歩4分

取材・文=畠山美咲 撮影=荒川千波