丁寧に守り続けたソースとレシピ
「1982年の創業時から調理法は変わりません。ソースも当時から継ぎ足しています」。そう教えてくれたのは『ガヴィアル』の店長である曽根田一喜さん。
大鍋いっぱいの玉ねぎを1日かけてボイルし、ショウガ、にんじん、セロリや香辛料などを入れ、バターで12時間かけて炒めたペーストからつくる新しいソース。それを創業時から継ぎ足しているソースに合わせ、さらにその日の天候や季節に合わせて微調整をする。
使用するスパイスは28種類。食べてみると、まろやかで奥行きのある甘さのあとに、じわじわと辛さを感じる。甘さと辛さがいい具合に交じり合って不思議な味だ。『ガヴィアル』のカレーは「あとをひく」「クセになる」というお客さんが多い。
よく売れるのはビーフカレー。しかし曽根田さんのおすすめはポークカレーだそう。
「ポークカレーを注文したお客さんから“これビーフじゃないの? 間違ってない?”と言われるほど(笑)、うちのポークは食べ応えがありますよ」
「シーフードカレーも人気です。アサリ、ホタテ、エビを焼いたときに出るスープをソースに加えています。ポークもビーフもじっくり煮込みますし、チキンはカリカリに焼きます。具材に合わせて最適な調理を施すことがおいしさの秘訣です」
新しい世代に受け継がれていく『ガヴィアル』の味
『ガヴィアル』の創業者は一喜さんの父親にあたる曽根田勝行さん。
カレーの激戦区である神田神保町で『ガヴィアル』を有名店に押し上げた。
「父がこの店を始めたのは、ふらりと入ったお店の欧風カレーの味に衝撃を受けたからです。当時は高級な欧風カレーというのが珍しく、こんなにおいしいカレー屋があるのかと感銘を受けたようで。店に飾ってある絵も彫刻も父親の趣味ですね。BGMにクラシックを選んでいるのも父です。
創業以来、父はずっと店に立っていたのですが、今はもう高齢なので……。新型コロナウイルスの流行があってから、家にいてもらうようにしています。でも昔からの常連さんは父が店にいないと、心配するんです。『どうしたの? 体調大丈夫なの?』『今日は勝行さんいないの?』という声があまりにも多くて……。ですから、父にはたまに店に来てもらって、お客さんへ顔を見せてもらうようにしています。店の看板ですね。お客さんも父の顔を見るとほっこりとしてくれます」
『ガヴィアル』はちょうど世代交代のタイミング。でも代替わりしたら、これまでの味が変わってしまうのでは? という心配はご無用。なぜなら一喜さんは、勝行さんの作る『ガヴィアル』のカレーが大好きだからだ。
「子どものころからずっと食べてきた愛着のあるカレーですからね。父がいなくなったらこの味はもう食べられなくなるのか、と思ったら寂しくて。だったら自分が継げばいいんだ、と。」
一喜さんは高校を卒業以来、父とともにこの店を守ってきた。そして一喜さんの弟・隼也(としや)さんも店の味を習得し、料理長に就任。では、一喜さんの思い描く、これからの『ガヴィアル』は?
「時代によって変わっていくことも必要かもしれませんが、うちは創業者の味を受け継いで、変わらない『ガヴィアル』の味をずっと守り続けていきたいですね。そして、神田神保町に存在するたくさんのカレーの名店とともに、街を盛り上げていきたいです」
一度食べたらまた食べたくなる魅力的な味。そんな『ガヴィアル』の欧風カレーは、世代を超えて長く愛され続けるだろう。
構成=フリート 取材・文・撮影=宇野美香子