原画と完成版画を見比べて見えてくるものとは

『非水百花譜』 原画「おにげし」 1918年 個人蔵(非水疎開資料)
『非水百花譜』 原画「おにげし」 1918年 個人蔵(非水疎開資料)

モダンデザインの先駆者・杉浦非水の生誕150年を記念した特別展。大正9~11年(1920~22)に春陽堂から600部限定で発行された画集『非水百花譜』は、非水の描く植物写生図を木版画にした100図セットに、1図ごとに解説・灯影式写生図(シルエット図)が付属した図案集である。それまでのものとは異なり、図案になる前の写生を集成した点が大きな特徴だ。

2023年に『川越市立美術館』で実施された特別展では、非水が戦時中に川越へ疎開させていた資料群(「非水疎開資料」)から発見された『非水百花譜』の原画71点が初公開され、大きな注目を集めた。その後の継続的な調査により、現在は他機関の所蔵品を含め、同花譜に関連する原画は112図にのぼる。本展は、これら散逸していた原画を可能な限り集約したもの。

広報担当者は「現時点で確認されている『非水百花譜』原画112枚が集結する、決定版というべき展覧会です。完成した版画と比較しながらそれぞれの良さをご鑑賞いただくとともに、『非水百花譜』のできるまでをお楽しみください」と見どころを語る。

非水の卓越したデッサン力が、職人技を得てさらに美麗な木版画へと昇華された過程を、原画と完成版画を見比べながら堪能したい。

『非水百花譜』原画〔口紅水仙〕 1918年 愛媛県美術館蔵
『非水百花譜』原画〔口紅水仙〕 1918年 愛媛県美術館蔵

貴重な未版刻の原画や新出資料も公開

『非水百花譜』 灯影式写生図原画 「八角金盤」 1919年 個人蔵
『非水百花譜』 灯影式写生図原画 「八角金盤」 1919年 個人蔵

本展の見どころのひとつが、百花譜に採用されなかった未版刻の原画や、最新の調査で明らかになった新出資料の公開だ。100年前、非水がどのような熱量で『非水百花譜』を構想したのか、その試行錯誤の跡をたどることができる。また、『非水百花譜』を構成する「灯影式写生図(シルエット図)」にも着目。シルエットという手法が、彼の図案において果たした装飾的・象徴的な役割を検証する。

グラフィックデザイナーとして、また芸術家として時代をリードした非水の多彩な画業に迫るとともに、100年前のデザインの現場を覗き見るような心躍る体験ができそうだ。

ポスター「東洋唯一の地下鉄道 上野浅草間開通」 1927年 個人蔵(非水疎開資料)
ポスター「東洋唯一の地下鉄道 上野浅草間開通」 1927年 個人蔵(非水疎開資料)

関連イベントも開催

講演会「杉浦非水のデザイン」

11月29日(日)14時~、講師に宇都宮美術館学芸課係長・前村文博氏を迎え、講演会が館内アートホールで開催。
定員先着60名、聴講無料。申し込みは10月17日(土)9時~、電話またはウェブサイトから。

学芸員ピンポイント小話

各日、学芸員によるピンポイント小話が『川越市立美術館』アートホールで開催。聴講無料。申し込み不要。

・10月25日(日)11時~ 「『非水百花譜』原画のいろは」
・11月8日(日)11時~ 「灯影式写生図(シルエット図)のこと」

開催概要

特別展「生誕150年 杉浦非水と『非水百花譜』」

開催期間:2026年10月17日(土)~12月13日(日)
開催時間:9:00~17:00(入場は閉館30分前まで)
休館日:月曜(ただし11月23日は開館)、11月24日(火)
会場:川越市立美術館(埼玉県川越市郭町2-30-1)
アクセス:JR川越線・東武鉄道東上線川越駅からバス18分
入場料:一般700円、大学生・高校生350円、中学生以下無料

【問い合わせ先】
川越市立美術館☏049-228-8080
公式HP:https://www.city.kawagoe.saitama.jp/artmuseum/tenrankai/1013563/1020854.html

 

取材・文=前田真紀 画像提供=川越市立美術館