最初期の作品から最新VR作品を体感し、パラレルワールドを行き来する

「りんご宇宙―Apple Cycle / Cosmic Seed」展示風景 『弘前れんが倉庫美術館』 2021年 撮影=ToLoLo studio。
「りんご宇宙―Apple Cycle / Cosmic Seed」展示風景 『弘前れんが倉庫美術館』 2021年 撮影=ToLoLo studio。

美術家・雨宮庸介の活動の初期から現在までを見通せる本展。2000年初頭の作品に始まり、最新作として本展の設営期間に『ワタリウム美術館』で撮影したVRが展示される。

「話す、語りかける」「イメージを絵の具で描く」「歌や楽器やダンス的要素」など、さまざまなアプローチの作品を通し、“今”と“今ではない時”、“ここ”と“ここではない場所”の境界線を溶かす、パラレルワールドへと誘ってくれる。

「胡蝶の正夢」2000年 FRPにテンペラと油彩の混合技法 台座 撮影=Yasunori Tanioka。
「胡蝶の正夢」2000年 FRPにテンペラと油彩の混合技法 台座 撮影=Yasunori Tanioka。

雨宮氏は本展での試みをこう語っている。

「今回の展覧会タイトル『まだ溶けてないほうのワタリウム美術館』は『溶ける以前の状態が継続している』という、実はデュシャン以降のアートをアートたらしめている『過去完了』をそっと召喚しようと試みます。同時にこれは、平和にみえる無関心な日常さえもじつは『まだ戦争が起きていないほうの静寂』でもあることを顕在化せんとするものです。

本来『ここではないどこか』に自身をカジュアルに転送するために設計されているはずのVR HMD(ヘッドマウントディスプレイ)を使用しつつ、むしろ『どこかではないここ』に丁寧に連れ戻し、この世界そのものについて肯定を試み、仮に祝福にまでこぎつけると『この世界』と『この世界』が秘密裡に並走しはじめる。そんな仮説を今読んでいるあなたにそっと耳打ちすること、それこそが僕なりのアートの実践であり本展覧会で試みられることです」(雨宮庸介)

マルセル・デュシャン以降、新たな美術表現はどう存在しているのか。一見シニカルなようで、“今”と“ここ”に対する肯定感に満ちた雨宮氏の作品から、次の景色が見えてきそうだ。

「六本木クロッシング2010展:芸術は可能か?」出品作「わたしたち2010年3月19日―7月4日」の出入り口。
「六本木クロッシング2010展:芸術は可能か?」出品作「わたしたち2010年3月19日―7月4日」の出入り口。
Apple, 2023 年 林檎材に油絵具。
Apple, 2023 年 林檎材に油絵具。
「石巻13分」Reborn Art Festival 2021-22  撮影=Takehiro Goto。
「石巻13分」Reborn Art Festival 2021-22 撮影=Takehiro Goto。
「雨宮宮雨と以」でのパフォーマンス風景 BUG 2023年。
「雨宮宮雨と以」でのパフォーマンス風景 BUG 2023年。
最新VR 作品のためのドローイング2024 年。
最新VR 作品のためのドローイング2024 年。

会期中毎週土曜に作家による『人生最終作のための公開練習』を実施

会期中の毎週土曜17~18時に「For the SwanSong2024:雨宮庸介による『人生最終作のための公開練習』」が会場で行われ、雨宮氏の制作現場に立合うことができる。「Swan Song」とは、最終作や絶筆のことを、白鳥が死に際に鳴くことをなぞって表す言葉。当日有効の入場券で自由に参加できる。

関連イベントも開催

1月11日(土)「終電から始発までのトーク『生きているのに走馬灯』」

出演者としてアーティスト・梅田哲也氏と雨宮庸介氏を迎える「終電から始発までのトーク『生きているのに走馬灯』」が23時~翌5時頃、『ワタリウム美術館』で開催。参加費2000円、事前予約制。申し込みは『ワタリウム美術館』1F受付または公式HPの申込フォームから。

3月15日(土)トーク「まだ溶けてないほうの日本または美術」

出演者として美術評論家・椹木野衣氏と雨宮庸介氏を迎えるトーク「まだ溶けてないほうの日本または美術」が19時~20時30分、『ワタリウム美術館』で開催。参加費1000円、事前予約制。申し込みは『ワタリウム美術館』1F受付または公式HPの申込フォームから。

開催概要

「雨宮庸介展|まだ溶けてないほうのワタリウム美術館」

開催期間:2024年12月21日(土)~2025年3月30日(日)
開催時間:11:00~19:00
休館日:月(1月13日・2月24日は開館)・12月30日(月)~1月3日(金)
会場:ワタリウム美術館(東京都渋谷区神宮前3-7-6)
アクセス:地下鉄銀座線外苑前駅から徒歩7分・地下鉄表参道駅から徒歩9分
入場料:一般1500円、大人ペア2600円、学生(25歳以下)・高校生・70歳以上の方・身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳お持ちの方、および介助者(1名)1300円、小・中学生500円

【問い合わせ先】
ワタリウム美術館☏03-3402-3001
公式HP  http://www.watarium.co.jp/jp/exhibition/202412/

 

取材・文=前田真紀 画像提供=ワタリウム美術館