綱を引き続ける筋力を鍛えるために『蟹ブックス』【高円寺】
2026年5〜6月、「戦争ゆるさんほんとにやだいいかげんにしろブックフェア」を、漫画家の藤岡拓太郎さんと企画。チェーン店含め、30店舗を超える各地の書店で開催された。「ひとりが本を読んで戦争が止まるわけではないですが、人類同士の綱引きで手を離さず引っ張り続けるしかないです」と店主の花田菜々子さんは話す。一方、一冊の小説を読む楽しみも大事にしたい。本は自分の中に新たな火を点けるきっかけになる。
【今、読んでほしい一冊】
自分以外全員他人
西村 亨 著/ちくま書房/836円
マッサージ店勤務の柳田は世の中に絶望していて、自殺することを考える。「現代版『人間失格』で、シリアスですごく暗いのに、どこか笑っちゃう。柳田は自分勝手すぎて怒りにも正当性がないんだけど、自分にもそういうときあるなとも思う。共感と不思議な爽快感がある小説です」。
『蟹ブックス』店舗詳細
自分が自分であるための言葉を探して『Platform3』【東中野】
セクシャルマイノリティーやアジア文化の本が並び、「ジャンルごとに整頓されてないけど、全体で一つの世界観があるんです」と潟見さん。「セクシャルマイノリティーの人は、言葉を探している人が多い。これからの生き方や、自分が人と違うのは悪いことなんじゃないかと思ったりするときに言葉が支えてくれる。その入り口として本はとても有効だと思います」。場をつくったことでコミュニティーができていく尊さを、いま実感している。
【今、読んでほしい一冊】
月刊『同朋』
東本願寺出版/440円
浄土真宗の真宗大谷派が発行する月刊誌。「仏教だけに限らず、特集やインタビューがすごく充実してます。『同朋』とは、仲間や友人のことで、血のつながりではなく、いろいろな形があるという意味があるみたいなんです。東京の書店ではあまり置いていないので、店で人気なんです」。
『Platform3』店舗詳細
街に開かれた本屋を目指して『ヤンヤン』【東中野】
2026年3月に高円寺から移転、間口が広がり置く本も増えた。有名無名を問わず、人が残した記録や、歴史に埋もれがちな小さな声を集めるという選書の姿勢は変わらず、地域の人たちに目を向けるようになった。目指すのは「しゃべる本屋」。「たとえ本と関係ない話からでも糸口を見つけて、本につながる環境づくりをしたい」と店主の城李門(じょうりもん)さんは話す。店を構える街が替わったことで、人と本の関わり方の新たな試行錯誤が始まった。
【今、読んでほしい一冊】
日記が続かない人の日記集
飯村大樹 編/1540円
日記が続かないという自負がある47人の、続かなかった日記を集めた本。「それぞれの人の暮らしが垣間見ることができるし、日記を書くスタンスや、続かなかった理由も想像できるんです。日記の書籍化ははやってますが、逆に面白い」。編集の飯村さんが1日しか書いていないのも◎。
『ヤンヤン』店舗詳細
一冊一冊が日々の生活の支えになる『ISBbooks』【阿佐ケ谷】
磯部鈴さんが店を開いたのは2024年9月。「いろいろな国の生活や価値観など、書いた人の暮らしが自分の生活につながっていくような本を選んで置いています」。店のテーマは「生活の探索」。研究とは違い、試行錯誤しながら進んでいくイメージだ。店内中央のテーブルには当初はおすすめ本を置いていたが、お客さんと話す場に。話題を決めて参加者同士でじっくり話す哲学対話などのイベントも開催している。
【今、読んでほしい一冊】
違和感のゆくえ
認定NPO 法人クリエイティブサポートレッツ 著
いい風/1320円
静岡県の浜松にある福祉施設で働く18人が、働くなかで感じた違和感に向き合い、エッセイにしてまとめた一冊。「自分の感覚をきれいな言葉ではなく、感じたまま表現しようとしていて、エネルギッシュなんです。赤裸々で、文章を書きなれた人とは違った良さがあります」。
『ISBbooks』店舗詳細
読むことの先に自分の語りを見つける『小さな本屋 Candlelight』【南阿佐ケ谷】
ジャンルを横断した選書に共通するのは世界の複雑さを諦めない本であるということ。「現実の世界は単純じゃないし、分からなさを抱えています。だから読んだ後、自分はどうするか考えたくなる本を選んでいます。本から一方的に受け取るのではなく、誰もが語り手だと信じたい」と主宰のアリサさんは話す。住宅地に位置するため、地域の人が立ち寄れる本屋としても幅広い層に本を届けていきたいとのこと。
【今、読んでほしい一冊】
Decolonize Futures—複数形の未来を脱植民地化する
酒井功雄、saki・sohee・編集/1650円
人種差別やフェミニズム、環境危機など、さまざまな社会問題を「脱/植民地主義」という視点から再考するのにうってつけの1冊。土地やコミュニティーが持つ背景によって異なる理想の未来を、どれも諦めず、対話形式でたぐり寄せる。
『小さな本屋 Candlelight』店舗詳細
取材・文=屋敷直子 撮影=加藤熊三
『散歩の達人』2026年8月号より





