「武蔵村山=うどん」のイメージが浸透するまで

「村山かてうどん」「村山うどん」「かてうどん」と呼び方はいくつかあるが、武蔵村山の郷土食と言えばうどんだ。冷水でキュッと締めた弾力のある麺を温かい醤油味の出汁汁につけ、地野菜をゆでた“かて”と一緒にズズーッ。小麦の豊かないい風味が口中に広がり、食べ進めるほどに和む。元々は冠婚葬祭などの締めに出る一杯で、うどん打ちは花嫁修業の一つだったそう。

内食だったうどんが、今では市内に10店舗以上の専門店があり、ハレの日以外にも食べる日常食に。その陰には、歴史やおいしさを地道に発信し続ける地域団体「村山うどんの会」の存在がある。発起人の一人で現会長の志々田陽介さんに活動の過去、現在、未来について問うと、会員店の店主の頑張りがあってこそと感謝の思いがとめどなくあふれ出た。

「武蔵村山の認知度を高めたいという思いから、歴史あるうどんに着眼しました」

会長・志々田陽介さん。「今こそ原点回帰。手打ちうどん教室や村山デエダラまつり、成人式など地元の人が集まるイベントや祭典に参加し、市外から引っ越ししてきたうどん文化を知らない方にも、武蔵村山はうどんの街だと認知されたい」。
会長・志々田陽介さん。「今こそ原点回帰。手打ちうどん教室や村山デエダラまつり、成人式など地元の人が集まるイベントや祭典に参加し、市外から引っ越ししてきたうどん文化を知らない方にも、武蔵村山はうどんの街だと認知されたい」。

志々田さんが「村山うどんの会」を立ち上げたのが2006年。当時「村山かてうどん」という名称はなく、ゆでた麺を販売する玉売りのお店はあっても、その場で打ちたて、ゆでたてのうどんが食べられる食堂はほとんどなかった。「村山うどんの会」は、地元民に知ってもらうために手打ちうどん教室を行ったり、イベントに出展したり。手探りながら、できることを地道にやることで会員メンバーと店舗数も増え、その結果、武蔵村山=うどんというイメージが浸透し定着していった。

「20年近く活動してきた中で一番まいったのがコロナ禍。郷土食として定着させるためには定期的な発信が必要不可欠なんです」と志々田さん。

うどんの未来に期待!

おふくろの味をしみじみ思い出す『田舎屋』

かつお出汁のつけ汁で味わう肉ざるうどんは600円。このご時世に破格!
かつお出汁のつけ汁で味わう肉ざるうどんは600円。このご時世に破格!

店主の内野理央さんが66歳で始めたお店。製麺もつけ汁のレシピも独学で、幼い頃から食べていた普遍的な村山うどんを再現しふるまう。「お客さんの笑顔と『おいしい』の声で続けてこられた」と話す内野さんは現在77歳。北海道産の小麦粉や埼玉県秩父の湧水など、使う素材を徹底し一つ一つの作業も手を抜くことなく丁寧に。惜しみない努力が、故郷の味を守り続けている。

店主・内野理央さん。「試行錯誤して完成させた自慢のうどんです」。
店主・内野理央さん。「試行錯誤して完成させた自慢のうどんです」。
住宅地の中にある。
住宅地の中にある。
食感はもとより小麦の風味もしっかり。
食感はもとより小麦の風味もしっかり。
「ゆで」のなまりで“うで”まんじゅう120円も手作り。
「ゆで」のなまりで“うで”まんじゅう120円も手作り。

『田舎屋』店舗詳細

地元の素材と村山うどんがマッチ『村山満月うどん』

肉汁つけうどん880円。麺のみみがうさぎになることも。
肉汁つけうどん880円。麺のみみがうさぎになることも。

1986年に玉売りのお店として開業。2003年より初代店主の息子が2代目に就任し、ゆでたてのうどんを提供する食堂がオープンした。製麺は創業当時のままに小麦粉や「あらはたやさい学校」の小松菜など、武蔵村山産の素材を使いながら村山うどんの味と文化を今に残す。「自分にとって、生きるためになくてはならないもの。市内も市外もさらに村山うどんの存在を広めたい」と情熱を燃やす。

店主・比留間良幸さん、女将・比留間麻里さん。「麺は打ち立てゆでたてが一番おいしい」。
店主・比留間良幸さん、女将・比留間麻里さん。「麺は打ち立てゆでたてが一番おいしい」。
店内の一角で黙々と麺を打つ。
店内の一角で黙々と麺を打つ。
遠くからでも目立つ屋号が目印に。
遠くからでも目立つ屋号が目印に。

『村山満月うどん』店舗詳細

オリジナリティを大切にした一杯『本格手打ちうどん笑乃讃(えのさん)』

肉汁つけうどん880円。手作りラー油で味変するのもおすすめ。
肉汁つけうどん880円。手作りラー油で味変するのもおすすめ。

60年前に祖父母が立ち上げた製麺所を両親が食堂として受け継ぎ、現在は息子の榎本正英さんが3代目として切り盛りする。「身近にありすぎて、自分がうどん屋をやるとは思っていなかった」と笑う榎本さんが手作りする一杯は、村山うどんの特性を生かしながらもモチッ、ツルッとした食感と喉越しが楽しめるオリジナル。目にも楽しい創作うどんなど、ひと味違ったラインナップが新鮮だ。

店主・榎本正英さん。「季節限定の創作村山うどんもご賞味ください」。
店主・榎本正英さん。「季節限定の創作村山うどんもご賞味ください」。
製麺機を参考にしたという足踏み。
製麺機を参考にしたという足踏み。
お店はイオンモールの前。
お店はイオンモールの前。

『本格手打ちうどん笑乃讃』店舗詳細

住所:東京都武蔵村山市三ツ藤1-86-4/営業時間:11:00~14:30

取材・文=新居鮎美 撮影=逢坂聡
散歩の達人2025年2月号より