妙に居心地のいい、めくるめくカオスな世界『柱時計』【前橋】

実際に使われていたタバコ屋の木製窓口にピンクの電話を置いた2人席。
実際に使われていたタバコ屋の木製窓口にピンクの電話を置いた2人席。

山小屋風の店に入ると声を失った。レトロ食器、抹茶茶碗、バンビや招き猫に古時計など、ありとあらゆる古道具がひしめき、天井を仰げば帯が錦糸の波のごとく泳いでいる。井上進児さんは空調設備の会社を営むかたわら、高齢で骨董屋を閉じる方から建物を引き継ぎ、念願の町の人たちが集まれる喫茶店を開業した。

「ここにあるものは、ご近所さんが持ってきたものばかり」。壊れているものも、手先が器用で機械いじりがお手のものの井上さんが丹念に修理し、息を吹き返す。ピンクの電話や黒電話も「使えますよ。鳴らしてみてください」と笑う。

メニューにも驚きが。かつて洋菓子店で修業し、腕によりをかけたケーキは本格派だし、牛肉とタマネギをたっぷり用いて煮込んだハヤシライスはまろやか。井上さんを交えた談笑が心楽しく、不思議な居心地のよさに包まれて、いつまでも居続けたくなる。

近隣農家の蔵から集まった、時代も用途もバラバラな古道具が居並ぶ。
近隣農家の蔵から集まった、時代も用途もバラバラな古道具が居並ぶ。
オープンリール、レコード、蓄音機なども陳列。すべてちゃんと動く!
オープンリール、レコード、蓄音機なども陳列。すべてちゃんと動く!
ケーキ300円はセットで500円。写真はガトーショコラとアールグレイ。
ケーキ300円はセットで500円。写真はガトーショコラとアールグレイ。
ハヤシライス600円。ランチセットはドリンク・サラダ付き800円。
ハヤシライス600円。ランチセットはドリンク・サラダ付き800円。
叔母が刺繍したエプロンを着ける井上さん。「頼んでないけど」と言いつつ満面笑顔。
叔母が刺繍したエプロンを着ける井上さん。「頼んでないけど」と言いつつ満面笑顔。
古着屋で作家手製の雑貨も販売。フレンチカントリーな古着もキュート。
古着屋で作家手製の雑貨も販売。フレンチカントリーな古着もキュート。
2010年に開店。隣に娘さんが営む古着屋さんがあり、店内で往来自由。
2010年に開店。隣に娘さんが営む古着屋さんがあり、店内で往来自由。

『柱時計』店舗詳細

住所:群馬県前橋市滝窪町321-12/営業時間:12:00~21:00(夕方に早じまいあり)/定休日:月・火/アクセス:JR両毛線前橋駅から永井バス「荻窪公園」行き約25分の「小坂子」下車35分

西洋×和の織りなす古民家でひと休み『元総社 えんにち茶屋』【新前橋】

民家の名残そのままに、天然木のテーブル、囲炉裏(いろり)が味わい深い。
民家の名残そのままに、天然木のテーブル、囲炉裏(いろり)が味わい深い。

「総社神社のお参りの前後に3世代で立ち寄れる場所を作りたい」

取り壊し予定の大家さんを説き伏せたのは、近くで洋菓子店『ルイドール』を営む亭主の都丸渥司さんだ。かき氷が人気だが、洋菓子の技、和の素材を掛け合わせたモダンな季節の白あんみつは見逃せない。

手亡豆(てぼうまめ)の白餡(あん)に添えるのは、群馬県産の高橋牛乳を用いたミルク寒天や季節のフルーツなど。食前酒のように小さなグラスに入る特製の蜜は、夏のメロンなら種を、モモなら皮と種を煮出して香味を抽出。秋のイチヂクには、ベースの赤ワインに、柑橘の皮、シナモンを加え、かければ軽やかで華やいだ香りが際立つ。12月には県産イチゴのやよいひめも登場する。

神社の御神木から剥がれ落ちた木の皮で作った花生け、洋菓子店の常連からもらい受けたステンドグラスなど「いろんな人の縁で」形作られた設えにもほっこり。

目印は総社神社。車道を挟んだ横で築80年の古民家にのれんがはためく。
目印は総社神社。車道を挟んだ横で築80年の古民家にのれんがはためく。
季節の白あんみつ1080円はほうじ茶付き。イチヂクは10月まで。
季節の白あんみつ1080円はほうじ茶付き。イチヂクは10月まで。
「手と手をあわす、毎日がえんにちになりますように」と、都丸さん。総社神社の“まちのえんにち”も主催する。
「手と手をあわす、毎日がえんにちになりますように」と、都丸さん。総社神社の“まちのえんにち”も主催する。
かき氷に敷かれた千代紙で客が折っていくツル。紐通しされ、店を彩る。
かき氷に敷かれた千代紙で客が折っていくツル。紐通しされ、店を彩る。
都丸さんの「囲炉裏があるといいな」に応え、銘木店を営む叔父が作った。
都丸さんの「囲炉裏があるといいな」に応え、銘木店を営む叔父が作った。

『元総社 えんにち茶屋』店舗詳細

住所:群馬県前橋市元総社町2375/営業時間:10:00~12:00LO・13:00~18:00/定休日:月/アクセス:JR上越線・両毛線新前橋駅から徒歩20分

堅牢なる蔵座敷でお茶の杯を重ねながら憩う『日本茶喫茶・蔵のギャラリー 棗(なつめ)』【高崎】

吹き抜けの窓から光が差し込む通路に面し、重厚な蔵の扉が開く。
吹き抜けの窓から光が差し込む通路に面し、重厚な蔵の扉が開く。

高崎・南銀座通りに構えるのは、明治20年(1887)築の蔵座敷。障子に記したメニューを目印に引き戸を開ければ、奥へ誘う通路がのび、靴を脱いでいざ蔵へ。中は畳敷きのまさに“座敷”だ。店主の平野昭子さんいわく「元は米屋」で、戦中以来使われなかったが、米を脱穀した水車の板を活用してカウンターを、2階に器や古い着物のリメイク作品を飾るギャラリーを設け、息を吹き返した。

いただけるのは、高崎『金子園』の掛川茶。煎茶、茎茶、芽茶、荒茶と部位で異なる風味を揃え、お茶請けと味わえば、お茶のまろみがふくらむ。高崎『九重ねぼけ堂』の上生菓子と味わうのもいい。ユニークなのが、日本茶も抹茶も、お代わりできるところ。茶釜から柄杓で湯を掬(すく)うセルフ式で、棗にお代わり分の抹茶が入り、自分のペースで茶が点(た)てられる。ゆったりのんびり茶を喫する恍惚(こうこつ)、たまらない。

座敷は、かつては店主・平野さんの祖父母の寝室だった。蚊帳を釣った跡や鶴の釘隠しなども残る。
座敷は、かつては店主・平野さんの祖父母の寝室だった。蚊帳を釣った跡や鶴の釘隠しなども残る。
芽茶の日本茶セット450円は、ナツメやサンザシなどのお茶請け付き。
芽茶の日本茶セット450円は、ナツメやサンザシなどのお茶請け付き。
抹茶と和菓子のセット800円。2杯目からはセルフで抹茶を点てて。
抹茶と和菓子のセット800円。2杯目からはセルフで抹茶を点てて。
平野さんが生まれ育った場所。2003年に手を入れ、日本茶喫茶になった。
平野さんが生まれ育った場所。2003年に手を入れ、日本茶喫茶になった。
1杯目の抹茶は、カウンターの向こうで平野さんが点ててくれる。
1杯目の抹茶は、カウンターの向こうで平野さんが点ててくれる。

『日本茶喫茶・蔵のギャラリー 棗』店舗詳細

住所:群馬県高崎市檜物町13/営業時間:11:00~18:00/定休日:月・火・水/アクセス:JR・私鉄高崎線高崎駅から徒歩12分

取材・文=林 さゆり 撮影=山出高士
『散歩の達人』2024年10月号より

小麦の産地である群馬県では、昔からまんじゅう文化が盛ん。なかでもまんじゅうを蒸して串に刺し、甘辛い味噌だれをつけて焼く「焼きまんじゅう」はこの街の名物だ。頬張れば、郷愁誘う景色が心に浮かぶ。
昔も今も前橋っ子にとっての最初の遊園地といえば、『るなぱあく』。2024年11月1日に古希を迎えたのに、色あせず愛されるのはなぜなのか?そこにはいろいろな驚きが詰まっていました。
前橋のピザが熱い! そんな噂を聞いたので出かけてみると、ピザを扱う店では、高崎パスタに追いつき追い越せと大奮戦中。2024年5月には「前橋をPIZZAの聖地に」を合言葉に、第6回キングオブピッツァも開催され、盛り上がりを見せているのだ。
小麦の栽培が盛んな群馬県では、古くから麦を使った郷土食が作られてきた。高崎市民も粉もの料理が大好き。焼きまんじゅう、おっきりこみ、水沢うどん……、枚挙にいとまがないが、その中でも特におすすめをご紹介。