新橋『文銭堂本舗』の豆大福は曜日限定!
JR新橋駅から徒歩数分の場所にある昭和23年(1948)創業の『文銭堂本舗』。看板商品は文銭最中だが、街の人が楽しみにしているのは木・金曜日限定のこし餡の豆大福。最中と上生菓子がメインの同店で、餅をつく豆大福を毎日つくるのは難しいが、「地域の皆さんが楽しみにしてくださるから」と曜日限定で提供しているのだ。
千葉県産のもち米を蒸して杵でついた餅は、コシがありながらも伸びがよく柔らかい。塩加減がほどよいえんどう豆も柔らかく煮てあり、餅と餡の滑らかさを損なわず、心地よいアクセントになっている。一般的にこし餡を作る際は小豆を茹でた後に皮を除くところ、同店では北海道十勝産小豆の表面の皮をむいてから煮る。淡い色合いが美しい“皮むきこし餡”は、手間はかかるが、えぐみと渋みが少なく品のよい味わいに仕上がる。
これに加えて11月の創業祭と2月の節分の前後に、通常の豆大福の1.5倍サイズのつぶし餡の豆大福を作ってきた。これが好評を博し、火曜日に通常サイズのつぶし餡の豆大福も始めた。
新小岩『伊勢屋』の真打ちは豆大福!
JR新小岩駅から徒歩数分の場所にある昭和30年(1955)創業の『伊勢屋』は、屋号“マルナカ(〇に中)”の『伊勢屋』の一店舗だ。マルナカ伊勢屋組合には最盛期には約50軒加盟していたが、その多くは後継者がなく閉店した。組合は解散したが、マルナカ伊勢屋の屋号の店は、こちらに加え、江戸川区の船堀、鹿骨、足立区の綾瀬などで個々に店を続けている。
同店の一番人気は豆大福。もち米の王様とも称される宮城県産みやこがねもちを毎朝蒸かして餅をつく。切り餅よりも水分を増やして長く搗くことで、コシはありつつも柔らかく滑らかに仕上がる。そこへ2日間浸水させてから蒸かしたえんどう豆を加えて餡を包む。きめの細かい餅と滑らかな餡、適度な歯応えのえんどう豆の食感のバランスが絶妙だ。
水としょうゆと砂糖でつくるシンプルなみたらしダレを絡めた焼団子も飛ぶように売れていく。滑らかで米の風味が豊かなのは、一般的な乾燥させた新粉ではなく「生新粉」を使っているためだ。適度な弾力があり、香ばしく焼いてもへたらず、とろりとした甘いしょうゆダレをしっかりと受け止めてくれる。
東神田『御菓子司 亀屋大和』。一番人気は焼団子!
JR馬喰町駅から徒歩2分ほどの場所にある『亀屋大和』。江戸時代のガイドブックのような『江戸買物独案内(えどかいものひとりあんない)』(文政7年(1824)刊)には、それぞれ現墨田区・台東区の本所緑街1丁目と元鳥越三筋町通に店を構える京御菓子所『亀屋大和掾(じょう)』として載っている老舗だ。
先代まではお茶席用の上生菓子も作っていたそうだが、現在通年で作っているのは焼団子と草団子、どらやき、梅どら、万年最中、赤飯の6種類。これに加えて季節の生菓子や期間限定の新作が並ぶ。同店の一番人気は焼団子。団子は「上新粉をこねて蒸かしてつく」。最近ではつく代わりに機械でぐるぐると練る団子が増えているが、同店の機械は石臼の上から杵をドスンと落とすだけ。あとは餅つきの要領で手で返す。手間はかかるが柔らかすぎず適度なコシのある団子ができる。香ばしく焼いた団子に絡めるのは醤油と砂糖、みりん、片栗粉でつくるタレ。「団子生地に砂糖を入れる店もあるけれど、うちは何も入れていない」。米の味だけだから、甘辛いタレの味も焼き目の香ばしさも引き立つのだ。
駒沢『KIKYOYA ORII(ききょうや おりい) – since 1607 – 』。老舗の19代目が開いた餅菓子専門店!
東急電鉄田園都市線駒沢大学駅からすぐの場所に、2022年11月3日に開いた餅菓子専門店『KIKYOYA ORII(ききょうやおりい) – since 1607 – 』。慶長12年(1607)創業の三重県伊賀市『桔梗屋織居』の19代目、中村弓哉さんが開いた新ブランドだ。
店内には7種類ほどの餅菓子が並ぶ。看板商品はその名も「十九代目の豆大福」。もち米“滋賀羽二重餅”を蒸して朝ついた餅はキメが細かくよく伸びる。ほどよい塩気のえんどう豆は適度な食感と香りを残し、こし餡は感動的に滑らかだ。真っ直ぐにおいしさが伝わってくる。ほかにフルーツ大福も人気で、旬のフレッシュフルーツだけでなく、ドライフルーツを使う大福もある。マスカルポーネチーズをドライ白無花果(いちじく)の餡で包んだ大福は、餅の柔らかさとマスカルポーネチーズの滑らかさが溶け合い口溶け抜群。白無花果の食感やコク、ディルの香りが重なる個性ある味わいだ。
向島『埼玉屋小梅』。花見の時期にひっぱりだこのみたらし団子!
隅田公園内にある牛嶋神社のすぐ隣に店を構える明治30年(1897)創業の『埼玉屋小梅』。店名は初代の出身地の埼玉と、創業地の旧地名である向島小梅町に由来する。その後初代の店は埼玉県大宮市へと移転したが、昭和12年(1937)に初代の次男が創業地にほど近い現在地に店を開いた。
名物の小梅団子は一般的な上新粉の団子ではなく、白玉粉ともち粉でつくる求肥を使う。梅肉入りの白あんを包んだきなこ、こし餡を包んだゴマ、青のりの3色からなり華やかだ。
同店で一番の売れ行きを誇るのは創業時からつくっているというみたらし団子。しっかり香ばしく焼いた歯切れの良い団子に濃厚な甘辛いタレが合う。毎年、隅田公園で開催される墨堤さくらまつり(2020、2021年は中止)に売店を出すそうだが、その際平日で1日200本、土日には700~800本ものみたらし団子が出るという。桜を見ながら食べる団子は格別だろう。
曙橋『和菓子処 大角玉屋』。1980年代にいちご大福のブームを巻き起こした老舗!
地下鉄曙橋駅から徒歩3分、あけぼのばし商店街に本店を構える『和菓子処 大角玉屋』。創業大正元年(1912)の同店は、昭和60年(1985)に、いちごの大福をいちはやく売り出したことで知られる。看板商品のいちご豆大福を生み出したのは3代目の大角和平さん。本店も支店も当時はテレビ局が近くにあり、テレビやラジオに次々と取り上げられ、いちご豆大福はまたたくまに知れ渡って一大ブームが巻き起こった。いちごが入る分一般的な豆大福よりも高価だが、バブル景気の直前だった当時は珍しいものや高級感のあるものが好まれた。時代も立地もいちごの大福ブームを後押ししたのだ。
宮城県産のもち米「みやこがね」をつき、えんどう豆を加えた餅は塩が効いていてコシがある。北海道産小豆「雅」と純度が高い白双糖(しろざらとう)で炊く餡は豆の風味とコクがしっかりと感じられる。国産のいちごは酸味がしっかり。餅も餡もいちごも、それぞれ存在感がありながら、一緒に食べるときちんとまとまっている。話題性で知名度が上がった大福だが、定着したのは味のよさゆえだ。
取材・写真・文=原亜樹子