多くのファンの心を掴む「毎日食べられる味」のカレー
靖国通りから錦華通りに入り、水道橋方面へ。区立お茶の水小学校のすぐ横に、可愛らしいミントグリーンの外観が見えてくる。カウンター席とテーブル席が2つというさほど広くない店内だが、なんだかとても居心地がいい。
メニューは、チキンカレー900円、キーマカレー900円、やさいカレー1050円の3種類。特徴的なのは、チキンカレーは南インド風のサラサラカレー、キーマカレーは牛と豚のひき肉をふんだんに使用した北インド風のカレーということ。一番人気はチキンカレーとのことで、こちらを注文。
チキンカレー、到着! 南インドカレーらしい、いわゆる“シャバシャバ”タイプのカレー。スパイシーな匂いが鼻腔をくすぐり、ゴロンとのったチキンとジャガイモがまたいい感じ。
さっそく、ルーにたっぷりひたった部分をパクリ。
第一印象は「優しい……!」
スパイシーさも辛さもありながら、じわじわと体に染み込んでくるような、とても滋味溢れた味。メニューには「辛口」とあるけれど、辛いのが苦手な人でも大丈夫な気がする。そう思えるのは、このカレールー自体がとても美味しいから。わかりやすく味が濃く、パンチの効いた味とは対極にあるような、奥にあるものをじわじわ探っていきたいタイプのカレーだ。
「二日酔いのあとに食べたい、なんていう常連さんもいますよ」
そう言って笑うのは、店主の大野将太さん。その常連さんとがっちり握手を交わしたい気分だ、なぜなら自分も同じことを思っていたから。いやもちろん、普段でも美味しく食べられるけれど、個人的には「少し疲れ気味かも……」というときに食べたら、さらに美味しく感じるのでは? そう思えてくる。将太さんいわく、目指しているのは「毎日食べられるカレー」とのことだが、その言葉にとても納得する。
ベースとなっているスープは、キャベツや玉ねぎ、人参、ショウガなどの野菜がメインと聞いて納得。小麦粉は一切使わず、スパイスの香りをしっかり引き出してからスープを加えていく、とてもシンプルなタイプ。だからこそ、バランスの絶妙さが際立つのだろう。
卓上には粉チーズとアチャールが。粉チーズをかけて食べてみると、またまろやかな味わいに。ライスに添えられたピクルスと、レーズンのはちみつ漬けも、いいアクセントだ。
「二代目」が厨房に立ち続ける、その理由
実はこの店を始めたのは、将太さんのご両親。父親・大野弘さんはスパイス使いの巧みさで定評があり、神保町でも名物店主として知られていた。一方、Webデザイナーとして就職し、経理面やWebページなどでは協力していたものの、自分の道を歩んでいた将太さん。しかし2年前、弘さんが体調を崩したことで状況が一転する。奇しくも、たまたま将太さんは転職活動中というタイミング。長年『カーマ』の味を愛する客たちの声も後押しし、お母様と将太さんと二人三脚での営業が始まった。
突然の状況に、いろいろと大変なこともあったはずだ。しかし「常連さんたちに、温かく支えてもらいました」と語る将太さん。今では、ほんの少しずつ「自分の味」も模索しているという。
「実は父のレシピより、少しだけ塩気を控えめにしているんです。時代の流れに合わせているところもありますが、最初にガツンとくるのではなく、食べ始めてから中盤〜後半にかけて満足感が高まり、食べ終わるとちょうどいい……そんなカレーにしたいんですよ」
「この店を守りたい」という二代目の奮闘は、もうしばらく続きそうだ。
構成=フリート 取材・文・撮影=川口有紀