『散歩の達人』創刊と安倍首相辞任が一緒に載っている“驚異の年表”

『年表・サブカルチャーと社会の50年 1968-2020〈完全版〉』(百万年書房)
『年表・サブカルチャーと社会の50年 1968-2020〈完全版〉』(百万年書房)
──出版された年表は、『ポスト・サブカル焼け跡派』に所収されていた「サブカルチャーと社会の50年」の完全版なんですね。最初、「年表を出版って、どういうこと?」と思いました(笑)。
パンス

普通出版されないですよね(笑)。自分のなかでこういうものが商品になるって全く思っていなかったから、百万年書房の北尾さんから完全版を出そうという話をいただいた時はうれしかったです。『ポスト・サブカル焼け跡派』に入れる際は、泣く泣く削ったので……。

──しかも、B1判のポスター4枚組って……! うちでは全部広げるスペースがありませんでしたよ。
パンス

ポスターにしたら面白いんじゃないかって、急にデザイナーさんからアイデアが出て。物量をアピールしたかったんです。でも実際作ってみたら、なかなか広げる場所がなかった(笑)。

データでリリースして検索できる仕様にしたら便利は便利なんですけど、そこまでしたくなかったんです。たぶんそうするとツールとしてしか使われなくなっちゃうから。バーっと見た時の楽しさを重視しました。

パンスさんの年表が店内に貼られている世田谷区の『バレアリック飲食店』にて。
パンスさんの年表が店内に貼られている世田谷区の『バレアリック飲食店』にて。
──確かに、ネットだとピンポイントで検索するので、ふと関係ないものが目に入って話題や知識が広がるということが減った気がします。
パンス

そうそう、だから偶然目に入っちゃうみたいなものを増やしたかったんです。

──政治の動き、事件、ヒットソングのリリースや映画の公開、本の出版などの出来事が、ジャンルを問わず時系列で並んでいるのがこの年表の最大の特徴なのですが、「『散歩の達人』創刊」(1996年。編集部注:創刊号は4月号)と、「安倍首相、持病の悪化から辞意表明」(2020年8月28日)が同じタイムライン上で扱われているなんて、前代未聞だと思います。荻上チキさんのラジオ、『荻上チキ・Session』でも「驚異の年表」と題して取り上げられていましたが、まさに「驚異」という言葉がぴったり。
パンス

自分ではまだ驚異だという実感があまりなくて。ライフワークとしてずっとやってきたことなので、みんなにびっくりされてこっちが驚いているという感じです。

1997年には「『散歩の達人』(弘済出版社)」の文字が! 同じ月には主婦の友社から『Cawaii!!』が創刊されている。
1997年には「『散歩の達人』(弘済出版社)」の文字が! 同じ月には主婦の友社から『Cawaii!!』が創刊されている。
──日にちまで順番になっているのにも驚きました。
パンス

そこには結構執着があって、日付までわからないとモヤモヤしちゃうんです(笑)。文頭に「●」がついているものは日にちがわかるもの、「■」はわからないものです。本の出版年月日は奥付と実際に店頭に並ぶまでにズレがあるので、「■」にしてあります。

──パンスさんは1984年生まれですよね。そういう作業を小さい頃からやられてきたんですか?
パンス

はい。好きなCDのリリース年月日をノートにメモして、それを学校に持って行って一人で眺めて楽しんでいました(笑)。

いちばん最初は12歳くらいだったかな、覚えた人の名前を書いていたんです。小5の時に親に頼んで買ってもらった、『毎日ムック 戦後50年』という、僕の原点となる本があるんですけど、そこに出てきた人名をノートにメモっていたんです。赤瀬川原平とか寺山修司とか、文化人も政治家もジャンルを問わず。

僕の場合、興味のある時代が先にあって、その時代に活躍した人に興味を持って本を読むようになるという、時代から入るパターンが多いですね。

パンスさんが影響を受けた年表4選。左下から時計回りに『マンガ伝 「巨人の星」から「美味しんぼ」まで』(村上知彦・高取 英・米沢嘉博 著、いしいひさいち 画/平凡社/1987)、『江戸東京年表』(大濱徹也・吉原健一郎 編/小学館/1993)、『20世紀メディア年表 : 1901-2000』(江藤茂博 編著/双文社出版/2009)、『戦後日本スタディーズ1 「40・50」年代』(岩崎 稔・上野千鶴子・北田暁大・小森陽一・成田龍一 編著/紀伊國屋書店/2009)。なかでも『江戸東京年表』はカバーが取れるほど読み込んだ一冊。家康の江戸入城から1993年の曙・貴ノ花の昇進までの間、東京で起こった出来事がまとめられている。図版も豊富で楽しい。
パンスさんが影響を受けた年表4選。左下から時計回りに『マンガ伝 「巨人の星」から「美味しんぼ」まで』(村上知彦・高取 英・米沢嘉博 著、いしいひさいち 画/平凡社/1987)、『江戸東京年表』(大濱徹也・吉原健一郎 編/小学館/1993)、『20世紀メディア年表 : 1901-2000』(江藤茂博 編著/双文社出版/2009)、『戦後日本スタディーズ1 「40・50」年代』(岩崎 稔・上野千鶴子・北田暁大・小森陽一・成田龍一 編著/紀伊國屋書店/2009)。なかでも『江戸東京年表』はカバーが取れるほど読み込んだ一冊。家康の江戸入城から1993年の曙・貴ノ花の昇進までの間、東京で起こった出来事がまとめられている。図版も豊富で楽しい。
──この年表を見ていると、気になった時代からその時代に活躍した作家やアーティストを知ることもできるし、逆に、好きな作家やアーティストに注目すれば、活躍した時代背景もわかるしその時代に興味を持てるので、実用的だし面白いなと思いました。
パンス

そこはすごい意識していて、ブックガイド、ミュージックガイド的な使い方もできるようにしました。

自分史と年表を重ねる楽しさ

──年表を広げてみたときに、自分史上、インパクトのあった時代にまず目が行きました。私は1995年の一連のオウム真理教事件のあたりをまず見ちゃいましたね。当時中1だったんですけど、麻原の予言って覚えていますか? 4月15日だったんですけど、15日は何か起こるから逃げたほうがいいぞとみんな警戒していて、テレビに映った新宿には誰もいなかった。世の中がそれほど大パニックになったことってそれまでなかったし、これからもそうそうないだろうと思います。
パンス

オウムの頃から、身近に危険な人がいるかもしれない、といったような不安感が生まれたといえますね。そういう意味では、今のコロナ禍とも東日本大震災とも違った経験で、多分今後もなかなかないだろうと思います。

──パンスさんの自分史上でインパクトの強かった年はいつですか?
パンス

中学入学が1997年で、その頃っていろいろ読んだり知ったりするからやっぱり思い出が多いんですよ。その年一番大きかった事件は神戸連続児童殺傷事件、通称「酒鬼薔薇聖斗事件」ですね。

──あの事件を、同世代が起こしたと知った時は衝撃的でしたね……。97年ってほかにどんなものがありましたっけ。
パンス

『もののけ姫』『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』がちょうど7月の同時期に公開されましたね。あと、山梨県の天神山スキー場で行われた「FUJI ROCK FESTIVAL」第1回もこの7月でした。

──濃い7月! 今振り返ると、自分たちが多感な時期だったせいもあるのでしょうが、社会面でもカルチャー面でも、現在に大きな影響を与えた転換点になっていた年のように感じますね。

社会の変質を年表とともに考える

──リアルタイムではない時代で、思い入れが強いのはいつですか?
パンス

この年表の始まりである1968年ですね。なぜ68年から始まっているのかとよく聞かれるのですが、それは、「現代に直接つながっている過去」がこのあたりから始まっていると考えているからです。さらに、学生運動の盛り上がりがピークに達していたということも重要だと思っていて。

学生運動について知ったのは15歳くらいの頃。当時は思春期真っ只中だったこともあって、なんとなく学校で生きづらさを感じていたりもして、そういうのをどうやって解消すればいいだろうと答えの出ないことをずっと考えていたんです。そこに、「こんなふうに暴れたり物を投げたり壊したりしている人たちがいたんだ!」と知って、テンションがぶち上がった。村上龍さんの高校全共闘の体験を元に描いた『69 sixty nine』を当時読んで、純粋にかっこいいなと憧れていましたね。当時はまだ学生運動の負の側面などは全然知らなかったので。

その頃から、社会に対してどうやって異議申し立てすればいいんだろうみたいなテーマはずっと考え続けています。

最近はスマホに年表メモをストックしている。
最近はスマホに年表メモをストックしている。
──『69 sixty nine』をの出版は1987年、2004年には映画化されていますね。学生運動の、あの若者のエネルギーってすごいですよね。同時に、今では絶対にありえないだろうなと。なんで当時はあんな時代の雰囲気になったのか、不思議だなと思います。
パンス

そのあたりについては今、改めて考えていこうとしているんです。

21世紀に入るくらい、もしくはオウム以降くらいから、日本社会が変質したんじゃないかという持論があって。どう変質したかというと、異質なものをどんどん排除するように社会のセキュリティが整備されていき、日本人の精神的な状況もどんどんそういうふうにシフトしていった。

例えば僕がネットを始めた2001~02年頃、「2ちゃんねる」で「厨二」という言葉が出てきたり、暴走族を「珍走団」なんて呼ぶようになった。その頃から、親とか学校とか社会とか、システムに反抗している人をバカにしようっていう感覚が、ネットの普及とともに顕在化してきたと思っています。

──たしかに、90年代半ばくらいまでは、不良とか反抗的な行動はちょっとカッコいいものだったのに、いつの間にか、「ダサい」という共通認識になってきましたよね。
パンス

「ダサい」っていうレッテルを貼られるようになって、不良自体があまり目に見えなくなってきた。今では、メインストリームの漫画の題材とかにもあんまりならない。

僕自身は暴走族でもないし、どちらかかというと教室の隅のほうにいる系の人だったから、暴走族をバカにしているほうが立ち位置的には妥当なはずなんです。だけど、「これはおかしいな」みたいな違和感がずっと心の中にある。

──そういえば、不良が姿を決していくと同時に、ちょっと怖い場所や汚い場所も減りましたよね。90年代、池袋西口公園なんかギャングみたいな人がいて怖かったし、西武新宿駅のトイレは落書きだらけで汚かった。
パンス

僕らが子どもの頃ってそういう場所がまだまだ残っていた。オウム以降は、ゴミ箱が撤去されてしまい、ポイ捨てが増えるのかと思いきや意外にみんなカバンの中に入れて持ち帰るようになった。そのこと自体は悪いことではないけれど、そういう見えづらい浄化が進んだきっかけが、やっぱり1995年にあるなと。

──日本社会の道徳化・潔癖化・不寛容化の流れを感じますね。
パンス

そうですね。遡れば、暴走族や不良たちは、学生運動が沈静化してきた(ように見える)タイミングでだんだん台頭してきているんですよ。そういう意味で、イデオロギーはないけれど、同じ社会へのカウンター運動と見ることができると思うんです。全盛期の70年代半ばには、そういう人たちが今では考えられない規模の騒乱を起こしていたりするので、そういう情報もちゃんと学生運動と同じように入れてあります。

──例えば代表的な事件ってなんでしょう?
パンス

そうですね、1975年6月8日「神奈川県鎌倉の七里が浜で、暴走族600人が乱闘」とか。

1975年6月8日、神奈川県鎌倉の七里が浜で、暴走族600人が乱闘。3日後には警視庁が暴走族総合対策委員会を発足している。大瀧詠一、荒井由実といった日本の音楽シーンに大きな影響を与えたアーティストの活躍も目立つ月だった。
1975年6月8日、神奈川県鎌倉の七里が浜で、暴走族600人が乱闘。3日後には警視庁が暴走族総合対策委員会を発足している。大瀧詠一、荒井由実といった日本の音楽シーンに大きな影響を与えたアーティストの活躍も目立つ月だった。

──ええ〜、あの平和なビーチでそんな事件が!?  今では信じられないですね。翌日の6月9日にはラジオ関東で大瀧詠一の『ゴー・ゴー・ナイアガラ』が放送開始されています。いろんな意味でギャップが大きな並びですね(笑)。

あの頃はよかったなんて、幻想だ

──こうして改めて見てみると、出来事っていうのはちゃんと過去からつながっていて、今パッと起きたことのようなことも実は徐々に始まっていることが意識できますね。
パンス

そうそう。ツイッターを見ていると、何か起こるたびに、まるでありえない危機が今突然起こったかのようにいう人も多いけど、そんなことはない。

「日本はダメになった」とよく言われるけれど、それは今に始まったことではないし、歴史を遡っていくと、よかった頃があったわけではない。むしろ、今よりも生きづらいのは間違いないんです。年表の始まりくらいの社会なんて、光化学スモッグでめちゃめちゃ空気は悪いし、女性差別はひどいし、マイノリティの権利はないがしろにされているし、優生保護法のような悪法もまだあった。それなのに、『ALWAYS 三丁目の夕日』とかではその頃がまるで理想の時代だったみたいな描き方をしている。それはもう違うよって僕は思います。

年表を丁寧にたどっていくパンスさん。やっぱり壁に貼って見るのがベスト?
年表を丁寧にたどっていくパンスさん。やっぱり壁に貼って見るのがベスト?
──現代も解決しない社会問題の原点がわかる一方で、ウーマンリブやゲイリブ、反原発運動などの社会運動のタネもきちんと撒かれていたんだなとも思いました。
パンス

そうなんです。その辺は教科書的にはなかなか紹介されないけれど、現代を考える上ですごく重要だと思うので、意識的に入れました。学生運動が沈静化して、「敗北した」とか「社会運動はなくなった」という言い方をする人がよくネット上とかにはいるけど、実際は、やっている人はちゃんとやっていた。連綿とした流れがあります。

──逆に、なくなってしまったものはどうでしょう。
パンス

例えば、炭鉱にまつわる歴史的出来事などは意識的に入れました。

──1981年10月16日、「北炭夕張新鉱でガス突出事故、93人死亡」。こんなに大きな事故があったんですね。知りませんでした……。
パンス

石炭って、エネルギー源として、近代の経済発展においてすごく重要な存在だった。ものすごい数の人が炭鉱に従事していて、近くには学校や立派な娯楽施設もある繁華街ができた。でも、どんどん閉山していって、その繁華街もゴーストタウン化して、忘れ去られてしまっている。平成って、近代日本がつくってきた色々なものが見えなくなってしまった時代だとも思うんです。

──年表って、資料集とか教科書の本文の補助的な存在で、「ただ事実が羅列されているもの」という認識でしたが、事実の選び方によって、いろんな繋がりが見えてきたり、新たな発見があるものなのだなと思いました。
パンス

2021年を考える上では重要だっていうものはどんどん入れて、かつこれは押さえておくといいと思う出来事は太字にしています。そういうところには僕の偏りが出ていると言えますね。

──最後に、今後の活動予定などについて教えてください。
パンス

今は、1968年以前の年表をつくっています。戦前、というか江戸時代後期、1848年から始めていて。

──黒……船??(自信なし)
パンス

1853年が黒船来航ですね(笑)。

──パンスさんの手にかかるとどんな年表になるのか楽しみですね。『散歩の達人』的にいえば、街歩きのお供としても、古い地図と連動させてもめちゃくちゃ面白そうですね。
パンス

あ、それはいいですね。新しい切り口も探りつつ、今後も、ライフワークとして取り組んでいきたいと思っています!

パンス

『早春書店』店主のコメカさんと共にテキストユニット「TVOD」として活動。歴史好き。ときどきライター。ひまさえあれば年表や地図を手に取って眺めている。最近は韓国を中心に東アジアの近現代史とポップカルチャーを掘る。コロナ禍により海外に行けないので、東京都内でアジア各地の飲食店をめぐる日々。韓国語の勉強中。DJもする。

ポスト・サブカル焼け跡派
ポスト・サブカル焼け跡派
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年表・サブカルチャーと社会の50年 1968-2020〈完全版〉

取材・構成・撮影=鈴木紗耶香 撮影協力=バレアリック飲食店

『バレアリック飲食店』店舗詳細

バレアリック飲食店
住所:東京都世田谷区宮阪1-38-19/営業時間:11:30〜14:30・18:00〜23:00/定休日:月/アクセス:東急世田谷線宮の坂駅から徒歩3分
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30代後半は、アナログ文化に親しんで育ち、急速にインターネットインフラが充実していくなかで10代後半以降を過ごした世代だ。また、「戦争を体験した世代」の存在が身近だった世代でもある。政治、歴史、フェミニズム、論争……それぞれが今関心のある分野の本を持ち寄り、本とネットの間を行きつ戻りつしながら語り合った。
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