子供のころ、おでん好きだった?
私はおでんが嫌いだった。だって、お肉じゃないから。もち巾着が少しうれしいくらいで、美味しさが理解できなかった。唐揚げとポテトサラダが大好きなわんぱくガールだったので、おでんは3軍のおかずだと思っていた。愚かすぎる。
それがこんなにも輝いて見えるようになったのは、いつからなのだろうか。いつしか、おでん鍋から、もうもうと立ち昇る湯気は全身に浴びたいほどありがたく思えるようになった。黄金色のお出汁を体に取りこめるなんて、日本に生まれてきて本当に良かった。しみじみそう思う。
好きになりはじめた時期は定かではないけれど、おでんに「様」をつけて、おでん様と呼びたいと思ったのは、おでん屋『丸健水産』に出会ったときだった。今や、遠方からも人が訪れる行列必至の名店だが、数年前までは赤羽の酔っ払いが集う場だった。タオルを巻いたお兄さんに注文して、出汁割りを頼む。
ぐっと飲んで、初めて出た言葉は、「ありがてぇ」だった。
出汁割りは、日本酒におでんの出汁を加えた酒だ。おでんがなければこの酒が生まれなかったと思うと、おててのシワとシワを重ねてしまう。(幸せ!)
そして、なぜかふいに母の顔が思い浮かぶのだった。実家へ帰るのは正月くらいだから、家のおでんの味は思い出せないし、ありがたいと思ったこともないのに。
おでんはバファリンと半分同じ成分でできているのでは
おふくろの味でもないのにおふくろが浮かぶとは不思議すぎる、と考えていたら、おでんの主たる成分が“やさしさ”なのでは?という結論に達した。それなら、思わず「ありがてぇ」と声をあげてしまったのも、母が思いだされるのも説明がつく。大人の心にしみるのも、その素晴らしさに大人になってから気づくのも、やさしさでできているせいだ。
もし、おでんが“やさしさ”でできているとしたら。
出汁割りはやさしさと酒が混ざり合ていた飲みものということになる。
最高にハッピーな出合いじゃないか。考えた人に、なんらかの平和賞をあげたい。
そしてこれを「全てをハイにする」をやってきた人間が無視できるはずがない。
というわけで、出汁割りの焼酎バージョン、出汁ハイを作る。
「全てをハイにする」とは??
「全てをハイにする」は、自粛期間中の“買い出し”を楽しむために思いついた遊びだ。「何に焼酎を入れると美味しいか」を考えながら、スーパーやコンビニへ行き、オリジナルの「〇〇ハイ」を作る。この遊びによって少し視点を変えるだけで、いつもの売り場が輝いて見え、どこへ行くのも立派な散歩。身も心もハイになれるのだ。
「全てをハイにする」の基本ルールは以下。
ルール①焼酎に入れたら美味しそうなもので割って飲んでみる
ルール②食べ物を粗末にしない
出汁ハイの作り方
土曜日の夕方、いい感じのおでんが出来上がった。我が家のおでんのこだわりポイントは、大好きな牛すじとゴボ天をいっぱい入れること。もちろん、出汁は多めに仕込むべし!
作り方は簡単。焼酎におでんの出汁を入れるだけだ。日本酒よりもアルコール度数が高く、舌へインパクトも強いので、焼酎1:出汁4くらいの割合が良さそう。ちなみに「おぉ、寒い寒い」と言いながら注ぐと、雰囲気が出て楽しい。
最高のペアリング、おでん×おでん出汁ハイ
できた、うまい。
日本酒で作る出汁割りの方がまろやかで甘みがあるが、出汁ハイだって悪くない。
自分で作ったやさしさ(おでん)の出汁ハイで、自分が癒やされる。これは、もはや永久機関かもしれない。
一味を入れて、カーッと言いながら飲む。あぁ、こんなに気が緩むのは、優しさに抱かれているせいだ。と全てをおでんのせいにして、2日かけて出汁ハイを堪能した。
コンビニのおでん出汁でも充分美味しいが、年末は出汁をとりながら、おでんを煮込みながら、美味しいを作る時間もじっくり楽しんでほしい。ぜひ、君も優しさの永久機関を作り上げてくれたまえ。
<おまけ>
翌週、もしや出汁系なら他も美味しいのでは?と考えて、ありあわせの鍋で出汁ハイを作ってみた。が、残念ながらイマイチだった。鍋には優しさが少ししか含まれていないのかなぁ。
文・撮影=福井 晶