Say-nothing dog《無言犬》
Say-nothing dog《無言犬》

まずは犬のマナー看板から。

路傍ではふんやおしっこの禁止や片付け、公園ではリードから放してはいけないなど実に細かい注意喚起のバリエーションが存在します。

愛犬家の注意を引くためでしょう、犬ふん看板の多くにはかわいい犬のイラストが描かれていますが、中には迷惑と感じる人の心情を代弁するかのように凶暴で憎たらしい顔の犬の絵もあって、現代の犬はずいぶん肩身が狭くなったものです。

写真の看板犬は大きく垂れた耳やふさふさの毛で覆われた足など、ディズニーの「わんわん物語」を彷彿とさせる愛らしさですが、黒い文字が消えているのと同じく黒い瞳だけが絵から欠落してしまって何やら不思議な表情に。

看板の注意書きが消えてもなお看板に留まり続けるこの犬、まるで駅前で亡き主人の帰りを待ち続けるハチのように深い忠誠心と悲しみにあふれているように見えました。

Do it here《ここでどうぞ》
Do it here《ここでどうぞ》

こちらも文字が消えて絵だけが残った無言の「犬ふん看板」ですが、ピクトグラム風のイラストにはっきりとうんちが描かれていることに注目です。

とぐろを巻いたうんちは日本のマンガだけでなく世界共通の記号表現らしいのですが、そのピクトグラムは初めて見ました。そんなものを公共サインでピクトグラム表示するわけがないですよね。

私有地に立てられた自作看板ならではのストレートな表現。でも、おそらく赤い文字といっしょに赤のバツ印も消えてしまったので、これではまるで犬に用を足させる場所ですというサインになってしまいました。

Pointing nothing《無を指差す》
Pointing nothing《無を指差す》

初めて降り立った駅の周辺を歩いていたらカンガルーを発見しました。

お腹の袋から子どもが顔を覗かせていますが、指差した先の文字はほとんど消えて虚空を差しています。

よく見たら「こどもを守る110番の家」という文字がうっすらと読み取れ、腑に落ちました。

Born to be wild《ワイルドで行こう》
Born to be wild《ワイルドで行こう》

パンダも見つけました。

引越し業者のマスコットとして近所でよく見かける看板ですが、赤の塗料はすっかり消え落ちてしまい、これでは駐車禁止ではなく駐車OKになってしまっています。

そんなこともお構いなしに呑気にステアリングを握って無の車を走らせているパンダ。引っ越しの文字も消えて我が道を突っ走っています。野生に帰るつもりですかね。

目のまわりの垂れた黒色がグラサンみたいに見えてきました。

Panda power pole《ど根性パンダ》
Panda power pole《ど根性パンダ》

同じパンダですが、こちらは強烈です。

紙が剥離したにもかかわらず黒いプリントの箇所だけがコンクリートに転写されたようにこびりついているのですが、一体どういう現象なのでしょう。

あまりのピッタンコぶりにあの平面ガエルを思い出しました。ストリートで生きるには根性!根性!ど根性でやんすよ。

文・写真=楠見 清