笈入さんの読書
笈入(おいり) 建志
大学卒業後、大手書店へ就職。2000年に転職し、千駄木にある『往来堂書店』の2代目店長になる。18年より、曰く「なりゆきで」社長になり、現場以外の仕事にも奮闘する日々。人の往来が途切れない、活気ある街の本屋さん復活を目指し、それをじわじわと叶えている。
『日没』
「権力に抑えられる面もあるけれど、常識から外れていることを認めない空気が怖くなる。リーダービリティ最高の、エンターテイメント」
『ハイパーハードボイルドグルメリポート』
「日本では想像もつかない世界が現実にあり、そこで人々が食べて生きているということに、有無を言わさず引きずり回される強力な本」
『あいまいな会話はなぜ成立するのか』
「阿吽の呼吸、忖度。白とも黒ともつかないあいまいな表現。文字に書かれていないことが相手に伝わったり、自分が感じたりする不思議」
『くそつまらない未来を変えられるかもしれない投資の話』
「投資はマネーゲームではなく、自分たちの未来を方向づける投票だ。望ましい未来をイメージすることを忘れてしまった私たちに」
『「差別はいけない」とみんないうけれど。』
「不当に差別されてきた人たちが声を上げ始めた一方、多数派や権力側からの露骨な差別も目立つようになってきた。現在の背景を探る一冊」
ヤマダさんの読書
ヤマダ トモコ
マンガ研究者・マンガライター・マンガ展キュレーター。マンガとサブカルチャーをテーマにした『明治大学米沢嘉博記念図書館』のスタッフとして、展示やイベントを担当する。マンガを描く、編集する以外のマンガ関係の仕事を展開。自称、「マンガ界の隙間家具的存在」。
『うつヌケ うつトンネルを抜けた人たち』
「著者はサラリーマンとマンガ家の二足のわらじ。ある時、鬱になり、その体験を元に手塚治虫風の絵で、鬱を脱した人の事例を伝えています」
『おひとり様物語①』
「いろんな立場のおひとり様が登場するショートストーリーです。自分の好きな空間で本を読んでる1巻1話の扉を見て、信者になりました」
『るきさん』
「うちで仕事しておこもり生活しているおひとり様、るきさんの楽しい暮らしを、時にシュールに描いている。親友・えっちゃんとの感じも、好き」
『てぬのほそみち』
「著者と担当編集者が部活動のノリで、料理や手芸を紹介。私にもできそうな気がして、読みながらぬいぐるみの着せ替え帽子(ズラ)人形を作りました」
『遠くへいきたい』
「正方形の紙面を3×3に区切ったサイレント9コママンガ。開いて、ちょっと読んで閉じるだけで、遠くにいって戻ってくることができます」
『きみにかわれるまえに』
「タイトルの『きみ』はペットを指します。人間のいいところ、おかしなところの両方が、ペットへの対し方を通して見えます」
『きりひと讃歌』
「医長は伝染する奇病と言うが、若き医師桐人は異を唱えたため社会から抹殺されそうになります。小5で出会って繰り返し読んでいる深い話」
『傘寿まり子①』
「80歳のベテラン女性作家が主人公。高齢者が目の当たりにする問題を考えさせられつつ、80歳って意外にシャキシャキ元気かもと感じる」
『冬の蕾 ベアテ・シロタと女性の権利』
「男女平等条項の草案を書いた米国女性の話。女性の権利について考えさせられる。シンプルな絵で史実を淡々と描くスタイル。今秋再刊に」
『らんぷの下』
「明治後期の東京が舞台。油絵の裸婦モデルや、日本で3番目に女医さんになった人の話が登場し、今こそ読んでほしいと思う」
荻原さんの読書
荻原 魚雷
文筆家。『古書古書話』、『古本暮らし』といった著書から連想できるように、メインテーマは古本。最近は、これに街道や古道歩きが加わり、紙媒体とWebの両方にエッセーや書評などを執筆する。『毎日新聞』にラジオ番組についての連載開始。
『無名の人生』
「自身のことをあまり語らない著者が、人生論や幸福論を綴っている。成功、出世、自己実現などくだらないと断言していて、生きづらい人に響いている」
『新・東海道五十三次』
「舞台は1969年の東海道五十三次とその周辺。名所旧跡、各地の名物、高度経済成長期の只中で変わりゆく日本の風景に、夫婦漫才も織り交ぜて」
『そして、みんなバカになった』
「本当の教養とは何か。なぜこんな日本になったのか。この先どうなるのか。身だしなみの教養を拒絶した著者の、2000年以降のインタビューを収録」
『今日はヒョウ柄を着る日』
「中央線沿線に住んでいたけど、親が高齢になり実家がある戸越銀座にUターン。その間の考え方、新しいことへの挑戦など、同時代の著者に惚れ!」
『東京発 半日徒歩旅行』
「旅行のように目的地を観光するのではなく、目的地に行くまでの道中の楽しみ方を指南。これまで考えなかった自分だけのルートを歩きたくなる」
『漂うままに島に着き』
「50歳を前に『ムリかも、東京。』と小豆島に移住。家賃や住環境の問題など、都会で暮らし続けるかどうかで迷い、悩む中年の必読の書」
『人生の諸問題 五十路越え』
「高校の同級生だったコラムニストとCMプランナーによる対談。お互いの半生を回想しながら老いを笑い飛ばす。読むと気持ちが楽になる」
『うらおもて人生録』
「著者50代半ばのときに書いた人生指南書。全勝ではなく、九勝六敗を狙え。欠陥車の生き方や自分のフォームを持つことの大切さを説く」
『人間臨終図鑑』(全3巻)
「古今東西の著名人の没年とその生涯を列挙。今の自分の年齢と照らし合わせながら読むことで、どう生きてどう死ぬかを考えさせられる」
撮影=門馬央典
『散歩の達人』2020年11月号より