方向音痴で迷子になる天才・相生葵(あいおい・あおい。通称、先輩)と、ゲーム大好きの小路歩(こみち・あゆむ。通称、歩ちゃん)。「散歩部」所属の女子高生2人が、遠回りしながら巡るお散歩ダイアリー。LINEマンガで人気の作品がコミック化。10月15日に最終巻の4巻が発売されたばかり。
帯屋ミドリ
1990年、愛媛県出身。第67回ちばてつや賞ヤング部門・準大賞受賞。週刊ヤングマガジン『放課後ミンコフスキー』をはじめ、やわらかスピリッツ『 咲いたコスモス コスモス咲いた』、LINEマンガ『サヨナラさんかく』などを刊行。
思い出スポットをぐるぐる雑司が谷をてくてく
待ち合わせは雑司が谷駅。数ある散歩道のなか、帯屋(おびや)さんの思い出深いエリアなのだという。
土屋 : この界隈に縁があるんですか?
帯屋 : 愛媛から上京して初めて暮らした街が雑司が谷だったんです。
土屋 : 雑司が谷に暮らすって珍しい気がします。どうしてまたこの街に?
帯屋 : 大学に通いやすい物件を不動産屋さんに紹介してもらったんです。でも、その時はどんな場所か全く知らず。
土屋 : 雑司が谷の印象はいかがでした?
帯屋 : 上京前は、東京=大都会という、わかりやすいイメージでしたが、この辺は静かな住宅地。地元にいるみたいな感覚になって、驚きました。
雑司が谷中央児童遊園
土屋 : この児童公園、なんかいいですね。
帯屋 : あ、トイレがきれいになってる! 少しの間でも、いろいろ変わりますね。僕は大学を卒業したあと、愛媛と東京を行ったり来たりしているんですが、田舎は駅がちょっときれいになるくらいなのに、東京は変化のスピードが速い。でも、遊具は変わらないな。
赤丸ベーカリー
総菜パンもおやつパンも、王道の風格
土屋 : 『赤丸ベーカリー』 は通いました?
帯屋 : 学生の頃、週の半分くらいは。唐揚げサンドやクリームパンをローテーションで。ラスクは実家へのおみやげ。
土屋 : コッペのサンド、でかいっ!
帯屋 : 大満足です。あ、唐揚げがやわらかくなってる! 味が進化してます。
雑二ストアー
今も現役! 路地に潜む木造の商店街
土屋 : 雑二(ぞうに)ストアーもこの近くですか?
帯屋 : すぐそこです。
土屋 : おお! そして、格好いい!
帯屋 : ですよね!
「こういうワープ感に引かれるんですよね」
土屋 : 散歩の萌えポイントはあります?
帯屋 : こういう抜け道ですね。細ければ細いほどいいです。通ったらワープ感があるというか。主人公の歩と一緒で僕もゲームが好きで、RPG的な道だとこの先にいい場所、いいアイテムが落ちてないかなって思ってしまうんです。
土屋 : こういう細い道、作品にもよく出てきますよね?
帯屋 : 細い道だけじゃなく、坂にも引かれます。坂があるところは、一度わざわざ上って眺めたくなるんです。目白通り南の崖線には、いい坂がたくさんあるんです。この、富士見坂と日無坂の三差路は学生時代、通学路だったんですが、東京で初めてタヌキを見た現場です。
富士見坂と日無坂の三差路
パラレル感に心躍る渋い民家と大都会の眺望
土屋 : いい眺めですね〜。
帯屋 : コクーンタワーとか見えて、新宿ってそんなに遠くないですよね。ここ、自転車で下るとすごく気持ちいいんです。
土屋 : 上りは相当キツそうです。
帯屋 : はい、相当しんどかった。最悪です (笑) 。最初に買った中古の折りたたみ自転車だと、途中で降りないと坂を上りきれない。それがもう悔しくて。お金を貯めて、 新品のロードバイクを買いました。
土屋 : この坂を上るために?
帯屋 : どうしても上りたくて。ロードバイクはすごいです!
土屋 : そのバイクで遠出もしましたか?
帯屋 : それが、思ったほど遠くへは行かず……。近くの狭い範囲を高速でぐるぐる。そのせいか、この界隈だけ特化してかなり詳しくなりました。それで、マンガの舞台もこの界隈で、と。
土屋 : 上京したときから、マンガを描こうと思ってたんですか?
帯屋 : 小学生の頃、マンガ家になりたいなぁって思ったことはありますが、田舎では絵を描いていなかったんです。人よりマンガを読んだという自信だけはありますけど。で、上京して、いろいろ手を出して、迷いながら描き始めたんです。だいぶ運がよかったですね。
土屋 : ソフトを使って描くんですか?
帯屋 : いまだに紙にペンで線を描いています。それを取り込んで、最後の仕上げだけデジタルです。背景は散歩の雰囲気に合うように、定規を使わず柔らかい線で描きました。
土屋 : あぁ、だから味が出るんですね。
帯屋 : そのおかげで作画が大変でしたが……。あ、この近くに4巻のおまけに登場した場所があります。行ってみます?
土屋 : ぜひ。新しくできた公園ですか?
帯屋 : 小学校の廃校が公園になったんです。芝生広場が昔はグラウンドで、その脇に、桜並木がきれいな小径があって。
土屋 : 新しい情報もよくご存じですね。
帯屋 : いまだに髪を切りに2カ月に1回の頻度で来るんです。池袋から歩いてきて、どうなったかなぁって。
雑司が谷公園
土屋 : そういえば、雑司が谷の回で鬼子母神が出てこなかったなぁと。
帯屋 : 本当は1話目に出す予定でした。でも、同じ頃に他の作品に出ていて、きっかけを失ってしまいました。あんまり観光地じゃないところを選んでましたし。
法明寺参道
土屋 : ところで、この路地は……境内?
帯屋 : みんな通ってるので、なんだろうと思ったら、法明寺の参道でした。この路地を抜けると、池袋の街へワープ。やっぱりこういう道はワクワクします。
マンガ家必携の散歩アイテムは カメラとスマホ
土屋 : そういえば、主人公の一人、葵は方向音痴ですが、帯屋さんは?
帯屋 : 僕はそうでもないです。そういう主人公がいたら面白いなと思いまして。
土屋 : 葵が地図を持っているのもいい!
帯屋 : スマホを持たせたら、さすがにあそこまで迷子にならないだろうと(笑)。それで、紙の地図だったら迷うかな、と思って。地図のモデルはないんですけど。
土屋 : 帯屋さんは、散歩するときの必需品ってあるんですか?
帯屋 : どうしても描く上で写真に頼るので、カメラは必ず。あと、気軽に撮影できるようにスマホはカメラのいいものにしました。各話終わりの地図ポイントとか、チェックもできますし。
土屋 : 今日はけっこう巡りましたが、主人公たちもかなり歩いてますよね。
帯屋 : 東京で一番歩いた回は成増かな。
土屋 : 34話の街道をてくてく、ですね。
帯屋 : 取材で時間がかかるので、半分電車に乗ってズルしてます。だけど、以前暮らした街なので、もう少し出したかった〜。成増、むちゃくちゃ住みやすいんですよ。東京で家を買うなら成増です。でも、贅沢言えばやっぱり雑司が谷かな。
南池袋公園
土屋 : そういえば、僕の好きな武蔵村山のトンネルをLINEマンガ (配信中) で描き下ろしてくださったんですよね〜。
帯屋 : (『散歩の達人』2019年10月号の) 記事の写真を見たとき、異空間につながってるんじゃないかと思いました。
土屋 : 夕方でも怖い感じがあって。
帯屋 : 絶対、夜は行けない!昼間も一番奥は暗くて非日常的。そこが好きです。
土屋 : 散歩は今後も続けますか?
帯屋 : 犬が連れてけって言うんで。近所の同じコースをぐるぐるてくてく、です。
構成=佐藤さゆり 撮影=山出高士
『散歩の達人』2020年11月号より