仕事も婚活も、亀の歩みでゆっくりゆっくり続けてきた10月だった。

まず、Webメディアでの仕事はほとんどなくなってしまった。しかし、私にはやることがある。とある版元から、小説の書籍の依頼を受けているのだ。そこで、今月は小説執筆に集中した。

私は普段、インタビュー記事やイベントレポやエッセイを中心に活動するライターである。小説家ではない。なのになぜ、私に小説の依頼が舞い込んできたのか。それは、過去の職歴から、ある舞台を描写できると見込まれたからだ。

私はというと、若い頃に小説家を目指し、新人賞に応募していたことがある。あの頃の夢が20年後に思いがけず叶ったかたちだ。

けれど、まだ本が出ていないからだろうか、夢が叶った実感はない。実感がないまま、毎日パソコンに向かっている。

わかってはいたが、小説の執筆というのは時間がかかる。noteやWebメディアのエッセイは数時間で書き上げられるが、小説はそうもいかない。連作短編集で、一話一話は短編なのだが、短編一編を書ききるのに何日もかかる。

夢中になって書いている間は、夢のように楽しい。ごはんを食べるのを忘れて書きつづけて、気づいたら机に突っ伏して寝ていることもある。こんなに好きなことを仕事にしていいのかと思うくらい、書くことが好きだ。

同時に、書くことはとても苦しい。よく「創作は孤独」とか「自分との闘い」と聞くけれど、まさにその通りだ。ひとりで書いていると、自分の頭の中のおしゃべりがどんどん激しくなって、「これって本当に面白いのかな」と不安になる。

編集さんには何度もプロットにダメ出しをされ、打ち合わせと修正を重ねて、ようやくGOサインが出てから執筆に取り掛かった。プロの編集者が、登場人物やストーリーにOKを出している。それなのに、やっぱり自分の筆力に自信がなくて不安になる。

不安なときは編集さんに相談すればいいのかもしれないが、具体的に悩んでいる箇所があるわけではなく、ぼんやり漠然と不安なだけなので、相談してどうなるということもない。これは作品に修正すべき箇所があるとかそういった話ではなく、私のメンタルの問題だ。

しかも、今回はじめてご一緒する編集さんとの仕事だ。まだお互いに様子を見ながら信頼関係を構築している段階なので、私のメンタルケアをさせてはいけないと思っている。

また、書籍の仕事というのは、本が発売されるまでお金が入ってこない。だから書き下ろしの書籍を執筆している間は、貯金で生活することになる。しばらく働かなくてもなんとかなるくらいの蓄えはあるのだが、それでもやっぱり、ソワソワする。

孤独と不安と無我夢中が混ざり合った精神状態で、毎日コツコツと物語を綴った。

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小説には〆切がない。編集さんからは「原稿ができたら送ってください」と言われているので、一話完成させるごとに送っている。だから、あまり急いで書く必要はなく、仕事はまったく忙しくない。

時間に余裕があるので、同時に婚活も進めようと思った。

「マッチングアプリって、7人と出会ってみて、その中から一番いい人を選ぶといいらしいですよ」

8年来の付き合いである女性の編集さんに教えてもらった。彼女は出会ったときすでに既婚者で、マッチングアプリも未経験だ。しかし、どこからかそんな話を聞いてきたらしい。

それで私は、とりあえずマッチングアプリで7人と出会うことにしてみた。

昨年も今年もマッチングアプリに挑戦したが、今までは最初の一人としか出会わず、告白されるがままに付き合っていた。その結果、価値観が合わなくて、いずれも短期間で別れている。今回は7人と会って、もっと慎重に選んでみよう。

しかし結論から言うと、いまだ4人としか会えていない。4人と会ったところで力尽きてしまったのだ。

別に、嫌なことがあったわけじゃない。だけど、マッチして、メッセージのやり取りを重ねて、初対面を果たす……という手順を繰り返すことに疲れてしまった。

私は、(仕事以外で)知らない人と会う気力が圧倒的に足りていない。どんな性格診断でも「社交的」と言われる自分が、こんなにも人疲れするタイプだなんて、思ってもみなかった。

まず、平日は家で原稿を書いているため、夜にメイクして出かけるのは億劫。土日はオフにしていることが多いけれど、2日間のうちのどちらかしか予定を入れたくない。土曜に知らない人と会ったら、日曜は家で一人で過ごしたくなってしまう。一人と会ったら、次の人と会うまでに最低でも一週間は空けたい。じゃないと人疲れしてしまう。

そんな非効率的なやり方をしているため、人と会うペースがとても遅いのだ。

会った4人のうち、ほとんどはまともな人で、嫌な思いは(ほぼ)しなかった。私に対してかなり好意的な人もいたし、私のほうから仲良くなりたいと思える人もいた。キモい人は一人だけで、それ以外の人はみんな紳士的で、会っていて嫌じゃなかった。

私は仕事柄よく初対面の人相手にインタビューをするし、「コミュニケーションが得意な人のふり」ができる。だから、話が盛り上がらなくて沈黙が気まずい、ということもなかった。

私も相手も、本心はどうあれ、年齢相応の社会性があるから相手を不快にさせるような発言や振る舞いはしない。だから、最初の一回は笑顔でお別れできる。ただ、それじゃ相手の人間性はわからない。実際に相手のことがわかってくるのは二回目以降だろう。

ただ、残りの3人と会う気力も、二回目のデートに応じる元気も、今はない。

なんだろう、小説の執筆は内向きの作業で、婚活は外向きの作業だから、食い合わせが悪かったのだろうか。

とにかく私は、嫌なことがあったわけでもないのになんだかヘトヘトになってしまった。

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4人目の人とは、下北沢のタイ料理屋さんでランチをした。出やすい街を聞かれて新宿と下北沢を挙げると、遠いのにわざわざ下北沢まで来てくれた。

内気そうな、穏やかそうな人だった。お互いに小説が好きだったので、最近読んで感動した作品の話などをした。私はプロフィールにバツイチであることを書いているが、離婚理由は特に聞かれなかった。というか、恋愛の話が一切出なかった。

婚活なので、交際や結婚の話をしたほうがいいのだろう。マユリカのラジオでも、よく既婚の阪本さんが独身の中谷さんに対して、「(気になる女性と会っているとき)趣味の話なんかしてどうすんねん、恋愛の話せいや」と言っている。

わかってはいるのだが、私はどうも、初対面の人に恋愛の話を切り出すのが苦手だ。相手も同じタイプだった場合、趣味の話に終始してしまう。効率的に婚活をしている人からは「無駄な時間」と切り捨てられるような。

今回も趣味の話は尽きず、お相手は終始にこやかだった。2時間くらい経った頃、私がトイレに行くと、その間にお会計を済ませてくれていた。「いくら出せばいいですか?」と尋ねたら、「いえ、ごちそうしますよ」と笑顔で言ってくれた。

小田急の改札の前で別れた。その人は京王線の乗り場へ、私は小田急線の乗り場へ行く。

小田急線の改札を抜けると、私は、駅構内にある箱根そばに吸い込まれていった。緊張していてタイ料理をあまり食べられなくて、お腹が空いていたのだ。

ここの箱根そばにはよく来る。私は渋谷や吉祥寺に行くとき、下北沢で乗り換えるので、その際にここの箱根そばに寄ることが多いのだ。

店に入ると、お出汁のにおいが鼻をくすぐった。

店内に入ってすぐのとろこにある食券機は、ほぼノールックでボタンを押せる。私は、ここに来たら毎回、温かいかき揚げ天そばを食べる。ほかのものを注文したことはない。単純に、好きなのだ。

食券を買った時点で注文が厨房に通る仕組みなので、お店の人に食券を渡す必要はない。カウンター席の端っこに座って肩からバッグを下ろすと、大きなため息が出た。

やっと一人になれた……。

今日会った男性は、とてもいい人だった。話も弾んだし、ごちそうしてくれた。

それなのになぜ、こんなにも疲れてしまうんだろう。パートナーがほしくて婚活をしているのに、どうしてこんなにも一人が安心するんだろう。

考える間もなく私の食券番号が呼ばれ、かき揚げ天そばを取りに行く。

かき揚げ天はどんぶりに立てかけるように置かれ、わかめとねぎがたっぷりトッピングされている。店内の香りとこのビジュアルだけでお腹が空いてくる。

七味を振りかけて、まずは麺を一口。ほっとする。続いて、おつゆも飲む。あぁ、いつもの味だ。

箱根そばのおつゆは、味がくっきりしている。北海道出身で東京在住の私は濃いとは思わないけれど、人によっては濃いと感じるかもしれない。でも、決してしょっぱくはない。

サクサクのかき揚げ天も、まずは一口かじって、あとはおつゆに沈めてクタクタにする。かき揚げの油を受けて、おつゆの表面に無数の光の玉ができる。かき揚げ天の油っぽさが大好きだ。麺とかき揚げ天を少しずつ食べすすめていくと、舌が、喉が、お腹が温かくなってゆく。

食べ終わる頃にはすっかり心がほぐれていた。知らず知らずのうちに、肩に力が入っていたのかもしれない。

店を出て、小田急線の乗り場へ行く。まだたっぷり時間がある。帰ったら何をしよう。仕事をするか、仕事じゃない文章を書くか、それとも布団にもぐり込んでお昼寝をするか。今日は疲れたから昼寝だな。

クタクタだった。自分でも、自分がこんなに人疲れするタイプだとは意外だ。こんなんじゃ、彼氏を作って再婚するのは難しいかもしれない。

しかし、別の理由も思い当たる。小説執筆と婚活を同時に進めているから、ひどく疲れたのかも。まずは小説の執筆に専念して、小説を書き上げてから婚活を再開したら、こんなには疲れないのかもしれない……。

仕事も婚活も、今している努力が実を結ぶことはあるのだろうか。どちらも未来が不確実で、不安になる。

なにはともあれ、休みの日は誰にも会わず布団で過ごしたい。それが今の本音だ。

文・写真=吉玉サキ(@saki_yoshidama)

「チェン飯(=チェーン店のごはん)」を切り口として、40代バツイチフリーライターの「私」(吉玉サキ)のリアルな東京での日常を描く「東京チェン飯diary」。第8回は天然とんこつラーメン専門店「一蘭」です。
今まで、新橋について書くのを避けてきた。思い出すのも嫌だったからだ。