「鎌倉で働く人たちを応援したい」。そんな思いから2018年に生まれた『まちの社員食堂』は、鎌倉に本社を置く『面白法人カヤック』が手掛ける“ひらかれた社食”だ。観光地としてのにぎわいの裏で、ワーカーが気軽に通えるランチスポットが限られている鎌倉。そんな課題を背景に、自社社員のほか、会員となった鎌倉の企業の人、さらには一般利用の人など、誰もが利用できるようにした。
当初は、地元飲食店の味を週替わりで楽しめるスタイルが売りだったが、2025年に運営体制を刷新。「地域コミュニティーのハブにしたい」と考えた運営担当の齊藤さんが、鎌倉・極楽寺のスパイス商・アナンのバラッツさんに声をかけた。食のエキスパートとタッグを組んだことで、全国各地の料理人や食材が行き交う“食の交流拠点”へとリニューアル。
ランチメニューはほぼ日替わりで、インド、台湾、和食など多彩なバックグラウンドを持つ料理人たちが腕を振るう。金曜には鎌倉・今泉台の魚の共同販売所『サカナヤマルカマ』から鮮魚が届き、旬の魚料理が登場。取材当日のメニューは、チキンココナッツカレーなどを盛り合わせたインドネシアプレート。本場さながらの味わいに、カヤックに勤めるインドネシア人スタッフも思わず頬をゆるめたという。
最近はランチ提供にとどまらず、醤油や味噌といった調味料の講座や、他店と連携したマルシェも開催。食を入り口にした学びと交流が日常の風景になりつつある。さらに、ランチ後の総菜やパンの販売、スパイスと酒を掛け合わせた夜営業の構想も進行中だ。
「ここをきっかけに、新しいつながりがどんどん生まれて鎌倉が盛り上がれば、と本気で思っています」
齊藤さんの言葉に、「そういえば」とバラッツさんが続ける。「この前、一般利用の方が『こんなにおいしいランチが食べられるなら鎌倉で働きたい』って」。その言葉に一同がどよめいた。おいしい一皿が鎌倉に人を呼び、やがて働き方や暮らし方まで動かしていく。そんな可能性を秘めているのが『まちの社員食堂』だ。
取材・文=林 加奈子 撮影=加藤熊三
『散歩の達人』2026年6月号より





