初代の頃から変わらない姿勢

『ブルドック』が東小路で産声を上げたのは、約80年前。「義父が有名洋食店からコックを引き抜き、開業しました」と2代目の妻・鈴木智子さん。屋号の由来は同名のソースから来たのか、初代がいかつい顔をしていたからなのか、はっきりしないらしい。

「店を支えたのは義母でした。お米をできるだけ炊き立てで提供する姿勢は、今も見習っています」

もともと盛りは良かったが、2代目の謙(ゆずる)さんが継承後、さらに加速した。サービス精神旺盛の謙さんは、オムライスのケチャップにも遊び心を発揮。カップルにはハート、ギャンブル好きには777を描くことも!希代のエンタメ洋食を求め、狭い店内はいつも満席だった。

「主人はお金をギターにつぎ込むような貧乏学生だったので、大盛りの店がとても有難かったようです。その思いから、ボリュームも皿もどんどん大きくなって(笑)」

チキンライスをしっとり卵で包むオムライスと自慢のデミグラスソースをかけたハンバーグ、メンチカツの名物フルセット2000円。ケチャップの文字はスタッフが柔軟に対応!
チキンライスをしっとり卵で包むオムライスと自慢のデミグラスソースをかけたハンバーグ、メンチカツの名物フルセット2000円。ケチャップの文字はスタッフが柔軟に対応!

不意に訪れた大ピンチ、地元に支えられて奇跡の復活

しかし2023年、耐震補強のための休業中に不幸が襲う。近所からのもらい火による火災に遭い、2・3階が焼けてしまったのだ。狭い路上にあり再建費用がかさむため、東小路での再出発は難しい。折れかけた心を支えたのが、常連たちだった。

「火災で昔の写真が全部焼けてしまったので、三男がSNSでブルドックの写真を募集したんです。そしたらもう、多くの方に何枚もアップしていただいいて。中には亡くなった義母の写真もありました」

鑑識の警察官に「この街に赴任して、先輩に初めて連れて来られたのがブルドック。がんばってください」と声を掛けられるなど、ファンの温かい心に支えられたブルドック。2024年6月、駅前ビルの1階に場所を変え、奇跡の復活を遂げる。

移転後、明るくなった店内。
移転後、明るくなった店内。

「開店日には60人近くの行列ができ涙が出ました。主人と仲の良かった常連さんは、車いすで朝8時に来てくれたんです」

闘犬の牙は折れず。東小路時代から変わらず、入り口脇には謙さん愛用のギターボックス。そこには「永遠に」の文字があった。

療養中の謙さんに代わり、店を支える智子さんと三男の敦さん。
療養中の謙さんに代わり、店を支える智子さんと三男の敦さん。
新たなブルドックの絵は敦さんが制作。右奥に見えるのが移転前とほぼ同じ意匠の赤白看板。
新たなブルドックの絵は敦さんが制作。右奥に見えるのが移転前とほぼ同じ意匠の赤白看板。

『洋食 ブルドック』店舗詳細

住所:東京都品川区東大井5-17-4 高山ビル1F/営業時間:11:30~15:00・17:00~21:00(土・日・祝は11:30~16:00・17:00~20:00)/定休日:火・第3水/アクセス:JR・私鉄・りんかい線大井町駅から徒歩2分

取材・文=鈴木健太 撮影=丸毛 透
『散歩の達人』2026年5月号より