山本周さん

1985年新潟生まれ。2015年頃から知人とともに、石川県金沢市の住民が作り出した風景を収集し、本にまとめる活動「金沢民景」をはじめる。最近は家族で金沢市内に散らばる「ことじ灯籠」の立体物やイラストも収集中。

枝を吊って雪の重さから守る

1本の柱から複数の縄を垂らし枝を吊るという代表的な形。職人による美しい雪吊り。
1本の柱から複数の縄を垂らし枝を吊るという代表的な形。職人による美しい雪吊り。
背の高い木を中心に、周囲の低木も一緒に吊る。「りんご吊り」というスタンダードな手法。
背の高い木を中心に、周囲の低木も一緒に吊る。「りんご吊り」というスタンダードな手法。
既製品の園芸用ポールとビニール紐を使って、小さな低木たちを守る。
既製品の園芸用ポールとビニール紐を使って、小さな低木たちを守る。
こちらも園芸用ポールとビニール紐を使用した、手製らしき雪吊り。
こちらも園芸用ポールとビニール紐を使用した、手製らしき雪吊り。
盆栽の雪吊り。美しい縄の張り具合から、家主による丹念な手仕事が垣間見える。
盆栽の雪吊り。美しい縄の張り具合から、家主による丹念な手仕事が垣間見える。

「雪吊りには、いろいろな種類があります。枝が張っている樹木の場合、中心部に立てた支柱から縄を垂らして枝を吊るタイプが一般的です。

一方、低木の場合、ハンガーパイプのように竹の屋根を渡して、そこから枝を吊るという手法も。

個人の鉢植えや盆栽など小さいサイズの植物でも、住民の手で独自の雪吊りが施されている場合がありますね」

松の枝ぶりに合わせさまざまな方向に縄が張られる。横の低木にも鉢巻きのような雪吊り。
松の枝ぶりに合わせさまざまな方向に縄が張られる。横の低木にも鉢巻きのような雪吊り。
ランダムに縄が張られた雪吊り。お父さまが新築時に植え、親子二代で大切に育てられている。
ランダムに縄が張られた雪吊り。お父さまが新築時に植え、親子二代で大切に育てられている。
医院の入り口にて、隣り合う大小の木に施された、雪吊りコンビ。
医院の入り口にて、隣り合う大小の木に施された、雪吊りコンビ。
屋根から落ちる雪が当たらないよう、低木の上に竹の屋根を渡す。
屋根から落ちる雪が当たらないよう、低木の上に竹の屋根を渡す。

神戸出身の山本さん。雪吊りを初めて見たのは、金沢の大学に通っていた時だった。

「最初に見た時は『何をしているんだろう』と不思議でした。どの枝を吊れば折れないかを選び取る機能性に加え、いかに縄を美しく張るかという景観的な面も意識しなければならない。そうした構造が分かると、途端に面白くなりましたね。

見ていくうちに、兼六園のような庭園だけでなく、街角にも派生形が存在することに気づくようになりました」

単管パイプを組んだ屋根で、参拝客を雪から守る。雪国・金沢の雪対策の一つ。
単管パイプを組んだ屋根で、参拝客を雪から守る。雪国・金沢の雪対策の一つ。

冬の金沢の路上を彩る雪対策は、雪吊りだけではない。

「例えば武家屋敷の土塀を守るため、藁を編んだ薦(こも)をかける『薦掛け』も、雪対策の一つです。灯籠や庭木に薦を巻いて、保護する場合もありますね。

他には、神社の社殿などをガラスや板などで囲って雪から守る『雪囲い』も、よく見られる光景です。また、屋根から落ちた雪が参拝客にかからないよう、拝殿に雪よけのための屋根が作られていることも。単管パイプやベニヤ板、トタンなど、素材や作り方もさまざまで、見ていて楽しいです」

対話により風景が立ち上がる

山本さんが金沢民景を始動したのは、10年ほど前に遡る。

「僕が育ったのは、田舎の山村をデベロッパーが大規模に開発したような新興住宅地。

大学進学で初めて金沢に来た時、生まれ育った街と全然違うことに衝撃を受けたんです。山も海もあれば、用水のように人が作った土木の風景もある。建物も、江戸時代から現代まで、さまざまな時代のものが少しずつ残っています。いろいろなものがミックスされている状態が面白くて、大学時代は、街を歩いてはたくさん写真を撮っていました。

卒業後は一時期東京で働いていましたが、数年ぶりに金沢に戻ってきたら、北陸新幹線の開通に伴い、街の雰囲気ががらりと変わっていたことに危機感を覚えて。賛同してくれた仲間と共に、失われつつある街の風景を記録していこうと、活動を始めました」

1冊1テーマで、金沢の路上で見つけた“民景”を紹介。色とりどりの表紙が楽しい。
1冊1テーマで、金沢の路上で見つけた“民景”を紹介。色とりどりの表紙が楽しい。

多種多様な路上の“民景”を、テーマごとに手製本で一冊にまとめたZINEは、これまで21号刊行。「雪吊り」もその一つだ。ものや建物の持ち主へのインタビューから、暮らしも見えてくる。

「ご自身はあまり意識してこなかったものについて、ある日突然『話を聞かせて下さい』と言われるので、はじめは驚かれるんです。でも話していくうちに、その方が生活の中で大事にしていることが、少しずつ整理されていきます。『なんとなく自分にとって大事かも』という温度で作っていったものが、じわじわと積み重なることで立ち上がる風景の面白さ。お話する中で、それを互いに見出していく過程が楽しいですね。

当初は『失われる風景をすべて記録しなければ』という焦りがありましたが、続ける中で、新しい“民景”も同時に生まれていると気づきました。時間と共に目線が変わったからこそ見えてくるものも。住民の手で連綿と続く営みを地道に記録すること自体が、面白いのかもしれません」

 

取材・構成=村田あやこ ※記事内の写真はすべて山本周さん提供
『散歩の達人』2026年3月号より