お話を聞いたのは……

左から、「粕壁商店街 NEXT PROJECT」の小川一博さん、飯山直生さん、橋本和伸さん、三輪祐子さん。

春日部の“日常”を進化させていく

空が薄紫色に染まる黄昏(たそがれ)時、春日部駅東口から延びる広い歩道に、突如テントが立てられる。毎月第2・4金曜に定期開催されている、夜市の準備だ。

「みなさん慣れたもんです」と、目を細めるのは、「粕壁商店街 NEXT PROJECT」のリーダー・飯山直生さん。視線の先にはテキパキ準備する出店者の面々を遠巻きに見ながら、開店を待つ地域住民の姿が。なるほど、確かに出店者も住民も夜市が開かれることに“慣れて”いる。しかし、ここに至るまでの道のりはなかなか試練の連続だった。

そもそも「粕壁商店街 NEXT PROJECT」は、2019年に春日部駅東口商店会連合会(以下、東商連)が、埼玉県が推進する「NEXT商店街プロジェクト事業」の支援を受けて発足した組織だ。この事業は、外部専門家の協力を受け、空き店舗解消や創業支援、人材発掘などを進め、次世代の商店街モデルを作り出すというもの。

「最初の1年は下準備に費やしていました」とは、初期から活動している三輪祐子さん。商店街では不動産業を営んでいる。「『どんな商店街にしようか』、『どう収益を上げて自走しようか』と、延々議論していました」。

この日は『こちら春日部市学校どおり前カレー屋』、『クロネコブラザーズ』、『Kitchen HARU』など8店舗が出店していた。
この日は『こちら春日部市学校どおり前カレー屋』、『クロネコブラザーズ』、『Kitchen HARU』など8店舗が出店していた。

そんな中、2020年に新型コロナウイルスが蔓延(まんえん)。明確な方針が固まらぬものの「できることをやろう」と、PRに注力。SNS、動画メディアで積極的に情報を発信しつつ、広報誌「NEXPRESS」を創刊した。

「春日部市在住の著名人に、街歩きを通して個店の魅力を伝えてもらう企画をやったんです。これが反応良くて」と、広報の橋本和伸さん。充実した内容が好評を得て、発行部数は増加。今やショッピングセンターにも置かれる人気媒体となっている。

「この頃から若手の活動が実を結んできた」とは、東商連会長の小川一博さん。「コロナで大変な店を片っ端からホームページに載せてさ。それを見た春日部市が後援についた」と、振り返る。

春日部に住む30代~40代のための情報誌NEXPRESS。地域の著名人やクリエイターと創刊。最初期からの取り組みだ。
春日部に住む30代~40代のための情報誌NEXPRESS。地域の著名人やクリエイターと創刊。最初期からの取り組みだ。

そして2022年、転機が訪れる。歩道に店舗を出店できる「歩行者利便増進道路」、通称「ほこみち」の制度が始まったのだ。この頃、駅の高架工事による飲食店舗の激減とコロナ禍の相次ぐイベント中止の影響で、界隈(かいわい)のにぎわいが失われつつあった。

「街に活気を生み出したい!」

熱意を胸に、東商連は「ほこみち」設置に向け動き出す。しかし、これまた一筋縄ではいかない。

「許可取り一つでも関係各所で求めることが違うんですよ。前例がないことだから、先方もよく分かってない。調整に次ぐ調整で、時間がかかってしまいました」と、三輪さん。愚直に調べて知識を深め、ひたすら動いて人間関係を広げ、各所への交渉を繰り返した。

そして2023年、念願の「ほこみち」の認定を勝ち取ったのだった。同時に商店会の飲食店とともに夜市を開始。約2年経った今、子連れの主婦に重宝されたり、出店店舗のファンが別の店舗を知るきっかけになったり、界隈に新たな人の流れを生み出している。

「たった3時間の営業時間でも、全店舗しっかり売り切って帰ります。夜市への参加をきっかけに、新規の商店会員も増えました」と、飯山さん。「春日部駅前がどんな形になっても、夜市は続けていきます」。今後は常設の設備を置いて「日常」の風景に進化させる考えだ。三輪さんは「また調整に次ぐ調整の日々が始まります」とはにかむ。

煌々(こうこう)と輝く夜市の明かりが春日部の象徴。そう言われる日は、きっと遠くないはずだ。

手慣れた準備で、歩道の風景が一変する!
手慣れた準備で、歩道の風景が一変する!

かすかべ夜市

毎月第2・4金曜、17:00~20:00。
春日部駅東口ロータリーから県道400号沿いに『春日部情報発信館ぷらっとかすかべ』付近までで開催。
最新情報は公式Instagram @kasukabenextより。

取材・文=どてらい堂 撮影=森本真哉
『散歩の達人』2026年3月号より