惚れ込んだ食材だから、そのおいしさを知ってもらいたい

昼は機械打ちそばだが、夜には手打ちそばがメニューに載ることもある。

店主・吉田大祐さんが一番大切にしていることは、食材を知り、生産者を知ること。全国各地の産地を訪ね、生産現場を見て、生産者と話し、その人柄に惚(ほ)れ、納得したものだけを仕入れている。

朝・夕の2回、その時に使う分だけを石臼で碾いて作る。

そばは、埼玉県三芳町や千葉県成田市、長野県山形村の農家から直接仕入れている。そばの実は地下で冷蔵管理し、当日使う分だけを石臼で碾いているので、1年を通じて新そばのようなフレッシュな味を楽しむことができる。

黒宝豚のバラ肉の旨味が溶け込んだ黒宝豚せいろ1350円。

看板メニューの一つである黒宝豚せいろは、芋焼酎「富乃宝山(とみのほうざん)」のもろみ粕をエサにして育った鹿児島産「黒宝(こくほう)豚」のバラ肉を使っている。肉が柔らかく、脂身がしつこくないの特徴で、つゆに溶け込んだ脂がつゆ全体の味をマイルドにしている。ここも、蒲田の酒屋の勉強会を通じて知り合った仕入れ先だ。

横浜の鶏肉専門店から仕入れる鴨肉を使った鴨せいろ、富士宮市の北山農園の有機野菜を使った天ぷらや一品料理など、一つひとつの食材に吉田さんの思いがこもっている。

焼津の名店『サスエ前田魚店』直送の魚で、まずは一献

1階奥と2階にテーブル席がある。壁に貼られた案内を読めば、この店のこだわりがよくわかる

「そば居酒屋を目指しています」と話すだけに酒にも力を入れている。全国の酒蔵を訪ね、稲刈りに参加したり、醸造過程を見学したりして、旨い酒を求めてきた。和歌山県海南市平和酒造の「紀土 -KID-」は、吉田さんが惚れ込んだ酒。杜氏や蔵人が、酒米の田植えから稲刈りまでの管理を行っている酒だ。このほか、料理の味を引き立ててくれる食中酒を中心に常時8種類ほどの日本酒を用意。ワイン、地ビール、焼酎など品揃えも豊富だ。

酒や料理に力を入れるスタイルは、「当初は父に反対されましたが、今では認めてくれているようです」と話す吉田大祐さん。

日本酒に合わせたいのが刺し身。そば屋で刺し身と聞けば一般的にはあまり期待できないが、この店は違う。ミシュランの三つ星店や高級ホテルのレストランなどにも卸している焼津の『サスエ前田魚店』直送の魚が味わえるのだ。

「儲けたかったらロスの原因にもなる刺し身なんてやりません。サスエの魚の良さを伝えたいんです」。そう話す吉田さん。相当惚れ込んでいる様子だ。数に限りがあり、漁などの都合で入荷がないときもあるが、メニューに並んでいたらぜひオーダーしてみたい。

ゆっくり酒を楽しむなら座敷がおすすめ。
住所:東京都大田区蒲田5-28-12/営業時間:11:30~14:00・17:00~22:00LO/定休日:日/アクセス:JR・私鉄蒲田駅から徒歩2分

取材・文・撮影=塙 広明