せいろでもかけでもうまい!更科系自家製そばのなまめかしい食感
御成門にある『そば作』のそばは、とにかく麺がうまい。白く細い更科系の自家製麺は喉越しがよく、すすりあげればツルッと口に飛び込んでくる。その一方でコシもあって、舌や歯に当たるムニッとした食感が、なんともなまめかしい。ひと口食べれば、すぐに虜(とりこ)になってしまうおいしさだ。ぜひ、せいろそばで食べてほしい。
と、言いながらも、実は温かいかけもなかなかのもの。加水が絶妙なのか、温かいツユに浸かってもそばがなかなかだれない。ツユはダシとかえしをきかせつつも、やわらかめな口当たり。細いそばがこのツユをしっかり持ち上げ、すするたびにそのうまさを堪能できる。食べていると、ここが立ち食いそば店であることを忘れてしまいそうな、手の込んだ出来なのである。
この『そば作』がオープンしたのは、1988年のこと。店主の前田治男さんは、それ以前にサラリーマンとして働いてたが先行きに不安を感じ、立ち食いそば店を始めるため脱サラした。立ち食いそばを選んだのは、自分が好きだったことと、料理がシンプルなため飲食業界未経験の自分でもできるだろうと考えたから。だが、思っていたようにうまくはいかなかった。
試行錯誤を繰り返し、理想の味となった自家製そば
まず、そば作りをマスターしようと、丸の内にあったそば店で働き始めた。店主はいろいろ教えてくれたのだが、レシピを盗もうとしているのが女将さんにバレ、2週間でクビになってしまう。手っ取り早く作り方を覚えたかったため、店を始めたいから教えてほしいと言っていなかったのだ。
とりあえずツユ作りの基本は覚えたので、次はそば。当時、立ち食いそばはゆで麺使用の店が多かったが、前田さんは生麺にこだわった。前田さんはサラリーマン時代に、生麺使用で人気だったチェーンの『小諸そば』によく通っていて、あのそばに近づけたいと考えたのだ。しかし『小諸そば』のような白く細い生麺は当時、調達するのが難しく、それならと自分で製麺しようと考えた。とはいえ、そば作りはやったことがない。そば粉の業者、製麺機メーカーに教えてもらい、試行錯誤の末、ようやく自分好みのそばを製麺できるようになったという。
苦労したのはつなぎと加水。白く細く、なおかつ切れずにコシのあるそばを作るため、何度もトライアンドエラーを繰り返したという。特に加水については、季節、気温や湿度を考慮して調整しなければならない。実は納得できるそばができるようになったのは、店のオープン後、しばらくしてからだという。冷でも温でも抜群にうまい『そば作』のそばは、苦労の末に作りあげたものだったのだ。
40年近くもの間、常連客に支えられ
『そば作』はそばがうまいだけではなく、ほかのメニューもいろいろと気が利いている。たとえば、つゆ熱せいろ。寒い時季でも冷たいそばをおいしく食べられるよう、もり汁が温かいものになっている。このツユは揚げ置きのかき揚げでもツユなじみがよく、季節を問わず注文が入る。
また、かき揚げも季節によって具材を変えている。冬のこの時期はさつまいもと冬野菜。ほくほくとしたさつまいものほんのりとした甘みは、心がホッとするおいしさで寒い季節にぴったりだ。
同じく寒い時期に人気のカレー南蛮は、一杯ずつ仕立てる本格派。具材には大きめの豚バラ肉が使われていて、その脂と旨味がカレー汁の味をより深いものにしている。アツアツのカレー汁に、そばがまったく負けていないのは、言うまでもないだろう。
『そば作』は一時、新橋と神田に支店を出していたが、今は御成門の店のみ。ここで前田さんは40年近く、そばを作り続けてきた。開店当時、毎日のように通っていた常連客が定年退職を迎え、あいさつに来てくれることもあるという。ある常連客から「ここのそばを食べていたおかげで、健康に過ごすことができました」と言われ、ひどくうれしかったそうだ。
前田さんは現在、74歳だが、厨房では手を休めることなく働き、かくしゃくとしている。これからも、おいしいそばで、御成門で働く人たちを支えてくれそうだ。
取材・撮影・文=本橋隆司









