「本屋ですが、みんなしゃべりにくるんですよね」
戦々恐々と扉を開けると、思いのほか和やかな笑顔の吉田夫妻に出迎えられ、ほっと安堵。ちゃぶ台が1つ置かれた和室は、押入れも本棚が占拠し、小説、エッセイ、ZINE、社会派など、あらゆる分野が揃う。もちろん、本を探しに来る人もいるが、店主の吉田重治さんは「本屋ですが、みんなしゃべりにくるんですよね」と目を細める。病気や生きづらさを抱える人たちも少なくなく、「居場所を作りたかったんです」と話す。
吉田さんは社会保険労務士、行政書士として働く傍ら、2017年より古本市などに出店。その後、本八幡で書店「kamebooks」を、松戸のアパート一室で「言葉のある場所 甲羅文庫」を営み、2024年にこの場に集約させた。
市川で本格始動したのがイベントだ。作家のトークイベント、朗読会などもあるが、基本は「なんとなくの思いつき」。過去には、常連客が拾ったカセットテープを聞く会を設けたことも。「一人で聞いて、呪いの言葉とか入っていたら怖いじゃないですか。でも、聞いてみたら三味線パンクでカッコよかったんですよね」と笑う。
さて、今回の会は持ち寄った袋ラーメンをごちゃ混ぜにして食べようという、闇鍋感が濃厚な会。予約は不要。何人集まるかは不明。それでも19時近くになるとカット野菜や、箸休め用の総菜やフルーツ、酒を手にした常連たちがポツポツ集まり出した。「学生時代の友達の下宿先みたいで、落ち着くわぁ」とつぶやく人あり、一升瓶の焼酎を早速あおる人あり。「卓に並んだものに所有権はありません。みんなでつまみましょう」の言葉で、会がゆるやかにスタートした。
吉田さんは鍋奉行と化すと、卓上コンロの鍋にラーメンをランダムに入れていく。醤油、味噌、喜多方のごった煮はまさに混沌。みな恐る恐るまずひと口。「あら、意外に普通」と参加者の声に、一気に座が安堵感に包まれた。気を大きくした吉田さんはさらに塩、パクチー、辛麺を投入。塩が意外にも主張し、恐れていたパクチーは爽やかさを、激辛表示の辛麺はまろみのあるピリ辛に昇華。「混沌の先にあったのは」の声に「平和ですね!」と、赤ら顔の吉田さんが破顔した。
鍋をつつきながら、話は「競馬」「お値打ちスーパー」「河内音頭」「人権」などどんどん変化し、社会の不条理さにも及ぶ。おおよそざっくばらんな宴は、笑いあり、悲しみや憤りの分かち合いあり。吉田さんの「イベント目当てが6割。どんな人やことも受け入れる方が多く集まります」の言葉に納得だ。
帰路、寒空の下でも足どりは軽く、会の余韻で心がほんわか温まっていた。
取材・文=林 さゆり 撮影=泉田真人
『散歩の達人』2026年1月号より







