きくち『群青のハイウェイをゆけ』(hayaoki books)

旅はきっと、日常の延長線上にあるのだ

きくち著/hayaoki books/1980円。
きくち著/hayaoki books/1980円。

なんの教科だっただろう。すっかり忘れてしまったが、大学時代、講義の中で「大学時代にやるべきことは?」の問いに「旅」と答えた教授がいた。「社会人になると時間がなくなる。大学生の今こそ旅をすべきだ」。その時の私は差し迫る課題の締め切りに戦々恐々としながらバイトに明け暮れ、日々を懸命に過ごすうちにコロナ禍到来。海を越えよう、と友人と計画した卒業旅行すらまともにできなかった。

そんなことをふと思い出した。本書は、埼玉県在住の会社員・きくちさんが綴(つづ)る旅の記憶だ。淡々と、そして日曜午後の日差しのようなあたたかさがあり、やさしい。その旅は決してゴージャスなものではなく、いわば日常の延長線上にあるようなものばかりだ。例えば、大学時代の先輩後輩と出身地について考察を深めるために、埼玉という地名の起源がある行田へ行く話。仕事終わりに集まり、途中、ラーメンショップに寄りつつ、たわいもない会話を交えながら夜の街を進む。一方で、著者ひとり、民主と自由を求める街・香港をさまよう話にはドキリとし、暮らしの話、甥の話には、著者はどんな人であろうかと想像する。

旅の話ではあるが、もはや人生そのものの話のように思える。いや、そうか。ありきたりな言葉ではあるが「人生は旅」なのだ。と考えれば、大学時代のうやむやが一気に晴れる、気がする。きくちさん、ありがとうございます。

好奇心のおもむくままに一歩踏み出そう。明日出合う景色も、人生という旅のなかにあるのだから。(中島)

内田朋子、後藤充『渋谷半世紀 都市×カルチャー×未来』(晶文社)

内田朋子、後藤充 著/晶文社/1980円。
内田朋子、後藤充 著/晶文社/1980円。

「100年に一度」と言われる大規模開発が進む渋谷をテーマに、名だたる識者・文化人によるアンソロジー。冒頭は糸井重里の読みやすいインタビュー。終盤の吉見俊哉による3本の「特別寄稿」(ページに地色が敷かれ特別感あり)では地形や鉄道、文化など多角的な視点で渋谷を読み解く。渋谷の魅力は簡単にはくくれない。(平岩)

飯塚めり、星野概念『続 喫茶の効用 実践編』(晶文社)

飯塚めり、星野概念 著/晶文社/1870円。
飯塚めり、星野概念 著/晶文社/1870円。

本を読む、勉強をする、考えごとをする……。喫茶に来るとそれがなぜかはかどる。「喫茶じゃないと本を読まない」、そんな人もいる。ごく日常的な営みに少し非日常をもたらしてくれる、喫茶はそんな場所だ。日常で少し立ち止まりたい時のガイドブックになるような一冊。展開される穏やかな文章も心地よい。(小野)

菊池ひと美『江戸商い解剖図鑑』(エクスナレッジ)

菊池ひと美 著/エクスナレッジ/1870円。
菊池ひと美 著/エクスナレッジ/1870円。

江戸時代の書物『町人考見録』を元に、当時の商家の人々の暮らしや栄枯盛衰の様子を著者によるイラストと文で紹介。ついつい“破産した商家”や“奉公人のしくじり”の項目に目がいき、「人間っていつの時代も変わらないんだなあ」とベタすぎる感想を漏らす。やはり大抵はお金と異性の問題です。気を付けましょう。(守利)

『散歩の達人』2026年1月号より

文学作品の表現の一節に“散歩”的要素を見出せば、日々の街歩きのちょっとしたアクセントになったり、あるいは、見慣れた街の見え方が少し変わったりする。そんな表現の一節を、作家・書評家・YouTuberの渡辺祐真/スケザネが紹介していく、文学×散歩シリーズ【文学をポケットに散歩する】。今回は、織田作之助、太宰治、永井荷風、西行の作品・文章をご紹介します。これまでの本シリーズでは、キーワードを設定して、散歩に役立つ気持ちや視点を考えてきました。だが散歩とは具体的な「場所」あればこそ。そこで今回は「聖地巡礼」をテーマに、東京や上野といった実在の場所を描いた作品を味わってみたい。
4月23日は「本を贈る日/サン・ジョルディの日」。その日に合わせ、「さんたつ編集部メンバーがそれぞれのおすすめ“散歩本”を紹介する企画をやりましょう!」、という1人の編集部員の思い付きで実施が決まったこの企画。はじめは1人1冊、ということでしたが、なかなか1冊に絞り切れず……結果、厳選して1人3冊ずつセレクトしてきました。この記事がきっかけで「本を贈る」瞬間が生まれたらこの上ない喜びです。文京区本郷の登録有形文化財『旅館 鳳明館 本館』に集い、おすすめ本について自由気ままに語り合ってみました!
『散歩の達人』本誌では毎月、「今月のサンポマスター本」と称して編集部おすすめの本を紹介している。街歩きが好きな人なら必ずや興味をそそられるであろうタイトルが目白押しだ。というわけで、今回は2025年12月号に書評を掲載した“サンポマスター本”4冊を紹介する。
2025年は「戦後80年」。戦争の悲惨さや、記憶を未来へ継承する意義、戦後の日本や世界の歩みなどが改めて着目されています。さんたつ編集部でもこのタイミングに、“戦後80年に読みたい本・絵本・漫画”を1人3冊セレクトし、それらの本について話し合ってみました。この記事を読んで、どれか1冊でも気になるタイトルがありましたら、ぜひ手に取ってみていただきたいです。また、本企画にあたり墨田区の都立横網町公園を訪れました。「戦災の記憶」に触れるきっかけとして、こちらも併せて足を運んでみてほしいと思います。