きくち『群青のハイウェイをゆけ』(hayaoki books)
旅はきっと、日常の延長線上にあるのだ
なんの教科だっただろう。すっかり忘れてしまったが、大学時代、講義の中で「大学時代にやるべきことは?」の問いに「旅」と答えた教授がいた。「社会人になると時間がなくなる。大学生の今こそ旅をすべきだ」。その時の私は差し迫る課題の締め切りに戦々恐々としながらバイトに明け暮れ、日々を懸命に過ごすうちにコロナ禍到来。海を越えよう、と友人と計画した卒業旅行すらまともにできなかった。
そんなことをふと思い出した。本書は、埼玉県在住の会社員・きくちさんが綴(つづ)る旅の記憶だ。淡々と、そして日曜午後の日差しのようなあたたかさがあり、やさしい。その旅は決してゴージャスなものではなく、いわば日常の延長線上にあるようなものばかりだ。例えば、大学時代の先輩後輩と出身地について考察を深めるために、埼玉という地名の起源がある行田へ行く話。仕事終わりに集まり、途中、ラーメンショップに寄りつつ、たわいもない会話を交えながら夜の街を進む。一方で、著者ひとり、民主と自由を求める街・香港をさまよう話にはドキリとし、暮らしの話、甥の話には、著者はどんな人であろうかと想像する。
旅の話ではあるが、もはや人生そのものの話のように思える。いや、そうか。ありきたりな言葉ではあるが「人生は旅」なのだ。と考えれば、大学時代のうやむやが一気に晴れる、気がする。きくちさん、ありがとうございます。
好奇心のおもむくままに一歩踏み出そう。明日出合う景色も、人生という旅のなかにあるのだから。(中島)
内田朋子、後藤充『渋谷半世紀 都市×カルチャー×未来』(晶文社)
「100年に一度」と言われる大規模開発が進む渋谷をテーマに、名だたる識者・文化人によるアンソロジー。冒頭は糸井重里の読みやすいインタビュー。終盤の吉見俊哉による3本の「特別寄稿」(ページに地色が敷かれ特別感あり)では地形や鉄道、文化など多角的な視点で渋谷を読み解く。渋谷の魅力は簡単にはくくれない。(平岩)
飯塚めり、星野概念『続 喫茶の効用 実践編』(晶文社)
本を読む、勉強をする、考えごとをする……。喫茶に来るとそれがなぜかはかどる。「喫茶じゃないと本を読まない」、そんな人もいる。ごく日常的な営みに少し非日常をもたらしてくれる、喫茶はそんな場所だ。日常で少し立ち止まりたい時のガイドブックになるような一冊。展開される穏やかな文章も心地よい。(小野)
菊池ひと美『江戸商い解剖図鑑』(エクスナレッジ)
江戸時代の書物『町人考見録』を元に、当時の商家の人々の暮らしや栄枯盛衰の様子を著者によるイラストと文で紹介。ついつい“破産した商家”や“奉公人のしくじり”の項目に目がいき、「人間っていつの時代も変わらないんだなあ」とベタすぎる感想を漏らす。やはり大抵はお金と異性の問題です。気を付けましょう。(守利)
『散歩の達人』2026年1月号より









