「うちのカレーなんて普通」と言いつつ、いきなり牛すじカレー

ライター・古澤誠一郎(以下、古澤) : みんな「うちのカレーなんて普通ですよ」と言ってましたけど、一皿一皿まったく違うカレーが揃った気がします! まずは武田さんの牛すじカレーから食べつつ話していきましょう。

和の薫る牛すじ煮込みの武田家カレー。ゴーヤとらっきょうの漬物も自家製。
和の薫る牛すじ煮込みの武田家カレー。ゴーヤとらっきょうの漬物も自家製。

『散歩の達人』編集長・土屋広道(以下、土屋) : このカレー、お肉がすごく柔らかくておいしいです!

古澤 : うまいですね……。煮込むのに相当時間がかかるんじゃないですか?

「さんたつ」編集長・武田憲人(以下、武田) : 酒やショウガ、赤唐辛子も入れて1時間は煮込みます。でもカレー自体はルーの『プレミアム熟カレー』(江崎グリコ)のレシピ通り。野菜を炒めた後で、牛すじ煮込みを加えてカレーにする感じです。

カメラマン・山出高士(以下、山出) : 和の要素も感じる大人な味ですね。でも、辛くはない。

武田 : うちは子供ができてから20年以上、絶対に甘口じゃなきゃダメなんですよ。今はもう大きくなったから大丈夫かもしれないですけど。

牛すじは酒も加えて1時間煮込んでいる。
牛すじは酒も加えて1時間煮込んでいる。

ビーフ・ストロガノフのような牛肉としめじのリッチなカレー

古澤 : しかし、いきなりハードルを上げてきましたね!

土屋 : たっぷり時間をかけて作ってますからね。その点、僕のは一番早く作れるカレーかもしれない。炒めるのはタマネギだけで、具のしめじと牛肉は煮込んじゃうんで。

山出 : いやぁ、やっぱり牛肉うまいね!カレーっつうかビーフシチューでしょコレ。

武田 : ルーは何使ってるの?

土屋 : 『フォン・ド・ボー ディナーカレー』(S&B)です。奥さんの実家の味なんですけど、はじめて食べたときに「ビーフ・ストロガノフを食べてるみたいだな」って驚いて、それから僕も作るようになりました。

しめじ+牛肉のおしゃれ土屋家カレー。
しめじ+牛肉のおしゃれ土屋家カレー。

武田 : スパイシーだね。コレはうまいよ。

古澤 : 原材料にも「ソテー・ド・オニオン」なんてものが入ってますし、オシャレでリッチな味です。

山出 : しかも、しめじがよくなじんでる。

古澤 : 予算を考えると豚の切り落としとかを使いたくなりますけど、このルーとしめじにはビーフが合う気がしますね。

武田 : 具の組み合わせが面白いよね。うちみたいなジャガイモとニンジンって、つまらないなと思うんですよ。でもナスとかゴーヤとか入れると「違う!」って言われるから、「はいそうですか」って、結局普通の具に戻っちゃう。

土屋氏の奥さんは薄切りタマネギで炒めず煮込むとか。ルーはフォン・ド・ボー入り。
土屋氏の奥さんは薄切りタマネギで炒めず煮込むとか。ルーはフォン・ド・ボー入り。

飴色タマネギの手順、家ではどうしてる?

武田 : あとこの『フォン・ド・ボー ディナーカレー』の箱の裏には「40分タマネギを炒める」ってレシピもあるけど、そんなに炒めるの?

土屋 : そんな炒めないですね。もう5分くらいです。

武田 : それじゃ飴色にならないでしょ!

土屋 : いや、なります。強火でガーッと炒めて、「だいたい飴色だな」と思ったらOKにしちゃってます。

古澤 : 飴色タマネギって、カレーのおいしさの秘訣なんでしょうけど、家だと10分や15分炒めるのも面倒だったりしますからね。

武田 : うちの場合は5分蓋をして放置→少しかき混ぜてまた蓋をして放置……というのを3回くらい繰り返して飴色にしています。

古澤 : 蒸し焼き的な感じですね。

武田 : そうそう。40分とかやってられないよ!

メイクイーンと男爵を使い男爵は「溶かす用」に

古澤 : しかし、やっぱり一人ひとり全然違うカレーになってますね!

山出 : 武田さんと土屋さんは高級食材を使ってますからね。ウチのは「牛肉を使うくらいなら安い鶏肉を倍入れる!」というザ・家カレーです。ルーも『バーモントカレー』(ハウス食品)の中辛ですから。

できた瞬間1.5日目の味の山出家カレー。
できた瞬間1.5日目の味の山出家カレー。

古澤 : 乱切りした野菜の形が何気に美しいですね。

土屋 : おいしい! 2日目のカレーの美味しさを感じます。

山出 : できた瞬間に1.5日目のカレーにしたくて、野菜は具として残すもの、小さく切って溶かすものの2種類を入れています。じゃがいもは男爵とメイクイーンの両方を使って。

古澤 : なるほど! 男爵は溶けやすいですからね。

山出 : あと昭和な隠し味ですけど、おまじない程度にインスタントコーヒーを入れて、醤油も少しだけ入れてます。それで何かひと味違うカレーになる気がして。

土屋 : やっぱり山出さんもこだわってるじゃないですか!

武田 : うちは最後にカルダモンを入れてるよ。それで味がどう変わるのかは正直わからないけど(笑)。

溶かす役目の野菜は小さくカットし、素材の旨みたっぷりのカレーに。
溶かす役目の野菜は小さくカットし、素材の旨みたっぷりのカレーに。

卵入りの野菜スープを後からカレーに

古澤 : 最後が僕のカレーです。

山出 : 本格派っぽい雰囲気を醸し出してますよね。

武田 : うん。カフェっぽい。

古澤 : 実際、雰囲気頼りです。もともとこのカレーは野菜のスープ。飽きた頃にルーと肉を足してカレーにしたものなんですよ。

土屋 : 黄色く見えるのはスープに入ってた卵なんですね。カレーに溶き卵が入ってるってあまり見ないです。

野菜スープ再利用の古澤家カレー。
野菜スープ再利用の古澤家カレー。

山出 : 卵で味が丸くなってますね。そしてこのカレーも辛くない。子供の辛さ制限がない唯一のカレーなのに!

古澤 : ルーは『肉のハナマサ』の本格派っぽいもの(『お肉屋さんが作ったビンダルーカレー』)ですけど、最後に生トマトと牛乳を足して食べやすくしてます。

土屋 : お肉は鶏のムネ肉ですか?

古澤 : モモですね。僕も安さと量にこだわるので、ハナマサでルーと一緒にグラム68円のを買ってます。保存が効くように塩漬けした後で茹でておいたもので、その煮汁もスープに入れていて。

土屋 : やっぱりこだわってますね(笑)。

山出 : このキャベツのつけあわせは何が入ってるの?

古澤 : クミンとレーズンです。『たすかる料理』(按田 優子/リトルモア)という本に出ていたレシピで、クミンとレーズンが入っている以外は普通のキャベツの塩漬けです。

武田 : カレーに合うね。でもクミンを入れる文化はウチにないな。ウチは漬物も純和風だし。

カボチャ、タマネギ、卵のスープを後からカレーに。生トマトも最後に加える。
カボチャ、タマネギ、卵のスープを後からカレーに。生トマトも最後に加える。

納豆に揚げシューマイ……トッピングはどうする?

古澤 : 今日はカレー+つけあわせの形で各々が作ったものを持ち寄りましたけど、トッピングでよく使うものはありますか? 僕は近所のセブン-イレブンで買ってきたコロッケや唐揚げ棒をよく乗せます。

土屋 : うちもコロッケはよく使いますね。子どもが好きなんで「コロッケ入れて!」ってよくリクエストされます。

武田 : みなさんカツは入れないですか?

山出 : カツカレー、出したことありますよ。たんまり盛ったご飯の上にトンカツを乗せて、溢れんばかりにルーをぶっかけて。息子が「ひえー」って言いながら食ってました。

武田 : 山出さんの子供はサッカーやってるから、食事もよく食べるんでしょ。

古澤 : 男の子だと、神保町の『まんてん』みたいな揚げ物てんこ盛りのカレーは喜ぶでしょうね。

武田 : あのカレーはもはやスポーツだよね(笑)。

古澤 : 『まんてん』はシューマイまで揚げてますし、コロッケもカツも含めて「全部のせ」をしている人もいますよね。ココイチ(『カレーハウスCoCo壱番屋』)とかが広まって以降、カレーのトッピングは幅が広まった気がします。

土屋 : カツカレーは前からいろんな店でありましたけど、それ以外の種類がいろいろ増えましたよね。僕もココイチで納豆カレーをはじめて食べて、「意外にうまいな」と感心しました。

古澤 : あとみなさんは、家カレーをカレーうどんとかにすることはありますか?

山出 : うちは蕎麦つゆで割ってそばにしますね。友達が来たときはルーだけつまみに出したりもします。

古澤 : 僕はカレーうどんにするときも牛乳を足しますね。

武田 : 巣鴨の『古奈屋』のカレーうどんも牛乳が入ってたね。

古澤 : 『散歩の達人』で取材した「悠讃」というカレーうどんの人気店(現在は閉店)は生クリームが入ってました。生クリームとかココナッツミルクとかを入れると、カレーは味にコクが出ますけど、家ではなかなかやらないですよね。

中辛を辛口にしたら高3の息子に怒られた

古澤 : あとスパイスカレーは作りますか?

武田 : 何回も作ったけど、おいしいと思ったことがない! 子供が辛いのがダメだから、味が中途半端になっちゃうし。そもそも家族が求めてないし、作っても無反応だし、もうイヤになっちゃって。

山出 : 俺はコロナで外出できなかった時期に「今が手を出すべきタイミングかな」と思って、はじめて作りました。うちの嫁は、普段のカレーは「小麦粉も油もたっぷりで太るから」って食べないんですけど、スパイスカレーはガツガツ食べてましたね。

土屋 : 調合されたスパイスが家のどこかにあるんですけど、ずっと作らずに置きっぱなしです。作ってみたいんですけど、ちょっと辛いだけで子供が食べなくなるから、なかなか作る機会がないんですよ。

山出 : うちのカレーも今は中辛ですけど、黙って辛口にしたらすげえ怒られましたからね。子供、もう高3ですけど(笑)。共働き夫婦なんで、カレーはストック飯として貴重なんですよ。

古澤 : カレーは温めるだけで食べられますしね。家のカレーは個性よりも汎用性が大事なのかな、と話していて感じました。ちなみに僕の知人は、家でスパイスカレーを作ったら、奥さんに「明日はおいしいものを食べたい」と言われたそうです(笑)。

武田 : 家族にはそうやって何でも言えるけど、今日みたいに人様の家のカレーを食べたときはアレコレ言えないよねぇ。

山出 : 土屋家のカレーにはお義母さんの姿まで見え隠れしますからね。家族の味を品評しろって酷な企画ですよ!

制作スタッフ4人 プロフィール

「さんたつ」編集長 武田憲人

漬物づくりが好きな三姉妹の父。家のカレーも自身が調理担当。自慢の皿を家に忘れ、座談会には30分遅れで登場した。

『散歩の達人』編集長 土屋広道

本日は奥さんの実家のカレーで勝負。普段はごく普通の家カレーも自分で作り、子供の好きなコロッケもよくトッピング。

取材・文=古澤誠一郎

業務スーパーとエスニック食材店が好きな独身ライター。『散歩の達人』2020年9月号は家カレー企画8ページ担当。家の冷凍庫はカレーまみれに。

撮影=山出高士

カレーはかなり頻繁に作り、冷凍庫には自作の「カレーのもと」を常備。Web「さんたつ」の「町中華探検隊」隊員。