お話を聞いたのは……

写真左から、石橋拓也さん、飯嶋美優さん、白上一成さん、田井裕一さん。
写真左から、石橋拓也さん、飯嶋美優さん、白上一成さん、田井裕一さん。

石橋拓也さん(ユニット「東京力車」)…静岡県静岡市出身。芸能界に憧れ、オーディションを受けて2017年3月から活動開始。

飯嶋美優さん…栃木県足利市出身。大学生のときからアルバイトを始め、卒業して入社。現在2年目。

白上一成さん(ユニット「東京力車」)…滋賀県栗東市出身。歌手になりたくて上京。2018年5月から活動開始。

田井裕一さん(ユニット「東京力車」)…兵庫県西宮市出身。前職はウエディングプランナー。2018年5月から活動開始。

街を知り、十人十色のコースを提案

人力車のエンジンは自分。ブレーキは自分の足。
人力車のエンジンは自分。ブレーキは自分の足。

——ユニット「東京力車」は、人力車を引く俥夫でありながら、ライブ活動で各地を回っています。俥夫と歌手、どちらが先だったのでしょう?

石橋 僕らはオーディションを経て結成されたんですが、人力車と音楽活動はほぼ同時に始めました。現在、俥夫としては基本的にファンの方の予約で、1組2時間コースで一日に3組ほどをご案内しています。夕方からはダンスのレッスンやボイストレーニング、ライブだったり、翌日からの地方公演の移動だったりという感じです。

——飯嶋さんは一日何組ほどですか。

飯嶋 朝、雷門前周辺に立って、お客さまにお声がけして、ご乗車いただいて、というのをくり返して、多いときだと一日に10組くらいです。

バスでも鉄道でもない、人力車のスピードで街を楽しむ。
バスでも鉄道でもない、人力車のスピードで街を楽しむ。

——コースの組み立て方は、お客さんと相談して決めるのでしょうか。

石橋 そうですね。浅草が初めての方、知り尽くしているからコアな浅草を見たい方、それぞれ要望が違うので、お客さまと会話してニーズに応えていく形が基本です。

白上 行ったことがある場所でも、季節によって風景はずいぶん変わりますし、天気によっても違ってきます。どんな写真を撮りたいか、出発前に伺いますね。

田井 最近は推し活が流行(はや)っているので、推しグッズと浅草の景色を合わせて撮影したいというご要望も増えてきました。神社仏閣やスカイツリーと撮りますかとご提案すると、喜んでいただけることが多いです。

——そうしたスポットを探して、仕事として散歩することもありますか。

白上 俥夫になる前に研修期間があって、浅草の街や歴史、人力車のことについていろいろ勉強するんです。僕の場合は4カ月くらいでした。そのときに、いろいろ歩きまわりましたね。お客さまに紹介しないといけないので、まず自分が知らないと。街歩きが研修の一環でした。

全国に、世界に、浅草を知ってもらうきっかけを

「お客さまが水平になるには、持ち手はけっこう下がるんです」。
「お客さまが水平になるには、持ち手はけっこう下がるんです」。

——これからの季節、おすすめしたい場所を教えてください。

石橋 浅草寺さんの裏手にある待乳山聖天(まつちやましょうでん)は、イチョウがすごくきれいです。階段を上りながらイチョウの写真を撮影できますし、スカイツリーが見える庭園もあります。

飯嶋 私は大学時代に東京力車の人力車に乗ったのがきっかけで入社したのですが、初めて乗ったときに待乳山聖天に行きました。季節もちょうど紅葉シーズンだったので、乗る側だった経験を生かしておすすめしたい気持ちを伝えたいです。

白上 待乳山聖天の奥にある今戸神社は、招き猫発祥の地の一つと言われているんですが、ここにもイチョウの木があります。サクラの木もあるので、春と秋、季節によってまったく違う景色を見ることができます。

田井 その時季は、夕方4時半から5時には日が落ちてくるんですが、伝法院通りの夕暮れはおすすめです。昼間はにぎやかな通りなんですけど、日の入り近くになるとちょうちんの明かりがともって雰囲気が変わるんですね。西日が差すなか、夜の飲食店が開いてきて。昼と夜、どちらも楽しめます。

「今日も楽しく走り続けます!」。
「今日も楽しく走り続けます!」。

——ライブ活動で各地を回られていますが浅草の魅力を伝えたりも?

白上 ライブイベントに人力車を持ちこんで、その場で体験してもらったりしてます。僕たちの最初のライブは、フランスのパリで開催された「ジャパンエキスポ」だったんですが、そのときも持って行きました。のちにフランスから人力車を乗りに来てくれた方がいらっしゃって、浅草に興味をもってもらうきっかけになれているんだなと感じました。

石橋 僕らの曲で浅草の曲があるんです。『木馬亭』で公演されている「浅草21世紀」という劇団の方たちの舞台に、歌のゲストとしてご一緒したんですが、ファンの方々から「東京力車に出合って浅草に来るようになった」と聞くので、僕ら経由で浅草の良さを広げられていければと思ってます。

田井 コロナのときは仲見世通りに人がいなくて、人間よりハトのほうが多い状態が続きました。でも、あのときに街の方と接する機会が増えたんですね。それまでは互いの溝を感じるときもあったんですが、浅草の一員として認められてきた気がしました。僕たちが各地で“出張人力車”をすることで、浅草のことを知ってもらいたいです。

——地名は知っていても具体的な魅力はぼんやりしてるかもしれません。

石橋 そうですね。テレビやネットで紹介されたものだけをご案内するのはナンセンスだと僕らは思っています。知らなかったことを体験して帰ってほしい。記念日でのご利用もけっこうあって、その瞬間に立ち会えるのは喜びの一つです。

飯嶋 最近では、乗車したあとにプロポーズされた方もいらっしゃいました。特別な日に携われるのも、誇りに思っています。

「東京力車」詳細

9:00~日没、無休。
1名4000円(2名5000円)~。
チケット売り場は、東京都台東区浅草1-2-1。
☎03-5830-8845

illust_2.svg

取材・文=屋敷直子 撮影=オカダタカオ

『散歩の達人』2025年12月号より