「おもちゃの魅力は、人に夢や熱中を与えること」
比較的都会と言えるエリアで平成を過ごした幼い頃の自分にとって、おもちゃ屋といえば商業ビルのワンフロア、あるいはその一角に入っているものだった。だからこそ、池袋から西武池袋線でわずか2駅の東長崎に『おもちゃのぶんぶく』を見つけたときには胸が高鳴った。頭の中で思い描いた“理想のおもちゃ屋”がそのまま目の前に現れたからだ。
店内にはぎゅうぎゅうに積まれた箱やポスター、ショーケースの中で輝くカードやフィギュア。物量の多さゆえに少々雑然とはしているが、もしも僕が子供だったら、とっくに鼻血を出しながら目を充血させて、宝探しに没頭していたに違いない。
そんな『ぶんぶく』は、1967年の創業以来、半世紀以上にわたり地域に根差してきた老舗玩具店だ。店主は2代目の三上兼司さん。現在の主力商品はカードゲーム、とりわけ「ポケカ」が熱いらしい。店内奥の対戦スペースでは頻繁に大会が行われ、「ベイブレード」のイベントも月に数度開催される。
子供たちが店先で夢中にバトルする光景は、在りし日の遊び場的な雰囲気を思い起こさせる。かつて射的の的を並べて子供たちを集め、今はカード大会やベイブレードで熱狂を生み出す。変わらないのは、この店がいつの時代も子供たちの遊び心を受け止めてきたという事実だ。
「おもちゃの魅力は、人に夢や熱中を与えることです」と三上さんは言う。自身もカードゲームのプレイヤーであり、客と同じ目線で盛り上がれるのも、この店ならではのこと。カードを求めて来店する客に「良いの出ましたか?」と声をかけ、会話をする姿もどこかうれしそうである。
東長崎は豊島区の端にありながら池袋にも近く、近隣にはアニメ制作会社が点在し、日本大学芸術学部を有する江古田もすぐそばにある。カルチャーの気配が色濃い街で、『ぶんぶく』は半世紀以上にわたり、単なる玩具店ではなく遊びと交流の拠点として、地域の名物店であり続けている。
都会の一角に残るこの小さなおもちゃ屋は、時間を超えて子供たちの笑い声を育み続ける、かけがえのない存在なのだ。
取材・文=重竹伸之 撮影=逢坂 聡
『散歩の達人』2025年11月号より





