高畑鍬名『Tシャツの日本史』(中央公論新社)

街行く人から見えてくる、それぞれの時代の「無意識」

高畑鍬名著/中央公論新社/2200円。
高畑鍬名著/中央公論新社/2200円。

お洋服を、どのようにして身にまとうのか。この問題と最初に向き合ったのが学生服のワイシャツ、それも夏服。高校時代、「半袖を外側に1回折る」という着こなしが“イケている”という暗黙のルールがあり、折らないヤツはダサい、という扱いを受けた。じゃあ袖を折っておけばよいのかというと、そう単純ではない。イケている着こなしをしてよいのは、主に運動部所属の、クラスでも身分の高い方々に限られ、そうではない自分のような者がひとたび袖を折れば、「調子に乗っている」と袋叩きにあう。では一体どうすれば……違うんです、こんな暗い話をするつもりはなかったんです……。

本書は、Tシャツのタックイン・アウトにのみ焦点を当て、研究を続けてきた著者による、日本人とTシャツの着こなしについての考察である。Tシャツの伝来からはじまり、我々が何から影響を受け、どんな着こなしを選択してきたのか、その変遷が語られる。どの時代にも共通して言えるのは、影響力を持ったメディア、もっと言えば「ことば」の呪力により、着こなしのダサい・ダサくないが、暗黙のルールとして決められていったということ。ファッションは個性を主張するものではなく、「太陽族」や「オタク系」など、その時々につくられたことば=暗黙のルールに対しどのように距離をとるのか、という選択の結果なのだ。2025年現在、街行く人々の中には、堂々とTシャツの裾をインしている人もいる。そんな姿を目に焼き付けて、自分はインすべきか、アウトすべきか、いつも鏡の前で立ち尽くしている。(守利)

川添愛『パンチラインの言語学』(朝日新聞出版)

川添愛著/朝日新聞出版/1760円。
川添愛著/朝日新聞出版/1760円。

おなじみの映画、漫画、ドラマの名台詞=パンチラインを言語学的に読み解いた一冊。そうだったのか! 仕組みが分かれば意図的に作れるか? ……いや難しい、だからこそ名作なのだと納得してしまうところまでセットで面白い。のび太のおばあちゃんの愛の深さに涙して、ひとまず『ドラえもん』の再読を誓った。(渡邉)

ひらいめぐみ著『おいしいが聞こえる』(ハルキ文庫)

ひらいめぐみ著/ハルキ文庫/748円。
ひらいめぐみ著/ハルキ文庫/748円。

読み進めるうちに、こんなの初めて読む、と気持ちが高まる食エッセイ。ラーメンの具の再提案や、食に関する慣用句の自作など、自然とにんまりさせられる一方、最後まで読むと、タイトルの意味が胸にじんわり広がる。それにしても、たまごシールを集めていると知ったときは“走るピーマン”だと思いました。(阿部)

山内聖子『酒どころを旅する 日本酒の味わいと物語を楽しむ』(イカロス出版)

山内聖子著/イカロス出版/2200円。
山内聖子著/イカロス出版/2200円。

呑む文筆家・山内氏による全国の酒蔵案内。今回は見学または蔵で酒を購入できる酒蔵に限っているので、普段の旅行でも役立つし、日本酒本として実は画期的だ。首都圏で見かける銘柄でも、その酒蔵の様子は案外知らないもので、瓦屋根の日本建築から工場風のところまでさまざま。この多様性がまた、酒蔵巡りの楽しさだ。(高橋)

『散歩の達人』2025年11月号より

言語学に関するさまざまな話題が、プロレスにお笑い、ヒットソングからChatGPTまで、時に創作もまじえたユーモアたっぷりのアプローチで縦横無尽に綴られる川添愛さんの『言語学バーリ・トゥード』。2024年8月にはシリーズ2冊目の単行本『言語学バーリ・トゥード Round 2 ——言語版SASUKEに挑む』が出版された。この本を読んで感じる言葉を見つめる面白さは、どこか散歩の楽しみと似ている気がする……?研究者を経て、言語学やコンピュータの仕組みを分かりやすく伝える本を数多く執筆してきた川添さん。言語学のこと、人工知能のこと、ハマっているという暗渠(あんきょ)散歩のこと。いま考えていることについて、お話を伺った。
文学作品の表現の一節に“散歩”的要素を見出せば、日々の街歩きのちょっとしたアクセントになったり、あるいは、見慣れた街の見え方が少し変わったりする。そんな表現の一節を、作家・書評家・YouTuberの渡辺祐真/スケザネが紹介していく、文学×散歩シリーズ【文学をポケットに散歩する】。今回は、永井荷風、薄田泣菫(すすきだきゅうきん)、堀辰雄の随筆をご紹介します。日常のふとした瞬間を記した文章を読んでいると、よく出会うのは「どうかすると」の一語。昔、アメリカ人の友人に、これってどういう意味と訊かれて、答えに困りました。なんで説明しづらいのかをよく考えると、言葉にし難い一瞬を表現した言葉だからだとふと気がついたのです。そしてその感覚は散歩に必須なのではないか。そんな思いを文章にしています。浅草、奈良、パリと、場所は全く違うのですが、「どうかすると」が導く一瞬を、ぜひ味わってください。
2025年は「戦後80年」。戦争の悲惨さや、記憶を未来へ継承する意義、戦後の日本や世界の歩みなどが改めて着目されています。さんたつ編集部でもこのタイミングに、“戦後80年に読みたい本・絵本・漫画”を1人3冊セレクトし、それらの本について話し合ってみました。この記事を読んで、どれか1冊でも気になるタイトルがありましたら、ぜひ手に取ってみていただきたいです。また、本企画にあたり墨田区の都立横網町公園を訪れました。「戦災の記憶」に触れるきっかけとして、こちらも併せて足を運んでみてほしいと思います。
『散歩の達人』本誌では毎月、「今月のサンポマスター本」と称して編集部おすすめの本を紹介している。街歩きが好きな人なら必ずや興味をそそられるであろうタイトルが目白押しだ。というわけで、今回は2025年10月号に書評を掲載した“サンポマスター本”4冊を紹介する。
4月23日は「本を贈る日/サン・ジョルディの日」。その日に合わせ、「さんたつ編集部メンバーがそれぞれのおすすめ“散歩本”を紹介する企画をやりましょう!」、という1人の編集部員の思い付きで実施が決まったこの企画。はじめは1人1冊、ということでしたが、なかなか1冊に絞り切れず……結果、厳選して1人3冊ずつセレクトしてきました。この記事がきっかけで「本を贈る」瞬間が生まれたらこの上ない喜びです。文京区本郷の登録有形文化財『旅館 鳳明館 本館』に集い、おすすめ本について自由気ままに語り合ってみました!