広々した店内でも、さわやかなオープンテラスでも
緑豊かな店内と聞き、てっきりもっと駅から遠いと思っていた。入り口からはそれほど広く見えなかったため、店内の開放感に驚く。緑が目隠しになっていて外からはわからなかったが、外のテラス席も余裕のある造り。
「双子用のベビーカーでも押して入れるんですよ」
と店長の斎藤さん。たしかに入り口は幅広く、パンを並べた平台の周りにも余裕がたっぷり。ベビーカーの人にとって便利ということは、誰にでも見やすいということだ。そして開放感にも一役買っている。
噛みごたえのあるパンとバランスのいいパテが◎のバインミー
評判のバインミーを店内でいただいた。これはイートインのみのメニューなので、ぜひコーヒーとともに楽しもう。
バインミーとは、バゲットに肉や野菜、ハーブを挟んだベトナムのサンドイッチ。大根と人参の甘酢漬けが入っているのが独特だ。これが見た目も味も、おせち料理の定番であるなますにそっくりなのがおもしろい。
このなますが、酸っぱすぎるのは嫌だけど、酸っぱさが足りないとつまらない……という、けっこう難しいもの。だが、このお店のバインミーはバランスがとてもすばらしい! 入っていたパクチー量も適度でふわっと香り、心地のよいさわやかさ。肉のパテもしっかりとコクがあった。
そして、なんといっても自家製酵母を使ったバケットだ。噛みごたえたっぷりで「食べてる」感が楽しいし、小麦本来の甘みもきちんと感じられる。
自由に「えだおね時間」を楽しんでもらいたい
実を言うと、店長の斎藤さんとオーナーの竹内さん、ふたりともパンを作れない。個人店では珍しいと思うのだけど……。
銀行員だった竹内さんは、ロンドンに仕事で住んでいた頃、好きな時間を過ごす空間としてのカフェスタイルを目の当たりにした。そこで描いた夢は「自分もパン屋をやりたい!」。竹内さんは銀行を辞め、パートナーである斎藤さんとお店をオープンしたのだ。
パンは焼けないけれど、お客さんの目線で商品開発し、楽しんでもらえる空間を提供することはできる。
「わたしは花屋の娘、彼は魚屋の息子なんで、サラリーマンをしてても、いつかお店をやらなくちゃ、ってなぜか思ってたんですよね」。ふたりの根っこある「商店の気質」が開業への熱意の源だったのかもしれない。
「一往復半のやりとり」を大切に
自家製酵母を使用した定番のパンを含め、常時50種類を超すラインナップにはもちろん自信がある。しかし、常に新商品の開発も行われている。開発にはパン職人やスタッフもアイデアを出し、店が一丸となって作り上げていく。それが職人のモチベーションのアップにもなり、商品全体のレベルが上っていく。
「売る」「買う」「感想を聞く」。そして「成長する」。
地域と距離が近いからこそできる「一往復半」のやりとりを大切に、荻窪で「普段遣いのパン」を長く提供していきたい。斎藤さんはそう語った。
店名の「えだおね」とは登山用語で、尾根が枝のように連なった様子を指す。山の中で感じるような、木のぬくもりを感じる、誰にとってもやさしい店だと感じた。
取材・⽂・撮影=ミヤウチマサコ