『散歩で出会える 街の木・公園の木図鑑』

掲載樹木は150種以上。美しいイラストも必見

おくやまひさし著/交通新聞社/2200円
おくやまひさし著/交通新聞社/2200円

覚えている読者は少ないだろうが、かつて『散歩の達人』本誌に「里山レシピ」という連載があった(2017年12月号~2019年11月号)。お金を使わず、近場の里山や公園で自然を学び遊ぶ企画ができないか?と、『大人の里山さんぽ図鑑』(交通新聞社)著者のおくやま氏と始めた連載だった。毎月新しい発見ばかりで、取材に出るのが楽しみだったが、打ち合わせのたびにおくやま氏にもらうさまざまな果実酒も楽しみだった。中でも印象的な味だったヤマモモが近所の無人販売所で売っていたので買ってみると、いただいた果実酒はおいしかったのに、果実そのままだと酸味が強いだけでおいしくない。でも、試しに作ってみたジャムが信じられないほど美味だった。加工すればこんなにおいしくなるのか!と感動したものだ。

ヤマモモに限らず、樹木は季節ごとに美しい花を咲かせ、特徴的な木の実をつけているからこそ気になる存在だ。「きれいな花だけど何の木?」というちょっとした疑問が解決するだけで、散歩や里山歩きが楽しくなる。本書は、街なかや公園で見かける樹木を四季の見どころでまとめた一冊。主な樹木には植物の生態が分かる、美しいイラストも掲載しているが、このイラストが写真に負けないほど写実的で、細部まで樹木を観察することができる。また、NFTデジタル付録として、本書の電子書籍も付いているので、スマホに入れておけば、いつでも気になる樹木をチェックOK。さらに前述の連載「里山レシピ」12回分も特別に読める。いつもの散歩に彩りを加えてくれる一冊になるはずだ。(元編集部・土屋)

『マンションポエム東京論』

大山顕著/本の雑誌社/2970円
大山顕著/本の雑誌社/2970円

マンション広告に書かれた、大仰で詩的なキャッチコピー。著者はこれを「マンションポエム」と命名。収集、分析を行うことで、不動産業界の、ひいては東京という都市の本質に迫っていく。本書で紹介される「ポエム」は一見笑ってしまうが、その実はいたって本気。東京を東京たらしめている一端に、この「詩人」たちの活躍ありなのだ。(守利)

『一銭五厘たちの横丁』

児玉隆也著、桑原甲子雄写真/ちくま文庫/1100円
児玉隆也著、桑原甲子雄写真/ちくま文庫/1100円

どこか緊張した面持ちでモノクロ写真におさまるのは、台東区の下町で撮影された出征軍人の留守家族。本書は彼ら「氏名不詳」の人々を探し出し、声を聞いたルポ。1975年日本エッセイスト・クラブ賞受賞。「一銭五厘」は召集令状の葉書代で、兵士の命の値ともいわれる。2児の母としては、このワードだけで胸がつまるわけです。(平岩)

『大阪のなぞ 歴史がつくってきた街のかたち』

橋爪紳也著/河出新書/990円
橋爪紳也著/河出新書/990円

現在、万博でにぎわう大阪を、建築・交通・商売・都市・歴史の側面から掘り下げる1冊。長年にわたり“大阪人も知らない大阪”を見つめてきた筆者だからこその視点で紡がれるこの街は、「なんでやねん!」という言葉ではツッコミきれないほど驚きに満ちている。100円ショップの原点は大阪にあるって知ってました?(中島)

『散歩の達人』2025年8月号より