近代的ビル群と歴史的建造物が融合する港区の景観
江戸時代は大名が暮らす武家屋敷が立ち並んでいたという港区。現在は交通の便がよく、オフィスビルが林立する一方で、たくさんの寺社も残されている。
大門駅から東京タワー方面にまっすぐ進んだ先にあるのが、600年以上もの歴史をもつ増上寺。増上寺に向かう途中、オフィス街の道路に突如として現れるのが駅名の由来となった「大門」だ。近代的なビルに囲まれた門の下を自動車が行き来する。江戸時代はここまでが増上寺の敷地だったそう。
大門をくぐり、増上寺に着く手前を右に曲がったところに港区役所がある。ビルに囲まれた路地を抜けると、正面は芝公園に面していて緑豊か。
『港区役所職員食堂 レストラン・ポート』があるのは最上階。区役所の建物は北側と南側に分かれており、中央にエレベーターがある。一気に11階まで上がり、南側へ。突き当たりがレストランの入り口だ。
店内は動線がしっかりと決められている。メニューを選ぶ→食券を買う→カウンターで料理を受け取る→着席という順番。席を確保するのは料理を受け取ってからだ。
ランチは、そば、うどん、カレー、ラーメンなどの定番メニューのほか、日替わりメニューが3種類(弁当、定食、ヘルシー定食)、週替わり丼、週替わり麺、期間限定定食が用意されている。
定番のカレーやラーメンも気になるけど、日替わりメニューも気になるなー。いつもサンプルを目の前にして悩むのだが、筆者はもともと魚好きなもので、だいたい魚料理を選ぶ傾向にある。今日はさばのねぎ味噌焼きに決定!
受取カウンターでは、まず味噌汁のお椀と好きな小鉢1つをトレーに取って、食券をスタッフに。ごはんは白米と十五穀米から選べる。
探求心旺盛なシェフがつくる野菜たっぷりランチ
料理を受け取り、さあ座席を確保しようとここで初めて客席エリアに出る。広々としたフロアの、正面の窓には東京タワーがどーん!! 窓から離れて眺めると、本当に目の前に立っているように感じる。これは都心の絶景だ。
窓際の席に座ると、東京タワーのてっぺんまで眺めることができて、手前には増上寺を見ることもできる。窓から遠めの席で間近に感じる東京タワーをぼんやり眺めるのもいい。窓から少し遠めの席を確保して、さっそくヘルシーランチをいただきます!
まずはメインのサバから。ふっくらとしたサバと香ばしいねぎ味噌が相性抜群! これはご飯が進むやつ。
付け合わせの大根とがんも。どちらもお出汁をたっぷり吸っていて、ほっとする味わい。大根とがんも、別々に出汁を作って丁寧に炊いているそう。野菜の和え物はゆず風味で、これもやさしいお味。
メインが和のおかずだったので、小鉢はあえて洋風のマカロニナポリタンをチョイスしてみた。ジャガイモ、トマト、パプリカが使われていて、見た目より野菜たっぷりだ。ケチャップだけじゃない、奥深い味わいを感じる。これ選んで正解だった! と自己満足。
「ヘルシー定食には毎日必ず野菜を120g以上使うようにしています」と教えてくれたのは、店長でシェフの内山裕之さん。
「今日のヘルシー定食には150gぐらい使っています。ネギもたっぷりと、和え物にはモヤシ、ニンジン、小松菜を入れています。ランチの時間帯にはこの近くにもキッチンカーが来ますけど、見ると大体野菜が不足してる。ここでは野菜たっぷりのランチが食べられるんです」
これまで取材した役所の食堂では、どこも専属の栄養士さんがレシピを作成すると聞いてきたが、内山さんは自身が栄養士の資格も持っていて、メニュー作りも一手に担っているそう。
「高校生の頃のスーパーのお総菜コーナーでのアルバイトをきっかけに、料理に興味を持つようになった」という内山さん。もともと気になることはどんどん探りたくなる性格で、お総菜を眺めては「作り方は? 素材は何?」と考え、実際に作ってみたりした。高校卒業後、調理の専門学校に進もうと考えたが、「その性格なんだから栄養学を学んでみたら?」と母親からすすめられ、栄養専門学校に入学。栄養士の資格を取得した。
内山さんに、学生時代のアルバイトや社会人になってからの仕事の経験をいろいろ伺っていると、「私が『港区役所職員食堂 レストラン・ポート』に着任するとき、なにかこの店の名物をつくってほしいと言われたんです。私は個人的にインドカレーが大好きで、地元の茨城に行きつけのカレー屋さんがあるんですけど、実はそこのインド人シェフに『おいしいカレーの作り方ない?』って聞いたんですよ」。
そこで教わったのが、「タマネギと肉を前日からスパイスでマリネする」というやり方。「よくよく聞いてみたら、その人、元宮廷料理人だったんです」。
えーっ! ここのカレーはそのお店のレシピで作られているんですか? ちなみに、役所の食堂のカレーは地元の名物の名前がついていることが多く、この店の定番カレーのメニュー名は「大門カレー」だ。だったらもっとインドっぽい名前をつけたほうが……?
「いや、大門カレーのレシピはオリジナルなんです。ただ、タマネギと肉を前日にマリネすることと、油にスパイスの風味をつけることも重要だよ、と教わって。それをベースに、この店のレシピをつくりました。大門カレーはこの店のウリですね」
カフェタイムでも食べられる名物大門カレー
えーっ、えーっ、えーっ!? そんなお話を聞いてしまったら、大門カレーを食べずには帰れないじゃないですか。あっ、でもお話を伺っているうちにランチタイムが終わってしまった……。
「カフェタイムはドリンクがメインなのですが、大門カレーだけは継続して提供してますよ。この店の名物なんで」
本当ですか! よかった! じゃあもう1周してきまーす!
「定食を食べたばっかりなのに大丈夫ですか?」と内山さんに心配されつつ、たっぷりと盛られたカレーを嬉々としてテーブルに運ぶ。
スプーンにのらないのでは? と思うくらいの大きな野菜がゴロゴロ。ひと口頬張ったとたん、パンチの効いたスパイス感が口の中に広がる。最初に甘みを感じてから辛味が追ってくるタイプのカレーもあるが、これは最初にガツンとスパイスを感じてから、酸味と甘みが追ってくる。
「スパイスのほかにバターやはちみつも入れています。それと、桃の缶詰をピューレにして、仕上げに入れる。これもインド人シェフに教わりました。カレーの中に感じる酸味は桃の酸味ですね」と内山さん。
ひと口目からスパイシーさは感じるけど決して辛すぎず、後からくる酸味や甘みの余韻で飽きることなく食べ進む。手間ひまかけてじっくり仕込んでいるからこその味わいだろう。週に1度は食べに来るという常連さんの気持ち、分かるなー。食べ応えのあるニンジンやジャガイモにも大満足。あっという間に完食しました!
なにかと高級なイメージがある港区で、リーズナブルに、しかも絶景を眺めながらランチが食べられるなんて、『港区役所職員食堂 レストラン・ポート』はイチ押しの穴場スポットと言えるだろう。
本当はこの日、サンプルメニューを見て一番最初に胸がときめいたのは週替わり麺の背徳の豚あぶらそば600円だった。役所の食堂なのにちっともヘルシーじゃなさそうなのがかえって気になって。
次に来たときにはどんなメニューがあるか、今後も内山さんの遊び心あるレシピづくりに期待しています!
ランチ11:00~14:00LO
カフェ14:00~16:00LO/定休日:土・日・祝/アクセス:地下鉄浅草線・大江戸線大門駅から徒歩4分
取材・文・撮影=マルヤマミキ






