吉野家
ハムエッグ牛小鉢定食(販売時間4:00~11:00) 503円
レギュラー不動の鉄板朝メニュー陣に昨シーズン割って入ってくるなり、朝の人気ナンバーワンの称号を得た“朝の雄”。2009年にも登場したがオペレーションの煩雑(はんざつ)さが災いとなり支持を得ながら抹消。その後時代を経て技術的な問題が解消され、目の前で調理する鉄皿のハムとエッグの提供が可能となった。組み合わせとして牛小鉢を納豆に変更(404円)、卵を2つにしたWハムエッグ牛小鉢602円も。
松屋
ソーセージエッグ定食(販売時間5:00~11:00) 410円
牛丼屋の朝食シーンに燦然(さんぜん)と輝く人気のロングセラー朝食だ。このソーセージが特別に美味いというわけじゃない。ただ、好きなんだ。この組み合わせが。朝というシチュエーションにほのかなやる気を灯す一本のソーセージ。さらに選べる小鉢で牛皿なんて重めのチョイスをしても、お新香と海苔という脇役両名が下支えする安心感。牛皿をとろろや納豆に変更し、目玉焼きを潰してまぜる食べ方もおすすめ。
すき家
まぜのっけごはん朝食(販売時間5:00~11:00) 350円
オクラにおんたまと、研ナオコが耳元で囁(ささや)いてきそうな強壮トリオに牛小鉢までついて350円。朝から元気ハツラツが約束された朝メニュー。ちなみに神奈川県限定だった「鮭のっけ朝食」が8月からは全国販売する予定。その他注目の朝食は“粗挽きソーセージ”か。~黒胡椒香る~とサブタイトルで余韻もたっぷり。あと朝の「牛丼モーニングセット」には松屋と同様で味噌汁ではなく豚汁がつく。
丼太郎
朝定食(販売時間6:00~11:00) 250円
孤高の牛丼屋、『丼太郎』は朝食だろうが何だろうがやることは同じ。シンプルにおいしく安く。何よりも値段を重視した朝定食は250円。ごはん、卵に海苔、味噌汁、お新香。牛皿どころかキラーコンテンツの納豆すらも入らない、5人の地味めヒーロー。それでも単品の大盛りライスが210円、納豆丼が220円ということを考えると、一体なんて安さなのだろうかと戸惑わずにはいられない。
朝メシに奇抜さはいらない 定番のルーティンが大事なのだ
牛丼屋の朝定食とは、一体何なのか。
そもそも牛丼ってのは朝の食べ物なのである。夜明け前の築地市場で働く人たちの活力となるために、安くて早くてうまい“ニッポンの牛丼”というものが生まれたのだ。牛丼食べて「やったねパパ。明日もホームランだ」なんてCMが流れた1980年。牛丼屋で食べるものは牛丼と、物事はとてもシンプルで『吉野家』も“牛丼ひとすじ80年”なんて謳(うた)っていられた。しかし、そんな時代もこの辺りまでで、1982年から『吉野家』は“牛丼屋の朝定食”という概念を世に送り出す。
それは時代とライフスタイルと客層の変化。築地相手のパワー系朝メシから、全国に店舗も増えて、都会型サラリーマンを対象にした“朝メシ”が必要となった。
簡単にいえば「リーマンは朝から牛丼じゃ重いよ」だ。そうして生まれたのが『吉野家』の朝定食。当時はA定食(オムレツ)B定食(焼き魚)C定食(納豆)という並びだった。
一方、1968年江古田に開店した『松屋』。牛めし&定食&カレーの三本柱は当時から健在。朝定食は1985年からで、現在の朝定食の最強王者「ソーセージエッグ定食」がすでにラインナップされていたという。
これらのことからわかること。
“朝定食は息が長い”。
「朝食は同じものを食べたがる傾向があります。習慣化するからこそ、メニュー改訂は一番厳しい。だから、これまで大きなメニューチェンジもなく定番というものが出続けているんです」(吉野家広報・寺澤裕士さん)
なるほど確かに言われてみれば。『吉野家』の朝定食ラインナップは昨年登場し定番入りした「ハムエッグ定食」が奇跡的な存在なだけで、40年間ほぼ同じ顔。朝カレーでリズムを作るのはイチローだけじゃない。朝メシは同じリズムで同じ味のルーティンを好まれるから、牛丼界が泥沼のデフレ戦争に陥っていた時だって朝定食は値段据え置き蚊帳の外。奇を衒(てら)ったメニューが少ないことも「余計なことすんな」って意見が多いのだろう。
ルーティンに彩りを添える 小鉢という縁の下の力持ち
定番、ソーセージエッグ、焼き鮭。そんなルーティンに変化をつけるのが、“小鉢”の役割だ。「選べる小鉢」が特徴の『松屋』の朝食。牛皿、納豆、とろろに冷やっこと毎日のルーティンのメニューの中に小鉢で少しの変化を嗜(たしな)むおかしみ。かゆいところに手が届く。さらにいつもの生野菜と味噌汁も定食に付いてくるが、朝はまた違った表情を見せるのもいいもんだ。
バラエティ性じゃ負けられないのが『すき家』で、朝メシはルーティンの中にもやっぱり遊び心が見える。焼き魚は鮭とサバ。定番系の小鉢にマヨポテを付けてくるあたりのセンス。「まぜのっけごはん朝食」も然ることながら“ハム”と“ソーセージ”に対する「粗挽きソーセージ」を持ってくる三つ巴感は、実に『すき家』だ。
ちなみに筆者は20年前に『すき家』で朝バイトをしたことがある。朝定食の人気っぷりを身を以(もっ)て体験している。あれは、とんでもない戦場だった。お盆に小鉢をせっせと並べながら、なぜこんなに人が来るのかと疑問をもったものだ。
今ならば少しわかる。同じ景色で同じ味。早い・安い・うまいにあったかいを加えた、朝のルーティンに同じ朝食を食べて、心と体をととのえる。それは朝の儀式だ。
朝でも牛丼至上主義な筆者のような人には、『吉野家』が「朝牛セット」を最近はじめ、3社ともにお得な朝牛丼のセットを扱っているのもうれしいが、“朝の牛小鉢”が昼夜とはまったく違う顔を見せるように、朝定食という独特の世界にもたまに触れたくなる。
最後に茗荷谷、隠し砦の『丼太郎』の話を。「牛丼太郎」時代から朝定食は人気。最安値250円。それより安い納豆丼220円があれど、一点突破シンプルの極みな朝定食は「3食丼太郎で食べるバリエーションとして必須」。深い。
それでは最後に朝定食と掛けてこの原稿と解いてみる。そのココロはノリでごまかします。
取材・文=村瀬秀信 撮影=山出高士
『散歩の達人』2020年8月号より