家や学校、職場とは違う誰かにとっての居場所でありたい
『PARCO吉祥寺店』や『東急百貨店吉祥寺店』が並ぶ吉祥寺大通り。練馬方面に20分ほど歩いていくと、小さな店が連なった長屋の一角に『CAFE222』がある。
駅からひたすらまっすぐ歩いてきたけれど、周辺にはコンビニや飲食店、スーパーが点在し路地に入れば住宅や畑、公園がある。きっと夜は静かなのだろう。この辺りこそ住みたい街・吉祥寺のリアルな姿なんじゃないかなぁ。
大きなガラス窓から店内が見える。レトロさとナチュラルさがミックスされていて、いい雰囲気。中に入ると、店主の岩崎花子さんが迎えてくれた。
このカフェは2023年7月にオープン。喫茶店やカフェが好きだという岩崎さん夫婦が、「家や学校、職場とは違う誰かにとっての居場所になるようなお店」を目指して開いた。夫の岩崎秀樹さんはこの店から徒歩で行ける練馬区関町出身。幼少から慣れ親しんだこの土地で、夫婦2人で賄える小さなカフェを開きたいと考えていたそうだ。
自身にも行きつけの喫茶店やカフェがある妻の花子さんは、「日々の生活の中で、帰り道にふらっと立ち寄れる居場所としてのカフェや喫茶店に救われたこともありました。実は夫の両親も1日に3回も外へお茶を飲みに行ってしまうくらい喫茶店好きなので、いろんな世代の方に親しまれるような店にしたいと思いました」と話す。
看板メニューは、ミートソースとプリン、そして懐かしのたぬきケーキ! 日常的に楽しめるものを選び、なおかつ家庭らしい味にしているという。
オープン以来、近隣に住む常連客も増えているが、最近では雑誌、インターネットやSNSで紹介され始めたため土・日・祝日は遠方からやって来るお客さんもいる。
「お隣の『Gallery ナベサン』の店主ともよく話すんですけど、この辺りは吉祥寺駅から距離があるので、せっかくなら周辺のいろんなお店を巡って楽しんでほしいんです」と秀樹さん。吉祥寺駅前のにぎやかさではなく「ちょっとしっとりしているのがこの地域のよさ」と語るものの、地域をもっと盛り上げたいと吉祥寺と練馬区の近隣店舗に声をかけ、2024年11月に「奥吉祥寺はじっこまつり」を開催。今後も継続していく予定だ。
デザイナー夫婦が作ったこだわりの空間
カウンターや壁の色、提供するメニューのひとつひとつにお2人の“お気に入り”がちりばめられた『CAFE222』。店内のどこを切り取って見てもセンスがいいなあと思ったのだが、それもそのはず。花子さんはメーカーでさまざまなグッズ制作を担当してきたグラフィックデザイナー、秀樹さんはディスプレイや内装の施工を行うデザイナーとしての顔も持っているのだ。
花子さんはメーカーで会社員として働いていたのだが、カフェを開く夢を叶えるため、退社して製菓学校でイチから本格的にお菓子作りを学んだ。
「グラフィックもお菓子も、私の中では同じ引き出しなんです。会社員として働いていたときの経験を生かして、地域に住む人たちに向けたアイテムを考案しました」と真剣な表情で話す花子さん。
一方で秀樹さんは、店の内装のほとんどを自作。外の立て看板や店内のカウンターづくり、壁の漆喰を塗ることまでお手のもの!
「温かい雰囲気を出したかったので、壁はスモーキーグリーンにしました。デザインから施工までできるので、『CAFE 222』をショールームみたいに思っていただけたらいいなと思っています」
ステッカーや紙ものなど平面のデザインは花子さん。内装や立体物は秀樹さんが担当。2人の感性が混ざり合って心地よい空間が生まれている。
何度も試作を重ねて完成したネオたぬきケーキへの情熱
ほっこりとした岩崎さん夫婦の話をもっと聞いていたいけど、ここは看板メニューのひとつ、ネオたぬきケーキを食べてみたい。おとものドリンクにはジンジャーエールを選んだ。
ジンジャーシロップを作っているときは「カレーを作っているのかな?と思うくらいすごい量のスパイスを入れています」と笑う花子さん。うわぁ、ドリンクを作っている段階で店内に漂ってくるスパイシーな香り。これを飲んだら元気が出そう。すぐにネオたぬきケーキもやってきたので、さっそくいただきまーす。
ネオたぬきケーキのかわいさにキュン死しそうになりながらも、まずは自家製スパイスジンジャーエールをゴクリ。うわぁ、しょうがの辛味やさまざまなスパイスがヒリヒリと喉を刺す! しかし、なんと芳醇なこと。甘ったるくないのでケーキにも合う。
ネオたぬきケーキにナイフを入れようとしたが、さてどうやって食べたら良いのやら。カウンターにあった食器棚に食べ方指南が書かれていたので参考にした。
たまたま座ったカウンターの前に、たぬきケーキのグッズで人気のイラストレーター・鈴木二子さん(it.link/futakosuzuki)による食べ方指南が!
「たぬきケーキは昭和の中頃に流行しました。もともとフランス菓子だったケーキをかわいらしく真心あふれる形に作った、日本独特のものだと思うんです。手間がかかるので絶滅危惧種になっているのですが、大好きなたぬきケーキを次世代にも残していきたくて、現代版にアレンジし何度も試作を重ねて作りました」
花子さんの熱い思いを受け取り、いざ入刀!
「頭部と胴体、どちらも濃厚なので小さめの作りにしました。それと、たぬきケーキはあくまでも庶民のおやつであってほしいので頑張って価格を抑えています」という花子さん。手間がかかっても作り続けたいと語る姿には拍手を送りたい。バタークリームとガトーショコラの絶妙なバランスや上品な味わい。そして、譲れないかわいらしさ! すべてを兼ね揃えるためひとつずつ丹精込めて作っていることはひとくち食べればわかる。
おいしくてかわいいこのネオたぬきケーキを喜んで食べてくれそうな人が何人か思い浮かんだ。そうだ、次はあの人に買っていこう! 食べた時の笑顔を思い浮かべながら吉祥寺駅まで歩いて帰った。
取材・文・撮影=パンチ広沢