街で普段見かけるものの図鑑
街角に何気なく存在しているものにも、それぞれ名前や種類がある。三土たつおさんの著書『街角図鑑』(実業之日本社)では、赤い三角コーンや、マンホール蓋、ガードレールなど、家から一歩外に出れば必ずと言っていいほど目にするものの名前や鑑賞法が紹介されている。
「子供が生まれて、昆虫図鑑や魚の図鑑などを揃えるようになったんですが、街で普段見かけるものについての図鑑はない。
例えば街で三角コーンを目にした時『この三角コーンはなんという名前でどこのメーカーのものなのか』が調べられる図鑑があるといいなと思い、デイリーポータルZで記事にしたところ、編集者の方の目に止まったというのが、『街角図鑑』出版のきっかけです。
出版後に、お子さんが本を読んだことで街なかのものの名前を言えるようになった、自由研究の題材にした、という反響をいただいた時は、とてもうれしかったですね」
なんでもなさそうなものにも名前や歴史がある
『街角図鑑』の表紙を飾るのが、赤い三角コーンだ。
「三角コーンは、約80年前にアメリカで車止めとして作られたのが最初です。それ以前は大きな木を組んで物理的に車を阻止していましたが、それだと大変だったので、便利な軽いものとして発明されました。当初はタイヤの廃材を使用した、黒いゴム製だったそうです。中を中空にすることで重ねて保管できる点が画期的でした」
現在では、敷地の境界を知らせたり、進入禁止を示したりと、三角コーンは幅広いシチュエーションで活用されている。
「三角コーンは大きく分類すると、軽く安い一般向けと、高くて重いプロ用とに分かれます。一般向けの製品はポリエチレン製で、一つ500円など安価に入手できますが、紫外線に当たると風化し、風で飛んでしまう場合もあります」
「それに対しプロ仕様のものは、一つ1万円以上したりします。塩化ビニル等の素材で、トラックに踏まれた場合でも元に戻るので、工事現場などで活用されています」
よく見かける赤いものからカラフルなもの、膝の下ほどの高さの小さいものから180cmと巨大なものまで、デザインも多種多様だ。
「工事現場などで危険を知らせる目的で使用される場合は赤い三角コーンが使われますが、商業施設や店舗などの私有地では、赤以外の色のものもあります」
「京都の寺社仏閣の周りでは、竹カバーで覆われた三角コーンをよく見かけます。最近ではオリンピックの影響もあり、安全性を意図した透明な三角コーンがシェアを広げつつあります」
何かに詳しい人と歩くのはエンターテインメント!
『街角図鑑』に載っているのは、三角コーンをはじめ、よく見かけるのに図鑑としてまとまっていなかったもの。手がかりが少ない中で、どうやって調べ上げていったのだろうか。
「最初は目についたものを手当たり次第写真に撮っていきました。そうすると見た目などから少しずつ分類ができていきます。
三角コーンかもしれないと分かれば、メーカーにどうにかしてたどり着いて、オンラインで公開されたカタログを片っ端から見ていきました。そうやってカタログを一次資料にして、写真と見比べて種類を特定していきましたね」
風景に埋没していたものの名前や種類を知る。シンプルだが、そうやって日常風景の中に誰かの確かな手仕事を感じると、周りの世界は一気に彩り豊かになる。誰かと視点や知識をクロスさせることで、さらにそれは倍増する。
「これだけ調べても、街には知らないものだらけ。知らないものを見つけたら、調べてメモしています。また、普段から一人で歩く時には、大通りではなく積極的に裏通りに入っていって、知らない道を歩くようにしています。さらに、何人かで一緒に街を歩くと、自分が見えていなかったことを教えてもらえて楽しいです。何かに詳しい人と一緒に歩くのは、エンターテインメントですね」
取材・構成=村田あやこ
※記事内の写真はすべて三土たつおさん提供