動物系、魚介系、野菜と果物の自家製ジュースを加えて3日かけたスープ
国分寺駅北口を出て、東に3分ほど歩いたところにある『自家製麺つけ麺 紅葉』。店内はカウンター席が10席。お店の場所は、線路から近く、時おり電車が通る音も聞こえてくる。
さて、店を訪れて食券を買う前に理解しておくべきことがある。
夜と昼ではメニューが異なり、それぞれ5種類ほどから麺を選べる。そして、麺の量は180g(小盛)から640g(特大盛)まで6段階もあることだ。
お店がオープンしたころから愛されている“創業からのつけ麺”は、現在は夜のメニューとして提供されている。取材時は夜。その創業からのつけ麺を並盛り(270g)でいただこうと食券を差し出すと、さらに「麺の種類は何にいたしますか?」と尋ねられた。
席のパーテーションに麺の一覧と、その説明が貼られているのでじっくり見る。
今回は初めてなので「一番人気の王道麺」と書かれた太麺を注文した。
すると、まず具材の入ったスープが出てくる。創業からのつけ麺のスープは濃厚ながら重くはなく、しかし複雑な味わいだ。
3日間かけて作っているという自慢のスープには、たくさんの食材を使っている。その内訳は豚のゲンコツや豚足、鶏のもみじ、丸鶏など動物系と、カツオ、アゴ、サバなど魚介系に、さらにキャベツや玉ねぎ、りんごなど複数の野菜と果物を使った自家製のジュースまでブレンドしている。
麺類のスープに使われる野菜といえば、生姜やネギなど香味野菜が臭み取りなどで使われるイメージだが、『自家製麺つけ麺 紅葉』では重要な役割を担っている。
「動物系のスープにある臭みを消すだけでなく、スープに自然な甘さを加えています。野菜と果物が入ることで、胃もたれしないやさしいスープになっています」と店主の湯澤さんが教えてくれた。
打ちたてか熟成かも種類別。制覇したくなるいろいろな麺
続いてツヤっとした麺が出された。太麺というだけあって太さはしっかり。並盛りはゆでる前で270gもあって、食べ応えのある量だ。麺がところどころ茶色いのは全粒粉が使われているからで、噛んでいると小麦の香ばしさがしっかり感じられる。
麺は店内の製麺機で毎日作られていて、種類は昼と夜を合わせて約10種類。打ち方や太さ、配合を変えているという凝り具合だ。
「つけ麺用の太麺や平打ち麺は、その日に作った打ちたてです。うちのスープに熟成させた太めの麺を合わせると、麺の方が強くなりすぎてスープとのバランスが悪くなってしまいます。細麺は昼と夜で共通なのですが、こちらは味をしっかりさせるために寝かせています」と、麺に合わせて作り方、寝かせる時間まで調整。どれだけの情熱で試作を繰り返したのかと驚いてしまう。
スープに加える薬味として、玉ねぎのみじん切り、揚げ玉、生姜も用意されている。また「麺に少しかけるとさっぱりしますよ」と渡されたのがレモン酢。最後にはスープ割用のスープも準備されている。つまり1杯のつけ麺で、スープにも麺にも味変の要素が添えられて、いくつもの味が楽しめる。せっかくだからと何かを加えてはひとくち食べることを繰り返していると、いつの間にか食べ終わってしまった。
天ぷら店の職人からアイデアあふれるつけ麺店の店主に
店主の湯澤さんは飲食業界に携わって35年以上のベテランだ。独立前に天ぷらのチェーン店で調理技術と店舗運営の経験を積んだ。ラーメン店は独立したらやってみたかった業態のひとつで、仕事で天ぷらを揚げていた20代のころから、自宅でラーメン用のスープの研究を繰り返していた。
いざお店をオープンするにあたって、つけ麺の店を選んだのは、当時つけ麺が人気になっていたことと、麺作り50年という達人に出会って、製麺方法を教えてもらったことが大きい。伝授された製麺技術のおかげで納得のいく麺が作れるようになり、研究を続けてきたスープと合わせて、つけ麺を提供するお店を始めた。
オープンして間もない頃は、麺は1種類だけだったが、そのうち4種類、6種類と増えていった。もっとお客さんに楽しんでほしいと、2022年に昼のつけ麺として清湯スープを登場させると、それに合わせて麺の種類はさらに増えたというわけだ。
グループや家族でお店を訪れた人が、それぞれ違う麺を注文することもある。麺は種類によってゆで時間、水でしめる時間が異なるが、同じタイミングで提供しなくてはならない。厨房内ではパズルのように作業の順番を組み立てて調理している。
日々のオペレーションが複雑さを増すのに、種類を増やしてきたのはなぜですか?と聞いてみると、「お客さんに感動していただきたいからです。おいしかったと言ってもらったり、口には出さなくてもまたお店に来てもらったりするとやりがいを感じます」と湯澤さん。
オープンから20年弱経った今でも、変り麺と和え麺は常に限定メニューとしてひと月に1度程度、新しい種類が登場する。取材時の変わり麺は、カタクチイワシを練り込んだ平麺で、粉末にしたカタクチイワシもふりかけられていて旨味がたっぷり。小麦の香ばしさにイワシの味と風味が加わっていて、スープに付けなくても味わい豊かだ。
湯澤さんには、実現したいアイデアがまだまだたくさんあるとのこと。『自家製麺つけ麺 紅葉』はこれからもおいしい新メニューで、訪れる人を楽しませてくれるだろう。
取材・撮影・文=野崎さおり