青春の味「出前」と、今こそ頼りになる「テイクアウト」

出前といえば、子供の頃(平成のはじめ)、マンションの同じ階のほかの部屋の前にどんぶりが置かれていると、すごくうらやましかったのを覚えています。

ど田舎だったので子供の頃は出前をしてくれる店もなかったなあ。

うちは一緒に住んでいる祖父母が出前や外食をしない世代だったんですよ。だから彼らが旅行中のときしか出前できず、本当憧れでした(笑)。

僕も子供だった頃(昭和40年代)は、映画やテレビドラマに出てくる出前に憧れていました。

そうです、出前は「いつかは自分も」という憧れが出発点。僕も雀荘でよく出前を取っていたけど、自宅に出前を頼んだのは社会人になってからでした。

僕も出前できるようになったのは社会人になってからですね。町中華に限らず、そば屋、寿司屋などが定番の出前でした。夕方過ぎて残業しているとみんなで取る、みたいな感じでした。

そうそう。当時は出前全般を店屋物(てんやもの)と呼んでいた。バイトしていた神保町の編集プロダクションでそば屋と中華屋「銀龍」を交互に取っていたなあ。その編プロでマグロさんと出会ったわけです。一緒に出前頼んだこともあったかもしれない。

マグロさんとトロさんにとっては青春の味なのですね。

編プロの出前わかる! 夜の飯時に納品に行くと「山出くんも頼む?」っておごってもらったなぁ

80年代は、まだまだ多くの店で出前やってましたね。

取材すると、「前はやってたんだけど」って話が多いですもんね。出前を取るのって同じ釜の飯感がある行為なんですね。店で人と一緒に食べるときにはない感覚かもしれない。

出前より店で食べるほうがそりゃあおいしいよ。味だけでいったら。

でも、会社で食べる出前もなんだか楽しかったなぁ。

そうなの、出前は楽しくてうれしいの。なんかね。

同じような年代の奴ばっかりだったから仲間感ありました。

届くまでの時間もワクワクしますね。

ラーメンを頼むとラップにびっちり水滴がついているのが、なんだか特別感があって興奮しました。

ラップにゴムかけてくるのは、たしかにスペシャルな雰囲気がある! あれを想像するだけでおなかが鳴ります。
90年代に町中華出前文化が減った理由とは?

でも、90年代に入るとピザの宅配が町中華やそば屋を脅かすようになるんだ。

ピザの宅配は大きいよね。

ピザは黒船だったね。出前という江戸時代からの伝統文化をシャレオツなものにした。

会社で出前頼むとき、だんだんピザを注文する機会が増えていったのをよく覚えています。

ピザだと何だか仲間感が出ませんねぇ。

確かに、隣の人のメニューを見て、俺もそっちにすればよかった! みたいなやり取りがないですしね。

“黒船来航”で町中華の出前が少しずつ減っていったというわけですね。

あとバブル以後は人件費の節約で、町中華でも出前スタッフを雇いきれなくなった店が多くなったと思う。

ある店は出前をやめた理由の一つに、劇場の楽屋とかに出前を持っていってたんだけど、それを見たほかの客が「俺もそれくれ」とエンドレスになってしまうということを挙げていましたね。

なるほど、単純に黒船来航だけが理由じゃないというのが興味深いですね。
出前だからこそ生まれる楽しみとドラマ

会社で頼むと、いつも同じメニューの人とチャレンジングな人で上司からの評価が分かれたりしそうです。

出前で頼むのはだいたい決まってきます。そもそも出前は保守的なものなのであります。ハンターは外に食べに行く(笑)。編プロ時代の僕は、ほぼ9割、そば屋では「おおもり」、町中華では「中華丼」しか食べてなかったと思う。

出前は保守的、なんかうなずいちゃう。

「出前でも取るか」という消極的な楽しみなんですよ。雨だし、手が離せないし、しょうがねえなって感じで。

よくよく考えたら、自分があんかけ焼きそばにハマっていったのは出前からだった気がします。出前に最適だと自分なりに考えた結果が、あんかけ焼きそばでした。

どうしてですか?

麺を食べたいけど汁アリだとのびちゃうので、焼きそば。冬なんか冷めずにいつまでも温かいから!

いいとこどりのメニューということなんですね! 熱々も保たれますしね。

町中華のあんかけは、出前でこそ生きますね!

出前といえばいまはなき神保町の「康楽」。ご主人と女将さんの出会いが出前だったね!

「康楽」さんのエピソードを上回るものはないかも!

おかみさんは雀荘を経営していて、そこに親父さんが出前に来たのが縁とおっしゃってましたね。出前にはドラマもあるんだなあ。

店の前に出前機や岡持ちのある店を見かけたらうれしくなるような出前体験を、読者の方にもしてほしいです!
実はできる店は多い? 町中華テイクアウトの魅力

出前は減ってしまいましたが、最近はテイクアウトできたり、UberEATSなどで料理を頼める町中華も多いですね。

両国の『あゆた』がいち早く出前業者を利用していて、手数料を考えたら儲からないけどそれでもやると言っていたのを覚えているなあ。

荻窪『啓ちゃん』は店に伺ったときUberEATSの注文があって、こうやってタブレットに注文くるんだと感動しながら見てました。

『啓ちゃん』は、UberEATSで頼んでみたらけっこう速く届いてびっくりしました。そして量は店頭同様に多かった! テイクアウトもやっていて人気ですね。

もともとテイクアウトをやっている店、多いですよね、町中華。浅草の『ぼたん』さんで食べているときに、チャーハンのテイクアウトしている人がいて、できるのか!って思って、以後自分もテイクアウトしてます。

テイクアウトできますと堂々言ってないところも、実はできるケース多いですね。

そうそう。食べきれなかった分を「おみや」にしてもらうとか。

出前は減ったものの、テイクアウト文化はむしろこれから見直されて増えていきそうですよね。

先日、豊洲の『万福食堂』さんのテイクアウト買いに行きました。すごいメニュー数が多くて驚き! 肉団子うまかったです。コロナ禍でテイクアウトに力を入れるお店は多く出ましたね。

戸越銀座の『百番』さんは昔から店頭で中華総菜売ってますね。いい感じです。

神楽坂『龍朋』とか、チャーハンのテイクアウトがやたらと多い。

『龍朋』さんはチャーハン注文したうえでお持ち帰り用もお願いする人多いですね。店によりテイクアウトの仕組みもいろいろなのも町中華らしい!

テイクアウトは、一人で探検しているときにも強い味方。食べ切れないけど2〜3品気になるものがあるときにけっこう利用してます。

チャーハンなどはテイクアウトして冷めても、電子レンジで温めていただくとおいしくて、やはり自分でつくるものとは違うなって感じます。

ですよね、お店で食べても、家で温め直してもおいしいメニューに出合うと、底力感じます。ちょっと食べて取っておいてまたあとでつまむという楽しみもできますし、お店だとちょっとやりづらい調味料のちょい足しもできます。

確かに、自宅で食べるゆえの面白みもあるなあ。まだ町中華テイクアウトやったことがないという人こそ、一度試していただきたい!
今回のテーマは町中華の“出前文化”と“テイクアウト”です。満を持してという感じですね。