ここ最近だけで近所に『バーガーキング』が2軒できた。これで何度目の日本侵攻だかわからないが、今回はちょっと本気っぽい。アメリカから上陸してきた『シェイクシャック』とか『クア・アイナ』も伸び悩んでいるようだし、コロナ禍のテイクアウト専門という新形態として鳴り物入りで登場した「ブルースターバーガー」なんかも、コロナが終わらないうちに全店撤退した。ハンバーガーは難しいのである。

日本にはマクドナルドとモスバーガーという二大巨頭がいるのだ。その点、ロッテリアは本当によくやっている。2022年で創業して50周年だよ。思えば遠くへ来たもんだ。「おいしさフレッシュ!」なんて歌っていたのもすっかり過去、50年といえば立派な老舗である。今でこそ随分と洗練されてしまったが、昔は子ヤギが前足で立ってる弱々しいロゴだった。筆者はヤギとかヒツジに弱い。貧弱だったあの子が、ここまで無事に育って50歳を迎えたのかと思うと勝手に泣けてきてしまう。

マックほどのメジャー感もなければ、モスほどの職人感、ファーストキッチンの垢抜け感もなければ、ドムドムほどの奇天烈さもない。

ロッテのカフェテリアで「ロッテリア」。社食と間違えかねない企業モノ感満載のチェーン店は1970年代のチェーンビジネス創成期に「森永LOVE」とか「明治サンテオレ」「グリコア」に「雪印スノーピア」なんてのもあったな。ソフトクリームの延長線上にハンバーガーがあったことを示すように、お菓子メーカーのハンバーガーが隆盛を誇る時代というのが確かにあった。しかし、みんなどこへ行ってしまったのか。現在での生き残りは、ほぼ『ロッテリア』だけ。『バーガーキング』や『ウェンディーズ』が元寇のごとく襲来しては撤退を繰り返す独自の日本バーガー市場において、『ロッテリア』は時代時代で存在感を示してきた。

今でこそ店舗数では差を付けられてしまった感はあるが、一時期はマクドナルドのライバル的なポジションにいたこともあった。マックが390円のサンキューセットを仕掛けた時に、即座にサンパチトリオを出した。がむしゃらにケンカ売ってる感じがかっこよかったなぁ。

初期を支えたエビバーガーとリブサンド。『ロッテリア』はエビだ。水上善雄の後ろ髪ぐらいの密度でエビがあった衝撃。リニューアルを繰り返し、現在は14代目とほぼ江戸幕府徳川将軍と同等だ。今ではどこのハンバーガーチェーンでもエビを見かけるが、老舗の『ロッテリア』がいちばん旨い。

そして、数々の迷走を経たのち、2007年に「絶品チーズバーガー」が発売。今の高級バーガーのはしりでもある。あれは……旨かった。心の中の有藤通世が9分間抗議に出るぐらい旨かった。さらに、「旨いけど、小さい」と意見が出るとすぐに「絶品Wチーズバーガー」を発売。その後しばらく見なかったのだが、気がついたら10段重ねぐらいのタワーになっていた。そのへんの見境のなさも“ロッテリアらしさ”といえるだろう。

まさかのゼンショーへ身売り。ロッテリアはどうなるのか

そんな『ロッテリア』が、2023年の4月1日に大政奉還、否、ゼンショーへ全株式を売却した。つまり、全戦全勝のゼンショーのハンバーガー部門に入ったのである。

2009年に約500あった店舗は2023年の時点で約350とだいぶ減らしていた。コロナで業績が落ちたということもあるだろう。街でもあまり見かけなくなっていたことも実感としてある。日本のハンバーガーチェーン第3位をもう一度復活させるべく、ゼンショーの新しい展開への期待は大きい。

その一方で「ロッテリア」という名前の処遇がどうなるか。残してほしい。だが、やはりロッテじゃないのに「ロッテリア」という疑問に耐えきれるのか……なんて寂しい気持ちになりながら、川崎アゼリアで久しぶりに『ロッテリア』を食べた。最近はチーズ使いがエグイ。「背徳300%チーズ絶品チーズバーガー」はいわずもがな、人気の「のびーるチーズスティック」なんて、延長コードなみにチーズが伸びる。人間五十年。ハンバーガーも五十年。変わるもの。現れては消えていく諸行無常。それでも、心の中の兆治さんとロッテリアは永遠の英雄だ。

われらロッテリア親衛隊。

「背徳チーズ絶品チーズバーガー」は4種類のチーズを豪快に使いすぎた『ロッテリア』の今。通常の3倍という「300%」なんてインフレバーガーも。
「背徳チーズ絶品チーズバーガー」は4種類のチーズを豪快に使いすぎた『ロッテリア』の今。通常の3倍という「300%」なんてインフレバーガーも。

【補足】
その後、ロッテリアは店舗を残しながら、渋谷、原宿、金山などで「ゼッテリア」が新展開され始める。ゼンショーだからゼッテリアかと思いきや、絶品バーガーの「ゼ」。2024年4月25日には8店舗目にして関西初上陸となる関西国際空港エアロプラザ店が開店。

文=村瀬秀信
『散歩の達人』2023年4月号より