まるでニュースアプリの具現化⁉
「人と本とのタッチポイントを作らなければと考えたのが出発点です」と話すのは、この店舗の運営を担う出版取次・日販のほんたすブランドマネージャー・南光太郎さん。駅構内は人が立ち寄りやすい好立地ゆえ、家賃が当然高い。そこにかかるコストを、完全無人にすることで賄(まかな)おうという狙いだという。
コンセプトは「ふらっと、サクっと、旬を手に。」で、1分でトレンドがわかる無人本屋を目指す。ニュースと連動した売り場は、入ってすぐの棚に各ジャンルのトピックスが揃い、店の奥に進むにつれ専門的に深掘りできるという構造になっている。ちょっとした待ち時間にスマホでニュースを見たり調べ物をしたりするのと同じような感覚で、旬な話題や商品をチェックできるというわけだ。
さらに、入店記録とカメラで滞在時間や店内での行動も把握・分析するというWeb広告の最適化に似た仕組みもおもしろい。そうして得たデータやノウハウから持続可能な運営方法を編み出し、新しい書店のビジネスモデルを創出することも目標のひとつだ。
「従来の売上情報だけでは売れたものしか分かりません。でもここでは、売れなかった本が見向きもされなかったのか、見たけど手に取らなかったのか、手に取ったけれど買わなかったのか……といったことが分かるんです」
柔軟に変化していく店舗
取材時はオープンから1カ月足らずだったが、時事系の新書が好調などビジネス街らしい傾向も見えてきた。すでに何度かレイアウトを変えていて、最初はすべて面陳だったが「探す楽しみ」も必要なのだと気づいて棚差しを増やした。次は棚を少し高くして、より在庫を増やす予定だという。
「ネットとの一番の違いは出会いの幅。別のジャンルの発見もあるリアル書店の強みも活かしたい」
無人書店とだけ聞くと、人間味のない機械的な印象を受けるかもしれない。でもその実は、デジタル技術とアナログな魅力が融合した不思議な空間であり、書店の未来のために試行錯誤する熱いチャレンジの場でもある。もしかすると、私たちはここで革命の第一歩を目撃しているのかもしれない。
取材・文=中村こより 撮影=鈴木愛子
『散歩の達人』2023年12月号より