貝を使った塩を軸に、メニューを展開
春は街路樹の桜に彩られる千川通りを、江古田駅からなら歩いて11分、桜台駅からだと4分。きりりとした白いのれんが目印の小さな店が、淡麗系旨塩ラーメンで有名な『美志満』だ。
開店当初のメニューは塩味一本。味の骨格を作るのはホタテ貝やイタヤ貝などの魚介類だ。これに3種の塩と白醤油、昆布、干し椎茸などを配合した塩ダレと、豚ガラからとる透明なスープと合わせることで、貝の旨味が凝縮した深い味わいとなる。
ラーメン激戦区といわれる江古田では後発の店ではあったものの、この塩ラーメンと、程なく提供が始まった煮干しスープの「魚介塩らぁ麺」の2枚看板で人気を確固たるものにした。塩ラーメンの種類が増えたことにより、当初「塩らぁ麺」としていた名称は変更され、「創業の塩らぁ麺」となっている。
限定だった「鶏出汁らぁ麺」が定番メニューとなり、塩ラーメンだけで3種類に
限定メニューとして提供してきた「鶏出汁らぁ麺」。豚、魚介に続く、3つ目の塩ラーメンとして定番メニューになったきっかけは、コロナ禍の短縮営業だった。「時間ができたので」と店主は軽く話すものの、3つの塩と鶏出汁のみ提供する醤油味をあわせて定番が4つ、さらに限定を合わせると常時4〜5種を提供することになった。営業時間が戻った現在もメニュー数はそのままだ。ワンオペということを考えると、毎日の作業はかなり大変なのは間違いない。
ラーメン店を始める前、ホテルで中国料理のシェフを勤めてきたという店主は下ごしらえもとても丁寧。「鶏出汁らぁ麺」のスープは、親鶏の丸鶏、鶏ガラ、鶏ひき肉を加えて炊き上げる。透明ですっきりとした繊細な味を出すため、もくもくと作業する姿が印象的だ。
麺はすべて三河屋製麺。「創業の塩」には中太平打ち麺、「魚介塩」には中細ストレート麺、そして「鶏出汁」にはしなやかな細ストレート麺と、スープに合わせてセレクトしている。
ふわりと香る鶏油がたまらない一杯
白い丼に映える透き通った黄金色のスープの上に、青菜とバラ海苔、ネギ、鶏チャーシュー、そして味玉がのる。ふわりと立ち上る湯気を浴びながら、まずはスープを一口。うーーーーーーーーーーん、うまい……。ガツンとジャンキーなラーメンと違い、じわり、じわりと湧き上がってくるおいしさだ。
細めのストレート麺は、なめらかでもちっとしなやかな口当たり。さらりとしたスープとの相性が抜群だ。特筆すべきは塩味淡麗系なのに、物足りなさを感じさせないこと。魚介と干し椎茸の入った塩ダレと鶏出汁が織りなすスープには奥深さがあり、また、若鶏からとった油がコクを与えている。メニューによって、若鶏の油と親鶏の油を使い分ける細やかさがこの店の特徴だ。
驚くほどやわらか!!! 鶏チャーシュー
うわっ!とびっくりしたのがチャーシューだ。溶けてしまうようなやわらかさではなく、かみごたえや弾力はありながら、ふんわりととてもやわらかい。低温調理にプラスアルファの工夫、そして繊維を断つようにして切ることで、ここまでやわらかくなるそう。むね肉ともも肉の2種がのってくるので味の違いも楽しめる。
全部飲み干してしまいそうだけど……
ついつい飲んでしまうあと引くおいしさのスープ。このまま飲み干してもいいけれど、ライスとともにフィニッシュするのもオススメだ。「〆の小ライス」200円なら粒アラレとバラ海苔がついてくるので、残ったスープをさらりとお茶漬け風に楽しめる。「一番、スープを残らず飲んでもらえるのが鶏出汁らぁ麺ですね」と店主がいうのも納得。このスープは残したくないもんなあ……。
三島市の花である桜と現在地の桜台
店には桜のモチーフがちらほら。冒頭に書いたように店の前は桜の並木道で、店の場所が桜台なので桜のモチーフなのかと思いきや、そうではなかった。店主の出身地である三島市の花が桜だという。看板やTシャツ、のれんの文字など、店内には店主自らが作ったものであふれ、壁には三嶋大社の大きなポスター。店と郷土へのあたたかな愛情を感じる。これからも工夫を凝らしたメニューと店づくりが楽しみだ。
取材・⽂・撮影=ミヤウチマサコ