『麻生珈琲店 市川本店』はJR市川駅から徒歩7分。
『麻生珈琲店 市川本店』はJR市川駅から徒歩7分。

創業者の麻生洋央さんがコーヒーに目覚めたのは、まだ中学生の時。ある日、親戚のおじさんが、家にコーヒー豆を持ってきて淹れてくれた。それがあまりにおいしくて感動したのがきっかけだった。まだ家庭ではインスタントコーヒーが主流だった時代の話である。

コーヒーに魅了され、輸入されたコーヒー豆をもらいに港へ通った。すべて独学で学び『麻生珈琲店』をオープンしたのが24歳の時だ。

こだわりは“煎りたて”“挽きたて”“淹れたて”

注文してから豆を挽き、一杯ずつ丁寧にハンドドリップで淹れられる。
注文してから豆を挽き、一杯ずつ丁寧にハンドドリップで淹れられる。

『麻生珈琲店』では、自家焙煎にこだわり、昭和47年の創業からずっと“煎りたて”“挽きたて”“淹れたて”の“三立て”を守り抜いている。店舗には2つの焙煎機があるが、なんと麻生珈琲オリジナルの特注の焙煎機だ。

限られたスペースに収納するため一般にはない特殊な形になっている。たまたま訪れた焙煎機メーカーの人が見て驚いたという。
限られたスペースに収納するため一般にはない特殊な形になっている。たまたま訪れた焙煎機メーカーの人が見て驚いたという。

洋央さんの息子であり、代表取締役の麻生国岐さんはこう語る。

「当時はまだ、国内で流通している焙煎機が少なかったんです。製造されていた焙煎機の中には、サイズや用途など父が求めているものはありませんでした。そこで、知り合いの工場に発注して作ってもらったそうです。だからブランドロゴも何も入っていませんが、父が思い描いた理想の焙煎機になっています」

里帰りカップや幻の珈琲に出会える

店内の壁一面に飾られた里帰りカップは圧巻。
店内の壁一面に飾られた里帰りカップは圧巻。

麻生珈琲店の店内には、アンティークの食器がディスプレイされている。実はこれも、洋央さんのコレクションの一部である。

「もともと、コーヒーは嗜好品ではなく薬用として飲まれていたそうです。だから、一番古いカップはお猪口みたいに小さいんですよ」

国岐さんが、店内に飾られている1659年のカップを指差し説明してくれた。

「ここにあるのは、すべて日本で作られた輸出用のコーヒーカップです。江戸中期から明治、大正にかけてつくられていました。父が海外で買い付けたり、オークションで手に入れたりして、4000脚ほどのコレクションがあります。里帰りカップと呼んでいるのですが、こうしてカップを見ているとコーヒーの歴史がわかるんです」

フィルターでこさずに煮出してつくるトルココーヒー800円は、コーヒー本来の甘さを感じる至極の逸品だ。
フィルターでこさずに煮出してつくるトルココーヒー800円は、コーヒー本来の甘さを感じる至極の逸品だ。

ディスプレイに一冊の本が飾られてた。タイトルは『まぼろしの珈琲―サリサリコーヒー・ハロハロライフ』。著者は洋央さんだ。

「僕が生まれた直後ぐらいの話なんですが、日本兵がフィリピンに残留して、そこでコーヒー農園を開いているという噂を父が聞いたそうです。そうなるともう、探さずにはいられない。当時はすでに『麻生珈琲店』をやっていたんですけれど、店はスタッフに任せてフィリピンまで探しに行って。その時の話を書籍で残したのがこの本です」

麻生珈琲店』では、この地域に最も近いフィリピンルソン島で収穫される稀少なコーヒー豆、フィリピンコルディリエーラも味わえる。

“三立て”のコーヒーに手作りのアイスクリームをのせて

店内のアンティーク家具や照明など、昭和レトロな雰囲気が心地よい。
店内のアンティーク家具や照明など、昭和レトロな雰囲気が心地よい。

コーヒーフロート700円とレモンパウンドケーキ450円をいただいた。目の前で丁寧に淹れられたコーヒーは苦味と甘味をしっかり感じられ、すっきりと飲みやすい。

コーヒーの上には、ゴロンとまんまるい自家製のバニラアイスがのっている。この姿がなんとも昭和レトロな雰囲気でフォトジェニックである。なんと、コーヒーにのっているこのアイスクリームも洋央さんの手作りだという。

「父はこだわり出すと、とことんまでやらないと気が済まないんです。アイスクリームも独学で自分がおいしいと思うものを見つけるまで、試行錯誤して納得のいくレシピを見つけました。このアイスの作り方を教えて欲しいと頼まれて、中国上海まで教えに行ったこともあるんです」

レモンパウンドケーキは、しっとりとした生地とさっくりとした外側の食感、ふわふわの無糖ホイップのバランスが絶妙だ。添えられたレモンソースが甘酸っぱくフレッシュで、思わず笑顔になる。

コーヒーだけでなく紅茶や中国茶にもこだわっている。インド風マサラチャイ700円は、カルダモンやシナモンを効かせたスパイシーで甘く濃厚なインド風のミルクティー。ほっとする優しい味わいだ。
コーヒーだけでなく紅茶や中国茶にもこだわっている。インド風マサラチャイ700円は、カルダモンやシナモンを効かせたスパイシーで甘く濃厚なインド風のミルクティー。ほっとする優しい味わいだ。

お店の歴史を守りながら新しいものを取り入れていきたい

お話を伺った麻生国岐さんと妻・佳子さん。
お話を伺った麻生国岐さんと妻・佳子さん。

「『麻生珈琲店』は、父がつくった部分がとても大きいものがあると思っています。それを大事に、今まで支えてくださった常連さんや地域のみなさんに教えていただきながら、新しいものを取り入れていきたいと考えています」

ランチやディナーで提供しているアメリカンサイズのハンバーガーは、国岐さん考案のオリジナルだ。留学していた時に食べたローカルショップのハンバーガーの味を目指した。

「ハンバーガーといえばお肉はもちろん大事なんですけど、肉や野菜を挟むパンが同じくらい重要なんです。お肉や野菜の水分に耐えられるセミハードタイプのパンで、外側がフランスパンのようにちょっと硬くて、中はふわふわもちもちとしたパンをずっと探していました」

ようやく見つけたのが、横浜の『ブルー・コーナー』だった。ハンバーガーにぴったりの大きくてしっかりしたパンを、特注で焼いてもらっているという。創業者である父親のこだわりを引き継いでいるのを感じるエピソードだ。

「古いところと新しいところ、両方を楽しんでいただきながら、長く続けていけるお店に育てていきたいですね」

開店当初に『麻生珈琲店 』で実際に使っていたエスプレッソマシーン。今では見ることのないドーム型のフォルムが印象的だ。
開店当初に『麻生珈琲店 』で実際に使っていたエスプレッソマシーン。今では見ることのないドーム型のフォルムが印象的だ。
住所: 千葉県市川市新田4−17−9
/営業時間:12:00~21:00/定休日:水/アクセス: JR総武線市川駅から徒歩7分

取材・文・撮影=村田幸音