女性が入りやすい店内で提供する新しいランチメニュー
中目黒駅から徒歩2分の距離にある焼き鳥がメインの店『炭火焼MARU』。暖簾(のれん)をくぐって半地下の店内に入ると焼き鳥の店としては明るく、照明にもこだわりがあるようで、さすが中目黒のお店という内装。女性客も気兼ねなく入れる雰囲気だ。
メイン食材に使っているのは、熊本の地鶏、天草大王だ。九州で水炊きに珍重されてきたが、なんと昭和初期に一度絶滅。のちに関係者の努力で復活したことから幻の地鶏ともいわれている。
2013年オープン時から天草大王の焼き鳥をメインとする『炭火焼MARU』。2023年からランチタイムに提供を始めたのが鶏そばだ。コロナ禍に停止していたランチ営業再開にあたって、新たな名物メニューにしたいと開発した。
「世の中の変化に比較的強い麺類と、ずっと使っている地鶏の天草大王を組み合わせたメニューとして鶏そばを考えました」
店主の丸尾真佐樹さんが天草大王と出合ったのは20代前半。修業先で扱っていたのは、貴重なブランド地鶏として有名な秋田の比内地鶏だった。その味に魅せられていつか自分の店でも比内地鶏を使いたいと考えていたが、比内地鶏は希望したら扱えるものではないと知った。困惑していたころ、味に衝撃を受けたのが天草大王の水炊きだった。熊本まで生産者に会いに行って、「日本中に広めたい」と話し、取り扱えることになったのだとか。
その天草大王だが、ここ数年話題のラーメン店が複数取り入れている。丸尾さんもせっかく長く使ってきた天草大王をもっと生かそうとラーメンに行き着いた。ラーメン店での修行経験はないため、スタッフや家族といくつものラーメン店を食べ歩き、飲食業界の友人たちからもアドバイスを受けながら研究。そして、2023年2年から鶏そばの提供を開始し、その後も継続してブラッシュアップしてきている。
スープは丸鶏1羽と鶏ガラをニンニクと生姜と一緒に圧力鍋で長時間煮込んで白濁させている。そこに自家製の昆布塩で作った塩だれを加えているのが鶏そば塩だ。
「天草大王は脂の旨さも大きな特徴です。鶏そばのスープには内臓から採れる鶏油を入れています。ラーメンに欠かせない、いい雑味になってくれています」
しっかり味わいたいのが鶏チャーシューだ。使っているのはもちろん天草大王で、部位は胸肉。ブライン液に1日漬け込んでからオリーブオイルと一緒に真空低温調理して仕上げている。もともと弾力ある肉質に絶妙に火が入ったものを、薄く削ぎ切りにしていて鶏肉らしからぬ歯応えがある。
鶏そば作りは今も試行錯誤。油分で冷めにくいスープにあった麺を今も探している。
「ラーメンは同じ一杯について好みが180度分かれることもある。まさに十人十色です。そこがおもしろいと思っています」と丸尾さん。焼き鳥よりも、少しずつ変化を加えられる点も魅力に感じているそうだ。
厳選した材料で作る、卵とろとろの親子丼
『炭火焼MARU』には、もうひとつ名物メニューがある。それが“中目黒の飲めるほどうまい親子丼”というキャッチフレーズを掲げる親子丼だ。鶏そばが誕生する前は、ランチタイムは親子丼がメインだった。
ランチの主役は鶏そばに交代したが、セットで頼めるミニ親子丼。もちろん鶏肉は天草大王だ。皮目を炭で焼いてから切ったものが使われる。卵は徳島から仕入れている濃密たむらの卵を使用。黄身の赤みが強く味も濃い特徴がある。出汁にも鶏のスープを使い、天草大王との相性を考えて熊本の醤油を使っている。米は丸尾さんが「めちゃくちゃうまいっす」と太鼓判を押す茨城産のいのちの壱というブランド米。
ずいぶんと贅沢な親子丼は、トロッと半熟の卵に濃い目の割下の味がご飯に染み込んでいうことなし。天草大王の弾力や旨味の強さにもびっくりする。
「天草大王は脂と皮がおいしいので、焼き鳥で食べるときはぼんじりがおすすめですよ」と丸尾さん。鶏そばとミニ親子丼で、天草大王の魅力を知ったら、夜にも訪れたくなってしまいそうだ。
取材・撮影・文=野崎さおり